翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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夏めく

お祭り

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 次の日も、また次の日も。
 翔の散歩に付き合い、田舎道を歩いていた静華と奏多。

 同じ道を歩き、公園へ向かい弥狐と遊ぶ。
 その時、弥狐が一つの提案をした。

「え、お祭り?」

『そうだ。ちょうど、明日から紅城神社で神社祭りが開催されるらしい。人が沢山集まり、賑やかで楽しそうなんだ』

 目を輝かせながら、静華と奏多に訴えるようにお祭りの話を始めた。

 ――――これは、私達に連れて行けって事かな。

 奏多に確認するため横目で見ると目が合い、静華の意図を組み代わりに問いかけた。

「連れて行ってほしいのはわかった。翔も毎年、おばさんと行っているみたいだし、俺は構わない。だが、弥狐は人間に触れられないんだろう? さすがに危険じゃないか?」

 お祭りは人の集まる場。
 誤ってぶつかってしまったら終わりだ。

『それに関しては問題ないぞ。我は、今の姿で人に触れると危ないだけで、狐の姿の場合は問題ない』

 言いながら弥狐は、その場にジャンプ。
 風が巻き起こり、弥狐を包み込んでしまった。

 地面に足が付いたのと同時に、人の足ではなくなる。
 その場にいた二人は驚愕。翔だけは感動したように、輝かしい笑顔を向けていた。

「きつねだぁぁぁぁ!!」

 翔が叫んだように、弥狐が銀髪の少年の姿から、茶色の狐へと姿が変わる。

 目は朱色、尾の先はグラデーションのように銀色に変わっている。
 毛並みはキラキラと輝き、さらさら。

 見た目はただの狐のはずなのに、纏っている空気は変わらず澄んでいる。

「ま、まさか、嘘だろ? お前、弥狐、か?」

『そうだ。これが本来の姿なのだ』

 頭に直接言葉が届く。だが、不快ではない。
 鈴の音のような美しい声に、思わず隣に立っている奏多を見上げた。

 すると、彼も静華を見ており目がある。
 困惑したままお互い見つめ合っていると、弥狐が悲し気に言葉を伝えた。

『驚かせて済まない。この姿だと人に触れても問題はないということを伝えたかったのだ』

『ほれ』と言うように、翔の手を頭に乗せた。
 ふわふわで、さらさら。

 翔は、目を輝かせたまま狐姿の弥狐に抱き着いた。

「かわいいーー!!!」

『グエッ!』

 ちょうど首を絞めてしまったらしく、変な声が脳に直接届く。
 ジタバタと逃れようとしている弥狐を目にし、静華と奏多は思わず笑ってしまった。

『笑っておらんで助けろ! 苦しいぞ!』

「はいはい」

 静華がお腹を支え笑っている中、奏多は涙を拭きながらも翔を抱き上げ弥狐を救う。
 ふてくされたように頬を膨らませていたが、頭を撫でてあげると落ち着いた。

 地面に下ろすと、また抱き着こうとしてしまったため、奏多は仕方がないというように、再度抱きかかえる。

「もしかしてだが、その姿でお祭りを回るつもりか?」

『名案だろう?』

 自信満々に言い切った弥狐だったが、奏多は苦笑い。
「えぇっと」と、言いにくそうに目を逸らした。

「おそらくだが、狐が神社内を歩いていたら、普通につまみ出されると思うぞ?」

『な、なんだと!? なぜだ!!』

「いや、だって。お祭の屋台は、ほとんどが食べ物。さすがに衛生上よろしくはない。それに、野生の狐はこの田舎だったら沢山いる。対策もしてしまっているだろう」

 奏多の言い分に、弥狐は顔面蒼白。
 お祭りを楽しむことが出来ると思っていたため、ショックがでかいらしい。

『そんな、そんな……。我は、やっと、楽しめると…………』

 狐姿のはずなのに、泣きそうな顔をしているのがわかり、奏多と静華は心が抉られる。

 どうにか出来ないかと考えたが、やはり神社に狐を連れ込むのはリスクが大きく、いい案が出てこない。

「最悪、動物籠に入れて持ち運ぶしか…………」

『我は猫や犬じゃないぞ! 籠に入るなど愚の骨頂。絶対に断る!』

 威嚇するように毛を逆立て、奏多の意見を却下。
「だろうな」と、別の方法を思案。だが、思いつかず、眉間に深い皺を寄せてしまった。

「うーん。どんな方法を考えても、私達が出来る方法は限られているし、難しいと思うよ?」

 静華が諦めた方がいいと伝えると、弥狐は少年の姿に戻り顔を俯かせた。
 横に下ろしている手で拳を作り、悲しげに重い口を開く。

『ずっと、羨ましかったのだ。人間世界のお祭りが、ずっと』

 ぼそぼそと呟く弥狐。
 静華は近づき、触れないように気を付けながら弥狐の前に膝を突き座った。

『ずっと、外から見ているだけだったのだ。輝かしい提灯、子供の笑い声。美味しそうな食べ物、カラフルな飲み物。歩いている人間全てが笑っており、楽しそうだった』

 弥狐の言葉に、静華は小さく頷き続きを促す。

『まざりたい、共に遊びたい。だが、我が声をかけると皆、離れてしまう。怖がってしまい、誰も我とは遊んではくれない。そんな我にとってお祭りは、夢の世界だった』

 ――――そっか。弥狐はただ、遊びたかっただけなんだ。

 誰かと遊ぶことも、話す事さえできやしない。
 静華は胸が締め付けられる感覚に目を閉じ、ギュッと自身の服を掴んだ。

 その時、会社での自分の姿が脳裏に浮かぶ。
 ずっと一人でパソコンを操作し、頼まれた仕事をただただこなすだけのロボット。

 誰も話しを聞いてくれない。
 自分と関わると仕事が増えると勝手に思い込まれ、仕事を頼む以外では近づいてすら来ない。

 ずっと、一人。ずっと、孤独。
 寂しかった、辛かった。
 話しだけでも、聞いてほしかった。

 今の弥狐は、会社にいた時の私だ、と。
 静華は目を薄く開け、弥狐を温かい瞳で見つめた。

「それなら、一緒にお祭りを
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