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夏めく
素直
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楽しそうに笑いながら遊んでいる弥狐と翔を見て、静華は口元に笑みを浮かべる。
奏多はさっきまでの静華の様子が気になり、横目で見た。
「なぁ、静華」
「え、なに?」
「やっぱり、何か隠しているだろう。何を隠している?」
聞くと、静華は体を強ばらせた。
目を伏せ、奏多から視線を逸らし、口を閉ざし続ける。
「…………いや、なにもっ――……」
顔を上げまたしても誤魔化そうとしたが、奏多の真剣な表情を見て、言葉が止まる。
――――本気で、心配してくれている。
本気で心配してくれている奏多に嘘を吐いていいのだろうかと、静華はまたしても口を閉ざし俯いた。
都会での暮らし、奏多への嫉妬心。
これを話してもいいのか、静華には分からない。
――――やっぱり、話すと今以上に心配させてしまう。
やめておこうと決め再度、静華は奏多を見上げ口を開く。
そんな時、何故か突如、鈴の音と共に昨日の弥狐の言葉を思い出した。
「…………昨日、夜、弥狐君が私の部屋に来た……夢を見たの。夢かどうか、わからないけど」
「え、弥狐が?」
言うと、奏多は翔と遊んでいる弥狐を見た。
今は翔がブランコで遊び、隣で弥狐が落ちないように見ている姿。傍から見れば、ただの子供達の遊び。
「……何もされなかったか?」
「うん。ただ、アドバイスみたいなことは言われた」
「アドバイス?」
「”何があっても、自分に素直になるのだぞ”って」
言われた言葉を伝えると、奏多は言葉の意味を考える。
だが、そのままの意味でしか分からず、首を傾げてしまった。
「なんか、意味のある言葉なような気もするけど、何だろうな」
「わからない。私、結構素直だと思うんだけど」
「それはないな」
「えっ、え?」
まさかの返答に、静華は呆けてしまった。
「今回の話もそうだが、田舎に戻ってくると言う決断をした理由を聞いていない」
「そ、それは、その……。えっと、それは、素直じゃないとか関係ないでしょ?」
なんとか否定しようとするが、奏多の目は疑いそのもの。
ジィ~と見られてしまい、目を逸らしても視線を感じ冷や汗を流す。
――――これは、話さないと解放されない感じだ。でも、話すのはちょっと……
さっき、話すわけにはいかないと思ったのに、またしても静華は悩む。
逃げ道を封じ込められているような感覚に、焦りが募り始めた。
言葉もまとまらなければ、喉が乾き掠れた声しか出ない。
それでも、何か言わなければと静華は声にならない声を出す。
奏多は、静華の微かに出た声と、震えている体を見て、これ以上は聞けないと思い、彼女の頭に手を乗せた。
「…………悪かった」
「…………いえ、こちらこそ」
――――結局、私はどこまでも弱虫だ。逃げてばかりで、前に進もうとしない。
後悔の念が胸に渦巻き、静華の冷や汗は止まらない。
「静華、もし話せるようになったら、その時は話してくれ。待ってっから」
静華の頭を撫でていた手を下ろし、震えている拳に伸ばす。
優しく開いてあげ、大きな手で包み込んだ。
「──っ!」
思わず下げていた顔を上げると、目の前には奏多の顔。
呼吸が一瞬止まり、心臓が跳ね上がる。
二人の視線が絡み合い、逸らせない。
静華の心臓が耳元で鳴っているのかと思うほどに大きく、奏多の大きな手に包まれている自身の手は、じんわりと温もりが伝わり暖かくなる。
今の時間が数秒しか経っていないのか。
それとも、数分経ったのか。静華には分からない。
奏多は、スっと静華の手を離し、視線を翔達へと向けた。
その表情は、さながら子を見守る兄。
優し気であり、微笑ましそうに二人を見ている奏多を見て、静華の波打っていた心臓が徐々に落ち着き始めた。
冷や汗も止まり、声も普通に出る。
先程までの焦りは何だったのか、何故あそこまで焦ってしまったのか。今の静華にはわからない。
わからないが、奏多の言葉と行動で落ち着きを取り戻したのだけは理解出来た。
――――また、話そうとすると、多分話せない。でも、いつかは言いたい。伝えたい。
今は伝えられないとわかっている為、静華は拳を握り、奏多を見上げた。
いきなり見上げられ、奏多は数回瞬きをする。
「――い、今は話せない、けど。でも、いつかは、話したい。聞いてほしい。それまで、待っていてくれる?」
緊張の声音で聞くと、横目で静華を見て奏多は微笑みを浮かべた。
「もちろんだ」
「あ、ありがとう!」
二人はお互いの顔を見て、笑い合う。
そんな二人を見て、弥狐は朱色の瞳をキラキラと輝かせ、口角を上げた。
『素直な気持ち、第一歩』
ボソッと呟くと、ブランコで遊んでいた翔が首を傾げた。
「何か言った?」
『――いや、なんでもない』
「? わかった!」
奏多はさっきまでの静華の様子が気になり、横目で見た。
「なぁ、静華」
「え、なに?」
「やっぱり、何か隠しているだろう。何を隠している?」
聞くと、静華は体を強ばらせた。
目を伏せ、奏多から視線を逸らし、口を閉ざし続ける。
「…………いや、なにもっ――……」
顔を上げまたしても誤魔化そうとしたが、奏多の真剣な表情を見て、言葉が止まる。
――――本気で、心配してくれている。
本気で心配してくれている奏多に嘘を吐いていいのだろうかと、静華はまたしても口を閉ざし俯いた。
都会での暮らし、奏多への嫉妬心。
これを話してもいいのか、静華には分からない。
――――やっぱり、話すと今以上に心配させてしまう。
やめておこうと決め再度、静華は奏多を見上げ口を開く。
そんな時、何故か突如、鈴の音と共に昨日の弥狐の言葉を思い出した。
「…………昨日、夜、弥狐君が私の部屋に来た……夢を見たの。夢かどうか、わからないけど」
「え、弥狐が?」
言うと、奏多は翔と遊んでいる弥狐を見た。
今は翔がブランコで遊び、隣で弥狐が落ちないように見ている姿。傍から見れば、ただの子供達の遊び。
「……何もされなかったか?」
「うん。ただ、アドバイスみたいなことは言われた」
「アドバイス?」
「”何があっても、自分に素直になるのだぞ”って」
言われた言葉を伝えると、奏多は言葉の意味を考える。
だが、そのままの意味でしか分からず、首を傾げてしまった。
「なんか、意味のある言葉なような気もするけど、何だろうな」
「わからない。私、結構素直だと思うんだけど」
「それはないな」
「えっ、え?」
まさかの返答に、静華は呆けてしまった。
「今回の話もそうだが、田舎に戻ってくると言う決断をした理由を聞いていない」
「そ、それは、その……。えっと、それは、素直じゃないとか関係ないでしょ?」
なんとか否定しようとするが、奏多の目は疑いそのもの。
ジィ~と見られてしまい、目を逸らしても視線を感じ冷や汗を流す。
――――これは、話さないと解放されない感じだ。でも、話すのはちょっと……
さっき、話すわけにはいかないと思ったのに、またしても静華は悩む。
逃げ道を封じ込められているような感覚に、焦りが募り始めた。
言葉もまとまらなければ、喉が乾き掠れた声しか出ない。
それでも、何か言わなければと静華は声にならない声を出す。
奏多は、静華の微かに出た声と、震えている体を見て、これ以上は聞けないと思い、彼女の頭に手を乗せた。
「…………悪かった」
「…………いえ、こちらこそ」
――――結局、私はどこまでも弱虫だ。逃げてばかりで、前に進もうとしない。
後悔の念が胸に渦巻き、静華の冷や汗は止まらない。
「静華、もし話せるようになったら、その時は話してくれ。待ってっから」
静華の頭を撫でていた手を下ろし、震えている拳に伸ばす。
優しく開いてあげ、大きな手で包み込んだ。
「──っ!」
思わず下げていた顔を上げると、目の前には奏多の顔。
呼吸が一瞬止まり、心臓が跳ね上がる。
二人の視線が絡み合い、逸らせない。
静華の心臓が耳元で鳴っているのかと思うほどに大きく、奏多の大きな手に包まれている自身の手は、じんわりと温もりが伝わり暖かくなる。
今の時間が数秒しか経っていないのか。
それとも、数分経ったのか。静華には分からない。
奏多は、スっと静華の手を離し、視線を翔達へと向けた。
その表情は、さながら子を見守る兄。
優し気であり、微笑ましそうに二人を見ている奏多を見て、静華の波打っていた心臓が徐々に落ち着き始めた。
冷や汗も止まり、声も普通に出る。
先程までの焦りは何だったのか、何故あそこまで焦ってしまったのか。今の静華にはわからない。
わからないが、奏多の言葉と行動で落ち着きを取り戻したのだけは理解出来た。
――――また、話そうとすると、多分話せない。でも、いつかは言いたい。伝えたい。
今は伝えられないとわかっている為、静華は拳を握り、奏多を見上げた。
いきなり見上げられ、奏多は数回瞬きをする。
「――い、今は話せない、けど。でも、いつかは、話したい。聞いてほしい。それまで、待っていてくれる?」
緊張の声音で聞くと、横目で静華を見て奏多は微笑みを浮かべた。
「もちろんだ」
「あ、ありがとう!」
二人はお互いの顔を見て、笑い合う。
そんな二人を見て、弥狐は朱色の瞳をキラキラと輝かせ、口角を上げた。
『素直な気持ち、第一歩』
ボソッと呟くと、ブランコで遊んでいた翔が首を傾げた。
「何か言った?」
『――いや、なんでもない』
「? わかった!」
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