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夏めく
狐
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静華は夜、寝る前の時間は小説を読むことに決めた。
狐の表紙の小説はもう読み終わり、今は違う小説を読んでいる。
――――ペラ ペラ
静かな空間に、ページをめくる音だけが響く。
「――――はぁ」
一時間以上ずっと読み進めていたため、さすがに目が疲れ本にしおりを挟みパタンと閉じる。
後ろに両手を突き、天井を仰ぎ見た。
――――こんな事していていいのだろうか。何も、しなくてもいいのだろうか。
今まで、こんなに時間を持て余す事なんてなかった。
都会に出てからは、仕事仕事の毎日。休む暇もなく、寝る時間すら確保するのが大変だった。
それが苦しくて、何もしなくていい時間が欲しいと常に思っていた。
そのはずなのに、いざそんな時間が訪れると、気持ちが勝手に焦ってしまう。
自問自答が頭の中で繰り返され、逆に落ち着かない。
何かしていないと、自分で自分を追い込んでしまって苦しい。
でも、小説を読むのも、楽しいとはいえ疲れてしまう。
他にやりたい事はない。
「――――寝るかな」
今は夜中、寝静まっている時間。
もう、いつでも寝れるように準備していた布団を見て、膝で近づく。
布団の中に入ろうと掛布団を掴み、足を片方入れる。
だが、そこで動きは止まった。
――――今、布団に入ったところで、寝れそうにないな。
目が冴えてしまって寝れない。
だが、起きていても何もすることはない。
何もしない時間は、自分で自分を勝手に責めてしまい落ち着かず、逆に疲れる。
何もしなくても、小説を読んでいても。
どっちにしろ疲れるのなら、小説でも読もうかなと、そう思った時だった。
――――コーーーン
外から、動物の鳴き声が聞こえ、静華は襖へ視線を向けた。
「さっきの鳴き声、狐?」
――――田舎だから、狐がいてもおかしくはないけど……。
最初は見ているだけだった静華だったが、ウズウズと気になってしまい、布団から出て襖を開けてみる。
外から降り注ぐのは、月光。
星空を見上げると、大きな月。きらきらと、月明りを反射する水たまり。夜にも関わらず明るい廊下。
思わず目が奪われる光景に呆けてしまったが、すぐに違和感を感じ思考が止まった。
「…………こ、ども?」
窓の奥、庭には一人の銀髪の少年が、目元を長い前髪で隠し立っていた。
微かに見える口元には笑みが浮かび、風で白い狩衣のような服が揺れていた。
雰囲気がただの子供ではない。
それは、一目見ただけでもすぐにわかる。
静かで、澄んでいるような空気を纏っている子供。
目が離せず、立ち尽くしてしまう。
――――気になる、目を離せない。
静華が立ち尽くしていると、子供がやっと口を開いた。
『お姉さん、我と遊んでくれないか?』
首を横に傾けると、広い袖についている鈴が、体の動きに合わせチリンと鳴る。
――――女性ほどではないけど、高い、子供特有の声。でも、翔君とはまた違う、透き通るような声だ。
声をかけられても動くことが出来ない、声を出すことが出来ない。
チリン、チリンと鈴を鳴らしながら子供が近づいてくる。
それでも、静華は動けない。
静華と子供の間には、窓という壁がある。
中には入ってこれない。
硝子に手を伸ばし、子供が手を添える。
見上げられた時に微かに見えたのは、朱色の瞳。
月光のように儚く、それでいて力強い。
瞳に映る静華の表情は、恐怖と困惑が混じったような顔だった。
異世界から迷い込んできたように美しい子供を目の前に、静華は一歩、後ろに下がる。
だが、足がうまく上がらず、何もない所で躓いてしまった。
「きゃっ!!」
転ぶ、そう思い衝撃に備え、目を閉じる。
だが、いつまでたっても衝撃は来ない。それどころか、背中にはもふっとした感覚。
目を開けると、窓の外にいた子供がいなくなっていた。
元々、そこには誰もいなかった、そう思わせるほど痕跡がない。
――――さっきのは、いったいなんなの?
頭が回らず、唖然。
ここで座っていても仕方がないと、静華は立ち上がるため体を横に傾けた。
その時、視界には映るはずのない動物が立っており、思わず大きな声を出してしまった。
「き、きつねぇぇぇぇぇぇええええ!?!?」静華は夜、寝る前の時間は小説を読むことに決めた。
狐の表紙の小説はもう読み終わり、今は違う小説を読んでいる。
――――ペラ ペラ
静かな空間に、ページをめくる音だけが響く。
「――――はぁ」
一時間以上ずっと読み進めていたため、さすがに目が疲れ本にしおりを挟みパタンと閉じる。
後ろに両手を突き、天井を仰ぎ見た。
――――こんな事していていいのだろうか。何も、しなくてもいいのだろうか。
今まで、こんなに時間を持て余す事なんてなかった。
都会に出てからは、仕事仕事の毎日。休む暇もなく、寝る時間すら確保するのが大変だった。
それが苦しくて、何もしなくていい時間が欲しいと常に思っていた。
そのはずなのに、いざそんな時間が訪れると、気持ちが勝手に焦ってしまう。
自問自答が頭の中で繰り返され、逆に落ち着かない。
何かしていないと、自分で自分を追い込んでしまって苦しい。
でも、小説を読むのも、楽しいとはいえ疲れてしまう。
他にやりたい事はない。
「――――寝るかな」
今は夜中、寝静まっている時間。
もう、いつでも寝れるように準備していた布団を見て、膝で近づく。
布団の中に入ろうと掛布団を掴み、足を片方入れる。
だが、そこで動きは止まった。
――――今、布団に入ったところで、寝れそうにないな。
目が冴えてしまって寝れない。
だが、起きていても何もすることはない。
何もしない時間は、自分で自分を勝手に責めてしまい落ち着かず、逆に疲れる。
何もしなくても、小説を読んでいても。
どっちにしろ疲れるのなら、小説でも読もうかなと、そう思った時だった。
――――コーーーン
外から、動物の鳴き声が聞こえ、静華は襖へ視線を向けた。
「さっきの鳴き声、狐?」
――――田舎だから、狐がいてもおかしくはないけど……。
最初は見ているだけだった静華だったが、ウズウズと気になってしまい、布団から出て襖を開けてみる。
外から降り注ぐのは、月光。
星空を見上げると、大きな月。きらきらと、月明りを反射する水たまり。夜にも関わらず明るい廊下。
思わず目が奪われる光景に呆けてしまったが、すぐに違和感を感じ思考が止まった。
「…………こ、ども?」
窓の奥、庭には一人の銀髪の少年が、目元を長い前髪で隠し立っていた。
微かに見える口元には笑みが浮かび、風で白い狩衣のような服が揺れていた。
雰囲気がただの子供ではない。
それは、一目見ただけでもすぐにわかる。
静かで、澄んでいるような空気を纏っている子供。
目が離せず、立ち尽くしてしまう。
――――気になる、目を離せない。
静華が立ち尽くしていると、子供がやっと口を開いた。
『お姉さん、我と遊んでくれないか?』
首を横に傾けると、広い袖についている鈴が、体の動きに合わせチリンと鳴る。
――――女性ほどではないけど、高い、子供特有の声。でも、翔君とはまた違う、透き通るような声だ。
声をかけられても動くことが出来ない、声を出すことが出来ない。
チリン、チリンと鈴を鳴らしながら子供が近づいてくる。
それでも、静華は動けない。
静華と子供の間には、窓という壁がある。
中には入ってこれない。
硝子に手を伸ばし、子供が手を添える。
見上げられた時に微かに見えたのは、朱色の瞳。
月光のように儚く、それでいて力強い。
瞳に映る静華の表情は、恐怖と困惑が混じったような顔だった。
異世界から迷い込んできたように美しい子供を目の前に、静華は一歩、後ろに下がる。
だが、足がうまく上がらず、何もない所で躓いてしまった。
「きゃっ!!」
転ぶ、そう思い衝撃に備え、目を閉じる。
だが、いつまでたっても衝撃は来ない。それどころか、背中にはもふっとした感覚。
目を開けると、窓の外にいた子供がいなくなっていた。
元々、そこには誰もいなかった、そう思わせるほど痕跡がない。
――――さっきのは、いったいなんなの?
頭が回らず、唖然。
ここで座っていても仕方がないと、静華は立ち上がるため体を横に傾けた。
その時、視界には映るはずのない動物が立っており、思わず大きな声を出してしまった。
「き、きつねぇぇぇぇぇぇええええ!?!?」
狐の表紙の小説はもう読み終わり、今は違う小説を読んでいる。
――――ペラ ペラ
静かな空間に、ページをめくる音だけが響く。
「――――はぁ」
一時間以上ずっと読み進めていたため、さすがに目が疲れ本にしおりを挟みパタンと閉じる。
後ろに両手を突き、天井を仰ぎ見た。
――――こんな事していていいのだろうか。何も、しなくてもいいのだろうか。
今まで、こんなに時間を持て余す事なんてなかった。
都会に出てからは、仕事仕事の毎日。休む暇もなく、寝る時間すら確保するのが大変だった。
それが苦しくて、何もしなくていい時間が欲しいと常に思っていた。
そのはずなのに、いざそんな時間が訪れると、気持ちが勝手に焦ってしまう。
自問自答が頭の中で繰り返され、逆に落ち着かない。
何かしていないと、自分で自分を追い込んでしまって苦しい。
でも、小説を読むのも、楽しいとはいえ疲れてしまう。
他にやりたい事はない。
「――――寝るかな」
今は夜中、寝静まっている時間。
もう、いつでも寝れるように準備していた布団を見て、膝で近づく。
布団の中に入ろうと掛布団を掴み、足を片方入れる。
だが、そこで動きは止まった。
――――今、布団に入ったところで、寝れそうにないな。
目が冴えてしまって寝れない。
だが、起きていても何もすることはない。
何もしない時間は、自分で自分を勝手に責めてしまい落ち着かず、逆に疲れる。
何もしなくても、小説を読んでいても。
どっちにしろ疲れるのなら、小説でも読もうかなと、そう思った時だった。
――――コーーーン
外から、動物の鳴き声が聞こえ、静華は襖へ視線を向けた。
「さっきの鳴き声、狐?」
――――田舎だから、狐がいてもおかしくはないけど……。
最初は見ているだけだった静華だったが、ウズウズと気になってしまい、布団から出て襖を開けてみる。
外から降り注ぐのは、月光。
星空を見上げると、大きな月。きらきらと、月明りを反射する水たまり。夜にも関わらず明るい廊下。
思わず目が奪われる光景に呆けてしまったが、すぐに違和感を感じ思考が止まった。
「…………こ、ども?」
窓の奥、庭には一人の銀髪の少年が、目元を長い前髪で隠し立っていた。
微かに見える口元には笑みが浮かび、風で白い狩衣のような服が揺れていた。
雰囲気がただの子供ではない。
それは、一目見ただけでもすぐにわかる。
静かで、澄んでいるような空気を纏っている子供。
目が離せず、立ち尽くしてしまう。
――――気になる、目を離せない。
静華が立ち尽くしていると、子供がやっと口を開いた。
『お姉さん、我と遊んでくれないか?』
首を横に傾けると、広い袖についている鈴が、体の動きに合わせチリンと鳴る。
――――女性ほどではないけど、高い、子供特有の声。でも、翔君とはまた違う、透き通るような声だ。
声をかけられても動くことが出来ない、声を出すことが出来ない。
チリン、チリンと鈴を鳴らしながら子供が近づいてくる。
それでも、静華は動けない。
静華と子供の間には、窓という壁がある。
中には入ってこれない。
硝子に手を伸ばし、子供が手を添える。
見上げられた時に微かに見えたのは、朱色の瞳。
月光のように儚く、それでいて力強い。
瞳に映る静華の表情は、恐怖と困惑が混じったような顔だった。
異世界から迷い込んできたように美しい子供を目の前に、静華は一歩、後ろに下がる。
だが、足がうまく上がらず、何もない所で躓いてしまった。
「きゃっ!!」
転ぶ、そう思い衝撃に備え、目を閉じる。
だが、いつまでたっても衝撃は来ない。それどころか、背中にはもふっとした感覚。
目を開けると、窓の外にいた子供がいなくなっていた。
元々、そこには誰もいなかった、そう思わせるほど痕跡がない。
――――さっきのは、いったいなんなの?
頭が回らず、唖然。
ここで座っていても仕方がないと、静華は立ち上がるため体を横に傾けた。
その時、視界には映るはずのない動物が立っており、思わず大きな声を出してしまった。
「き、きつねぇぇぇぇぇぇええええ!?!?」静華は夜、寝る前の時間は小説を読むことに決めた。
狐の表紙の小説はもう読み終わり、今は違う小説を読んでいる。
――――ペラ ペラ
静かな空間に、ページをめくる音だけが響く。
「――――はぁ」
一時間以上ずっと読み進めていたため、さすがに目が疲れ本にしおりを挟みパタンと閉じる。
後ろに両手を突き、天井を仰ぎ見た。
――――こんな事していていいのだろうか。何も、しなくてもいいのだろうか。
今まで、こんなに時間を持て余す事なんてなかった。
都会に出てからは、仕事仕事の毎日。休む暇もなく、寝る時間すら確保するのが大変だった。
それが苦しくて、何もしなくていい時間が欲しいと常に思っていた。
そのはずなのに、いざそんな時間が訪れると、気持ちが勝手に焦ってしまう。
自問自答が頭の中で繰り返され、逆に落ち着かない。
何かしていないと、自分で自分を追い込んでしまって苦しい。
でも、小説を読むのも、楽しいとはいえ疲れてしまう。
他にやりたい事はない。
「――――寝るかな」
今は夜中、寝静まっている時間。
もう、いつでも寝れるように準備していた布団を見て、膝で近づく。
布団の中に入ろうと掛布団を掴み、足を片方入れる。
だが、そこで動きは止まった。
――――今、布団に入ったところで、寝れそうにないな。
目が冴えてしまって寝れない。
だが、起きていても何もすることはない。
何もしない時間は、自分で自分を勝手に責めてしまい落ち着かず、逆に疲れる。
何もしなくても、小説を読んでいても。
どっちにしろ疲れるのなら、小説でも読もうかなと、そう思った時だった。
――――コーーーン
外から、動物の鳴き声が聞こえ、静華は襖へ視線を向けた。
「さっきの鳴き声、狐?」
――――田舎だから、狐がいてもおかしくはないけど……。
最初は見ているだけだった静華だったが、ウズウズと気になってしまい、布団から出て襖を開けてみる。
外から降り注ぐのは、月光。
星空を見上げると、大きな月。きらきらと、月明りを反射する水たまり。夜にも関わらず明るい廊下。
思わず目が奪われる光景に呆けてしまったが、すぐに違和感を感じ思考が止まった。
「…………こ、ども?」
窓の奥、庭には一人の銀髪の少年が、目元を長い前髪で隠し立っていた。
微かに見える口元には笑みが浮かび、風で白い狩衣のような服が揺れていた。
雰囲気がただの子供ではない。
それは、一目見ただけでもすぐにわかる。
静かで、澄んでいるような空気を纏っている子供。
目が離せず、立ち尽くしてしまう。
――――気になる、目を離せない。
静華が立ち尽くしていると、子供がやっと口を開いた。
『お姉さん、我と遊んでくれないか?』
首を横に傾けると、広い袖についている鈴が、体の動きに合わせチリンと鳴る。
――――女性ほどではないけど、高い、子供特有の声。でも、翔君とはまた違う、透き通るような声だ。
声をかけられても動くことが出来ない、声を出すことが出来ない。
チリン、チリンと鈴を鳴らしながら子供が近づいてくる。
それでも、静華は動けない。
静華と子供の間には、窓という壁がある。
中には入ってこれない。
硝子に手を伸ばし、子供が手を添える。
見上げられた時に微かに見えたのは、朱色の瞳。
月光のように儚く、それでいて力強い。
瞳に映る静華の表情は、恐怖と困惑が混じったような顔だった。
異世界から迷い込んできたように美しい子供を目の前に、静華は一歩、後ろに下がる。
だが、足がうまく上がらず、何もない所で躓いてしまった。
「きゃっ!!」
転ぶ、そう思い衝撃に備え、目を閉じる。
だが、いつまでたっても衝撃は来ない。それどころか、背中にはもふっとした感覚。
目を開けると、窓の外にいた子供がいなくなっていた。
元々、そこには誰もいなかった、そう思わせるほど痕跡がない。
――――さっきのは、いったいなんなの?
頭が回らず、唖然。
ここで座っていても仕方がないと、静華は立ち上がるため体を横に傾けた。
その時、視界には映るはずのない動物が立っており、思わず大きな声を出してしまった。
「き、きつねぇぇぇぇぇぇええええ!?!?」
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