13 / 48
夏めく
小説
しおりを挟む
紙袋の中にあったのは、静華が今まで読んだ来た小説達。
思わず手を伸ばし、紙袋から一冊、取り出した。
どれも大事に扱ってきたからか、日焼けもしていなければ破れてもいない。
埃なども被っていないため、定期的に美鈴が綺麗にしてくれていたとわかる。
――――なんで……。確かに大事にはしていたけど、もう私が出て行ってから五年。捨てていてもおかしくない。
何で、紙袋いっぱいの小説を残していたのか。
今は美鈴がいないため、確認できない。
帰ってきたら聞いてみようかなと思っていると、後ろで動く気配を感じ振り返った。
そこには、欠伸を零し目を擦っている翔の姿。
背後まで来ており、少し驚きつつも静華は「おはよう」と、微笑みを浮かべ頭を撫でながら挨拶をした。
まだぼぉ~としているらしく、反応はない。
だが、静華の手に持っている小説を見て、指さした。
「これ、なぁに?」
おっとりとした口調、まだ眠いのがわかる。
その事にクスッと笑いつつ、静華は手に持っていた小説の表紙を撫でた。
「これはね、お姉ちゃんが大事にしていた本だよ」
「絵本?」
「絵本ではないかなぁ~」
言いながら本をペラペラと開き、文字だらけのページを見せる。
最初は苦い顔を浮かべていた翔だったが、挿絵を見て静華の手を掴み止めさせた。
「きつね!!」
「あ、うん。狐だよ」
手に持っていたのは、狐が主人公の物語。
野生の狐が人間により命を狙われ、人間によって救われる。切なく、それでいて心温まる物語。
そのため、途中には狐の絵がモノクロで入っていた。
それが翔の興味を引き、ぐいっと本の中を覗き込む。
「おっと。あ、危ないよ?」
「きつね!!!」
思わず倒れそうになる体を支え、静華は翔の服を引っ張り後ろへと下げる。
それでも、翔の目は小説に描かれている狐に向けられていた。
――――まさか、ここまで狐に興味を持つなんて思わなかったなぁ。
小説を読み聞かせる訳にもいかないし、どうしようかなと思っていると、玄関の方で音が聞こえた。
どうやら、お買い物に出ていた美鈴が帰ってきたらしい。
その音により翔は静華から離れ、姿が見えていないにも関わらず「おかえりー!」と駆けだした。
元気いっぱいの翔を見届け、静華は目を細める。
すぐに手元に視線を落とし、開いていた小説をパタンと閉じた。
表紙は、狐が一匹、それだけが描かれている。
振り向くような形で描かれており、周りは水彩のように一色で塗られていた。
白い水彩絵の具で描かれている背景に、振り向くように書かれている狐。
これは、最後まで見て様々な解釈が出来る表紙だと静華は考えていた。
――――この小説の最後は、狐は助けてくれた人間に恩返しとして木の実などを渡す。でも、その帰りに狩人に見つかり、撃たれて死んでしまう。この、白い背景は黄泉への道。狐が振り返っているのは、助けてくれた人間を気にして、とかを考えていたなぁ。
優しく撫でていると、買い物袋を持っている美鈴が部屋の前を横切った。
その時、静華の姿を見つけ顔を覗かせる。
「――――あら、見つけたのね」
「あ、おかえりなさい」
声をかけられ、顔を上げる。
袋を廊下に置き、美鈴は静華の隣に座った。
「これ、捨てていると思ってた」
「捨てる訳ないでしょ。貴方がどれだけ小説を大事にしていたか、私が一番わかっているんだから」
柔和な笑みを浮かべ、美鈴は静華の頭を撫でる。
確かに、美鈴は静華がどれだけ小説が好きで、大事にしていたか一番近くで見ていた。
だから、娘の宝物とも言える小説は捨てられず、ずっと大事にしていた。
「また、読んでもいい?」
「それは貴方の本よ。貴方の本を貴方がどうしようと、私は見守るだけ」
すぐに美鈴は立ちあがり、部屋を後にする。
「それじゃ、私は買ってきた物を片付けるわ。その本は、自分の部屋に持って行ってもいいからね」
それだけを残し、袋を持ち台所へと持っていく。
その後ろを、当たり前のように翔はついて行く。
微笑ましい光景を見て、自然と静華の口元には微かな笑みが浮かんだ。
――――ここまで心を休められるなんて、思わなかったな。
子供は苦手、相手にするのは大変。
そう思っていたが、それだけではない。
一緒にいて楽しく、疲れるけど自然と笑ってしまう。
都会に出てからは感じてこなかった感情が今の静華に芽生え、疲れた心を癒してくれる。
再度手に持っていた本を見つめ、紙袋に戻す。
手持ち部分を掴み、自室へと戻って行った。
思わず手を伸ばし、紙袋から一冊、取り出した。
どれも大事に扱ってきたからか、日焼けもしていなければ破れてもいない。
埃なども被っていないため、定期的に美鈴が綺麗にしてくれていたとわかる。
――――なんで……。確かに大事にはしていたけど、もう私が出て行ってから五年。捨てていてもおかしくない。
何で、紙袋いっぱいの小説を残していたのか。
今は美鈴がいないため、確認できない。
帰ってきたら聞いてみようかなと思っていると、後ろで動く気配を感じ振り返った。
そこには、欠伸を零し目を擦っている翔の姿。
背後まで来ており、少し驚きつつも静華は「おはよう」と、微笑みを浮かべ頭を撫でながら挨拶をした。
まだぼぉ~としているらしく、反応はない。
だが、静華の手に持っている小説を見て、指さした。
「これ、なぁに?」
おっとりとした口調、まだ眠いのがわかる。
その事にクスッと笑いつつ、静華は手に持っていた小説の表紙を撫でた。
「これはね、お姉ちゃんが大事にしていた本だよ」
「絵本?」
「絵本ではないかなぁ~」
言いながら本をペラペラと開き、文字だらけのページを見せる。
最初は苦い顔を浮かべていた翔だったが、挿絵を見て静華の手を掴み止めさせた。
「きつね!!」
「あ、うん。狐だよ」
手に持っていたのは、狐が主人公の物語。
野生の狐が人間により命を狙われ、人間によって救われる。切なく、それでいて心温まる物語。
そのため、途中には狐の絵がモノクロで入っていた。
それが翔の興味を引き、ぐいっと本の中を覗き込む。
「おっと。あ、危ないよ?」
「きつね!!!」
思わず倒れそうになる体を支え、静華は翔の服を引っ張り後ろへと下げる。
それでも、翔の目は小説に描かれている狐に向けられていた。
――――まさか、ここまで狐に興味を持つなんて思わなかったなぁ。
小説を読み聞かせる訳にもいかないし、どうしようかなと思っていると、玄関の方で音が聞こえた。
どうやら、お買い物に出ていた美鈴が帰ってきたらしい。
その音により翔は静華から離れ、姿が見えていないにも関わらず「おかえりー!」と駆けだした。
元気いっぱいの翔を見届け、静華は目を細める。
すぐに手元に視線を落とし、開いていた小説をパタンと閉じた。
表紙は、狐が一匹、それだけが描かれている。
振り向くような形で描かれており、周りは水彩のように一色で塗られていた。
白い水彩絵の具で描かれている背景に、振り向くように書かれている狐。
これは、最後まで見て様々な解釈が出来る表紙だと静華は考えていた。
――――この小説の最後は、狐は助けてくれた人間に恩返しとして木の実などを渡す。でも、その帰りに狩人に見つかり、撃たれて死んでしまう。この、白い背景は黄泉への道。狐が振り返っているのは、助けてくれた人間を気にして、とかを考えていたなぁ。
優しく撫でていると、買い物袋を持っている美鈴が部屋の前を横切った。
その時、静華の姿を見つけ顔を覗かせる。
「――――あら、見つけたのね」
「あ、おかえりなさい」
声をかけられ、顔を上げる。
袋を廊下に置き、美鈴は静華の隣に座った。
「これ、捨てていると思ってた」
「捨てる訳ないでしょ。貴方がどれだけ小説を大事にしていたか、私が一番わかっているんだから」
柔和な笑みを浮かべ、美鈴は静華の頭を撫でる。
確かに、美鈴は静華がどれだけ小説が好きで、大事にしていたか一番近くで見ていた。
だから、娘の宝物とも言える小説は捨てられず、ずっと大事にしていた。
「また、読んでもいい?」
「それは貴方の本よ。貴方の本を貴方がどうしようと、私は見守るだけ」
すぐに美鈴は立ちあがり、部屋を後にする。
「それじゃ、私は買ってきた物を片付けるわ。その本は、自分の部屋に持って行ってもいいからね」
それだけを残し、袋を持ち台所へと持っていく。
その後ろを、当たり前のように翔はついて行く。
微笑ましい光景を見て、自然と静華の口元には微かな笑みが浮かんだ。
――――ここまで心を休められるなんて、思わなかったな。
子供は苦手、相手にするのは大変。
そう思っていたが、それだけではない。
一緒にいて楽しく、疲れるけど自然と笑ってしまう。
都会に出てからは感じてこなかった感情が今の静華に芽生え、疲れた心を癒してくれる。
再度手に持っていた本を見つめ、紙袋に戻す。
手持ち部分を掴み、自室へと戻って行った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる