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夏めく
ホワイトシチュー
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「ど、どどどど、どうしたの、翔君」
――――いつも突然出て来るから驚いちゃう、一言欲しいなぁ。
バクバクと波打つ胸を押さえ問いかけると、翔は静華の手を真似して狐の窓を作ろうとしていた。
「あ、見てたんだ」
「どうやって作るの!!」
なんとか見よう見まねで作ろうとしたが、上手くできない。
聞かれてしまったが、教えてもいいのか悩む。
呪文さえ教えなければ問題はないかと思い、翔の手に触れ教えてあげた。
「こんな感じだよ」
小さな手で頑張って作った狐の窓。
翔は目を輝かせ、興奮。色んな所を覗き込み、楽しみ始めた。
――――私も最初は、あんな感じで色んな所を覗き込んで楽しんでいたっけ。結局、何も見つける事が出来ず、飽きちゃったんだけど。
翔の姿は、昔の奏多や静華に似ており、記憶をたどる事が増えた。
怒られた過去、笑い合っている記憶、楽しかった生活。
どれも懐かしくて、輝いていて。
でも、学生になってからは、そんな破天荒ではいられなかった。
授業の予習や復習、宿題もしなければならないため、先に学校に通っていた奏多と遊ぶ時間は少なくなっていた。
それでも、奏多は少しでも遊ぶ時間を作ってくれていて、それが嬉しくて仕方がなかった。
静華も学校に通う事になってからは、勉強を教えてもらう事も増え、また共に過ごす時間が増えた。
奏多は人に教えるのが上手く、わかりやすい。
だから、先生に質問するより、奏多に質問していた。
だが、奏多も時間を作るのが難しくなり、静華との時間がまたしても減っていく。
だから、共にいる時を大事にし、様々な話をしていた。
自分がハマっている小説について、奏多に演説し始めてから、二人はそれぞれ小説を読んだりし、感想を伝えあった。
それだけでは物足りなくなった静華は、自分でも小説を書き始めた。
基礎やマナー。文章の構成やキャラの作り方など。
小説を書くために必要な知識を一人で調べ、蓄えた。
奏多は一人頑張っている静華の姿を見て、何かしなければならないと思い、イラストに手を伸ばす。
挿絵や表紙に使えるようなイラストについて調べ、練習をし始めた。
静華は執筆活動もしていたが、それと同時にインプットするため、読む方も怠らなかった。
そんな時、都会という物に憧れ、実際に行きたいという気持ちが強くなる。
仕事しながらでも執筆活動は進められる。
そう軽く考えてしまい、上京を決意。
その判断が間違いだった。
執筆を続ける事は出来ていたが、それは最初だけ。
本気になればなるほど焦りが芽生え、コンテストに落ちる度、泣きたくなるほどの嫉妬心や悲しみが胸に埋め尽くす。
それに加え、徐々に増やされる仕事量。
小説を読む時間は諦め、執筆に専念。
それでも、徐々に執筆も出来る時間は減り、無理となる。
毎日、仕事、仕事、仕事。
趣味をする時間も、楽しいと思える時間も無く、ただただ仕事の日々を過ごしていた。
――――今更、だな。結局、私は自分に負けて、こうやって逃げているんだし。
自身の弱さに打ちひしがれて俯いている時、翔が明るい声で静華を呼んだ。
「おねえちゃん!! あっち行こう!!」
「あ、はいはい」
今は翔と共に散歩しているんだったと思い出し、記憶を頭の奥底にしまい込む。
元気に走り回っている翔の元へと、駆けだした。
・
・
・
・
・
「今日は、お店に並べる事が出来ないお野菜を貰ってきたから、野菜たっぷりホワイトシチューよ」
ニッコリ笑顔で美鈴は、お玉片手にテーブルを囲い、座っている二人を見下ろした。
目の前に置かれているのは、言葉の通り、野菜たっぷりのホワイトシチュー。
白いルーの中にはブロッコリー、にんじん、鶏肉、コーン。それだけでなく玉ねぎなどなど。
野菜たっぷりで、翔は少々苦い顔を浮かべていた。
――――あっ。隠しているみたいだけど、ちゃっかりグリンピースも入ってる。
昨日の夜にも出たグリンピースが、具材の隙間から見え隠れしていた。
警戒を強めたが、昨日よりは量が少ない。
――――このくらいなら、食べられるかな。
一口分スプーンですくいあげると、ブロッコリーとニンジンが白いルーと共に乗せられる。
湯気が立ちこみ、キラキラと輝いていた。
一口サイズに切られている為、食べやすく、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。
静華は一口パクッと食べると、口の中にホワイトシチューの味が広がり、頬が落ちるほどに美味しい。
グリンピースも試しに食べてみたが、独特の味は濃くなく、昨日より食べやすい。
次々食べる静華の様子を見ていた翔は、自分用に置かれたホワイトシチューを見下ろした。
「ぐぬぬ」と口を歪ませるが、勇気を出してホワイトシチューを一口分、スプーンに乗せる。
スプーンの上には、大好きな鶏肉と、苦手なグリンピースが乗っかる。
いつもならこれだけで嫌がり、鶏肉だけを食べ、グリンピースは残していた。
だが、今回だけは違う。
眉を吊り上げ、まるでボスを目の前に勇敢に立ち向かうような表情を作る。
ゆっくり口を開いたかと思えば、グリンピースと共に口の中にホワイトシチューを放り込んだ。
その事には美鈴も驚き「あら」と、目を微かに開く。
静華も驚き、食べていた手を止めてしまった。
モグモグと数回噛むと、ゴクンと呑み込む。
そして、美鈴を見たかと思うと、満面な笑みを浮かべ「おいしい!!」と大きな声で言った。
「まぁ!! えらいわよ、翔君!! 自分でグリンピースを食べられたわね!!」
美鈴は大げさとも言えるくらい大喜びをし、翔の頭を撫でる。
それが嬉しかったのか「もっと食べる!」と、口にホワイトシチューを入れる。
美味しそうに食べている翔を見て、静華も止めていた手を進め、最後の一口を放り込んだ。
「――――おいしかった」
小さな声で呟いたはずなのだが、その言葉はしっかりと美鈴にも届いており「良かったわ」と、柔和な笑みを浮かべた。
――――いつも突然出て来るから驚いちゃう、一言欲しいなぁ。
バクバクと波打つ胸を押さえ問いかけると、翔は静華の手を真似して狐の窓を作ろうとしていた。
「あ、見てたんだ」
「どうやって作るの!!」
なんとか見よう見まねで作ろうとしたが、上手くできない。
聞かれてしまったが、教えてもいいのか悩む。
呪文さえ教えなければ問題はないかと思い、翔の手に触れ教えてあげた。
「こんな感じだよ」
小さな手で頑張って作った狐の窓。
翔は目を輝かせ、興奮。色んな所を覗き込み、楽しみ始めた。
――――私も最初は、あんな感じで色んな所を覗き込んで楽しんでいたっけ。結局、何も見つける事が出来ず、飽きちゃったんだけど。
翔の姿は、昔の奏多や静華に似ており、記憶をたどる事が増えた。
怒られた過去、笑い合っている記憶、楽しかった生活。
どれも懐かしくて、輝いていて。
でも、学生になってからは、そんな破天荒ではいられなかった。
授業の予習や復習、宿題もしなければならないため、先に学校に通っていた奏多と遊ぶ時間は少なくなっていた。
それでも、奏多は少しでも遊ぶ時間を作ってくれていて、それが嬉しくて仕方がなかった。
静華も学校に通う事になってからは、勉強を教えてもらう事も増え、また共に過ごす時間が増えた。
奏多は人に教えるのが上手く、わかりやすい。
だから、先生に質問するより、奏多に質問していた。
だが、奏多も時間を作るのが難しくなり、静華との時間がまたしても減っていく。
だから、共にいる時を大事にし、様々な話をしていた。
自分がハマっている小説について、奏多に演説し始めてから、二人はそれぞれ小説を読んだりし、感想を伝えあった。
それだけでは物足りなくなった静華は、自分でも小説を書き始めた。
基礎やマナー。文章の構成やキャラの作り方など。
小説を書くために必要な知識を一人で調べ、蓄えた。
奏多は一人頑張っている静華の姿を見て、何かしなければならないと思い、イラストに手を伸ばす。
挿絵や表紙に使えるようなイラストについて調べ、練習をし始めた。
静華は執筆活動もしていたが、それと同時にインプットするため、読む方も怠らなかった。
そんな時、都会という物に憧れ、実際に行きたいという気持ちが強くなる。
仕事しながらでも執筆活動は進められる。
そう軽く考えてしまい、上京を決意。
その判断が間違いだった。
執筆を続ける事は出来ていたが、それは最初だけ。
本気になればなるほど焦りが芽生え、コンテストに落ちる度、泣きたくなるほどの嫉妬心や悲しみが胸に埋め尽くす。
それに加え、徐々に増やされる仕事量。
小説を読む時間は諦め、執筆に専念。
それでも、徐々に執筆も出来る時間は減り、無理となる。
毎日、仕事、仕事、仕事。
趣味をする時間も、楽しいと思える時間も無く、ただただ仕事の日々を過ごしていた。
――――今更、だな。結局、私は自分に負けて、こうやって逃げているんだし。
自身の弱さに打ちひしがれて俯いている時、翔が明るい声で静華を呼んだ。
「おねえちゃん!! あっち行こう!!」
「あ、はいはい」
今は翔と共に散歩しているんだったと思い出し、記憶を頭の奥底にしまい込む。
元気に走り回っている翔の元へと、駆けだした。
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「今日は、お店に並べる事が出来ないお野菜を貰ってきたから、野菜たっぷりホワイトシチューよ」
ニッコリ笑顔で美鈴は、お玉片手にテーブルを囲い、座っている二人を見下ろした。
目の前に置かれているのは、言葉の通り、野菜たっぷりのホワイトシチュー。
白いルーの中にはブロッコリー、にんじん、鶏肉、コーン。それだけでなく玉ねぎなどなど。
野菜たっぷりで、翔は少々苦い顔を浮かべていた。
――――あっ。隠しているみたいだけど、ちゃっかりグリンピースも入ってる。
昨日の夜にも出たグリンピースが、具材の隙間から見え隠れしていた。
警戒を強めたが、昨日よりは量が少ない。
――――このくらいなら、食べられるかな。
一口分スプーンですくいあげると、ブロッコリーとニンジンが白いルーと共に乗せられる。
湯気が立ちこみ、キラキラと輝いていた。
一口サイズに切られている為、食べやすく、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。
静華は一口パクッと食べると、口の中にホワイトシチューの味が広がり、頬が落ちるほどに美味しい。
グリンピースも試しに食べてみたが、独特の味は濃くなく、昨日より食べやすい。
次々食べる静華の様子を見ていた翔は、自分用に置かれたホワイトシチューを見下ろした。
「ぐぬぬ」と口を歪ませるが、勇気を出してホワイトシチューを一口分、スプーンに乗せる。
スプーンの上には、大好きな鶏肉と、苦手なグリンピースが乗っかる。
いつもならこれだけで嫌がり、鶏肉だけを食べ、グリンピースは残していた。
だが、今回だけは違う。
眉を吊り上げ、まるでボスを目の前に勇敢に立ち向かうような表情を作る。
ゆっくり口を開いたかと思えば、グリンピースと共に口の中にホワイトシチューを放り込んだ。
その事には美鈴も驚き「あら」と、目を微かに開く。
静華も驚き、食べていた手を止めてしまった。
モグモグと数回噛むと、ゴクンと呑み込む。
そして、美鈴を見たかと思うと、満面な笑みを浮かべ「おいしい!!」と大きな声で言った。
「まぁ!! えらいわよ、翔君!! 自分でグリンピースを食べられたわね!!」
美鈴は大げさとも言えるくらい大喜びをし、翔の頭を撫でる。
それが嬉しかったのか「もっと食べる!」と、口にホワイトシチューを入れる。
美味しそうに食べている翔を見て、静華も止めていた手を進め、最後の一口を放り込んだ。
「――――おいしかった」
小さな声で呟いたはずなのだが、その言葉はしっかりと美鈴にも届いており「良かったわ」と、柔和な笑みを浮かべた。
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