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初夏
好き嫌い
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――――え、我慢していること?
奏多からの質問がすぐに消化できず、静華は数回瞬きを繰り返す。
「え、えっと。特に、何も我慢なんて、してないよ……?」
「…………そうか。悪い、変なことを聞いた」
奏多はそれ以上何も言わず立ち上がり、襖を開けた。
「――――あ」
「え?」
足を止めたかと思うと、顔だけを静華に向ける。
「おばさんがお昼ご飯を作って起きるのを待っていたぞ。早く、準備して行った方がいい」
その言葉だけを残し、奏多は今度こそ部屋を去る。
「…………はぁ……最悪」
すぐに答えられなかった自分に嫌気がさし、布団の上で膝を抱えてしまった。
――――なんで、私はこんなにもできないんだろう。仕事も、人付き合いも。なにも……。
嘆いていると、休む暇を与えないように廊下から忙しない足音が聞こえ始めた。
なんだろうと顔を上げるのと同時に、襖が勢いよく開かれる。
そこには、頬に米粒を付けた翔が立っており、首には零してもいいようにお皿型になっているエプロンを付けていた。
口が微かに動いているため、まだ食事中なのは今の静華でも分かる。
茶色の瞳と目を合わせていると、今度はゆっくりとした足音が近づいて来た。
「か~け~る~く~ん~? 何をしているのかなぁ~?」
――――ビックゥゥゥゥウウウウ
怒気が含まれている声に、翔と、なぜか静華まで肩を大きく上げ、驚いた。
「まったくもう。静華、おはよう。ご飯出来ているから、準備が出来たら早く来なさいね。翔君は、早くご飯を食べましょうねぇ?」
「…………」
「お返事は?」
「あい…………」
翔を抱き上げ、美鈴は襖を閉め食卓へと戻って行く。
もう、なにもかもが懐かしく感じ、静華はため息を吐きつつ立ち上がり、布団を畳み、髪を整え、部屋を出た。
昨日、四人で夜ご飯を食べた食卓へと向かうと、翔を囲う二人の姿。
美鈴が無理やりピーマンを食べさせようとしており、奏多は自身のご飯をモソモソと食べていた。
翔はピーマンが大の苦手らしく、口を閉ざし開かない。
顔を青くし、顔を逸らし逃げている。
そんな光景を見て、静華の頭に刻まれていた”今までの生活”が薄れ、肩をすくめた。
テーブル近くに準備されている座布団の上に座ると、美鈴が一度ピーマンを置き、お茶碗の準備を始めた。
その隙に翔が逃げようとしたが、それを奏多が慣れた手つきで阻止。
「しっかり食べないと大きくなれないぞ」と、今度は奏多からピーマン攻撃を食らう。
「いーーやーー!!」
「何で俺にバトンタッチすると、いつもあからざまに嫌がるんだよ。なめてんのかぁ~」
「いーーーーーーやーーーーーー!!!」
グイグイと、差し出されるピーマンを押し返し、翔は抵抗。
そんな光景を見ていると、目の前に湯気が上る白米とみそ汁が準備された。
「おかずはきんぴらごぼうで我慢してね」
「ううん、ありがたいよ。ありがとう」
箸を渡され、静華は「いただきます」と白米を口に運ぶ。
熱々だったため「ハフハフ」と、すぐに飲み込むことが出来ない。
数回噛むと、白米の甘みが口の中に広がる。
味わいながら噛み、ゴクンと呑み込んだ。
思わず「美味しい」と零し、次から次へと口の中に入れる。
「こらこら、落ち着いて食べなさい。喉に詰まらせるわよ」
「あ、ごめん。美味しくて、つい」
「ふふっ、変な子ね。小さい頃から食べていた白米と同じよ」
みそ汁をすすりながら聞いていると、美鈴は暗黒の笑みを浮かべ、ピーマンを翔の口に無理やり突っ込んでいた。
涙を流しながらも頑張って噛み、ピーマンを飲み込む。
「うぅぅうう…………」
「はい、よくできました。ほんとに、えらいわよ。よく頑張ったわね」
頭を優しく撫でてあげ、食べた事を褒めてあげている。
翔はそれどころではないのか、今にも泣きそうになっていた。
――――かわいいなぁ。子供って、あんな感じだったっけ。
みそ汁を飲み干し、きんぴらごぼうを食べる。
最後に白米を口の中に頬張り、食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
すぐに美鈴が茶碗などを片付け始める。
そんな時、奏多も食べ終わり「ごちそうさま」と手を合わせていた。
翔はすぐに立ち上がり、静華の隣まで移動。
大きな茶色の瞳で見上げられ、キョトンと、思わず見返してしまう。
「え、な、なに?」
「おねえちゃん!! おさんぽ!! しよ!!」
「――――ん??」
奏多からの質問がすぐに消化できず、静華は数回瞬きを繰り返す。
「え、えっと。特に、何も我慢なんて、してないよ……?」
「…………そうか。悪い、変なことを聞いた」
奏多はそれ以上何も言わず立ち上がり、襖を開けた。
「――――あ」
「え?」
足を止めたかと思うと、顔だけを静華に向ける。
「おばさんがお昼ご飯を作って起きるのを待っていたぞ。早く、準備して行った方がいい」
その言葉だけを残し、奏多は今度こそ部屋を去る。
「…………はぁ……最悪」
すぐに答えられなかった自分に嫌気がさし、布団の上で膝を抱えてしまった。
――――なんで、私はこんなにもできないんだろう。仕事も、人付き合いも。なにも……。
嘆いていると、休む暇を与えないように廊下から忙しない足音が聞こえ始めた。
なんだろうと顔を上げるのと同時に、襖が勢いよく開かれる。
そこには、頬に米粒を付けた翔が立っており、首には零してもいいようにお皿型になっているエプロンを付けていた。
口が微かに動いているため、まだ食事中なのは今の静華でも分かる。
茶色の瞳と目を合わせていると、今度はゆっくりとした足音が近づいて来た。
「か~け~る~く~ん~? 何をしているのかなぁ~?」
――――ビックゥゥゥゥウウウウ
怒気が含まれている声に、翔と、なぜか静華まで肩を大きく上げ、驚いた。
「まったくもう。静華、おはよう。ご飯出来ているから、準備が出来たら早く来なさいね。翔君は、早くご飯を食べましょうねぇ?」
「…………」
「お返事は?」
「あい…………」
翔を抱き上げ、美鈴は襖を閉め食卓へと戻って行く。
もう、なにもかもが懐かしく感じ、静華はため息を吐きつつ立ち上がり、布団を畳み、髪を整え、部屋を出た。
昨日、四人で夜ご飯を食べた食卓へと向かうと、翔を囲う二人の姿。
美鈴が無理やりピーマンを食べさせようとしており、奏多は自身のご飯をモソモソと食べていた。
翔はピーマンが大の苦手らしく、口を閉ざし開かない。
顔を青くし、顔を逸らし逃げている。
そんな光景を見て、静華の頭に刻まれていた”今までの生活”が薄れ、肩をすくめた。
テーブル近くに準備されている座布団の上に座ると、美鈴が一度ピーマンを置き、お茶碗の準備を始めた。
その隙に翔が逃げようとしたが、それを奏多が慣れた手つきで阻止。
「しっかり食べないと大きくなれないぞ」と、今度は奏多からピーマン攻撃を食らう。
「いーーやーー!!」
「何で俺にバトンタッチすると、いつもあからざまに嫌がるんだよ。なめてんのかぁ~」
「いーーーーーーやーーーーーー!!!」
グイグイと、差し出されるピーマンを押し返し、翔は抵抗。
そんな光景を見ていると、目の前に湯気が上る白米とみそ汁が準備された。
「おかずはきんぴらごぼうで我慢してね」
「ううん、ありがたいよ。ありがとう」
箸を渡され、静華は「いただきます」と白米を口に運ぶ。
熱々だったため「ハフハフ」と、すぐに飲み込むことが出来ない。
数回噛むと、白米の甘みが口の中に広がる。
味わいながら噛み、ゴクンと呑み込んだ。
思わず「美味しい」と零し、次から次へと口の中に入れる。
「こらこら、落ち着いて食べなさい。喉に詰まらせるわよ」
「あ、ごめん。美味しくて、つい」
「ふふっ、変な子ね。小さい頃から食べていた白米と同じよ」
みそ汁をすすりながら聞いていると、美鈴は暗黒の笑みを浮かべ、ピーマンを翔の口に無理やり突っ込んでいた。
涙を流しながらも頑張って噛み、ピーマンを飲み込む。
「うぅぅうう…………」
「はい、よくできました。ほんとに、えらいわよ。よく頑張ったわね」
頭を優しく撫でてあげ、食べた事を褒めてあげている。
翔はそれどころではないのか、今にも泣きそうになっていた。
――――かわいいなぁ。子供って、あんな感じだったっけ。
みそ汁を飲み干し、きんぴらごぼうを食べる。
最後に白米を口の中に頬張り、食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
すぐに美鈴が茶碗などを片付け始める。
そんな時、奏多も食べ終わり「ごちそうさま」と手を合わせていた。
翔はすぐに立ち上がり、静華の隣まで移動。
大きな茶色の瞳で見上げられ、キョトンと、思わず見返してしまう。
「え、な、なに?」
「おねえちゃん!! おさんぽ!! しよ!!」
「――――ん??」
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