翔君とおさんぽ

桜桃-サクランボ-

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初夏

幼馴染と従弟

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「奏多…………」

「久しぶりだな、静華。元気がないみたいだが、どうしたんだ?」

 明るい茶髪に、シルバーのネックレス。
 黒い半そでシャツに、ジーンズと、動きやすい服装。
 声は一般男性より低く、艶がある。

「え、えっと」

 ――――久しぶり過ぎて、言葉が出てこない。

 久しぶりに見た幼馴染は、静華の記憶とは大きく変わり、かっこよくなっていた。

 別れたのは、五年前。
 雰囲気が大きく変わり、静華は驚愕。

 大人な男と言った感じで、目を合わせられない。

 ――――年上だから、大人の男と思うのはそうなんだけど、なんか、違う。

 都会に住んでいた時も、奏多と同じ年齢の人は周りに沢山いた。

 でも、みんな醜くて、見た目が良くても近づきたいとは思わなかった。

 それなのに、奏多を見ると言葉が出ず、目を逸らしてしまう。

 顔を俯かせ何も言わなくなってしまった静華を目の前に、奏多は首を傾げ近づく。
 顎に手を添え、目線を上げさえた。

「…………隈、酷いな。顔色も悪い、移動で疲れただけじゃねぇよな?」

「い、いや、その…………」

「早急に体を休めた方がよさそうだな。翔がいるが、俺が相手しておく。お前は自分の部屋で休んでおけ」

 手を引かれ中に入ると、廊下で翔を抱きかかえ待っている美鈴がいた。

「あら、奏多君。こんにちは」

「こんにちは、勝手に上がってしまいすいません」

「大丈夫よ」

 ニコッと笑いかける母親より、静華は抱きかかえられ目を丸くしている子供に目が行ってしまう。

 ――――この子って、誰なんだろう。

 見ていると、子供とパチッと目が合ってしまった。
 息を飲み、真ん丸な茶色の瞳を見続ける。

「そう言えば、静華は翔と会うのは初めてか?」

「え、う、うん」

 パッと目を逸らし、隣に立つ奏多を見上げると、簡単に説明をしてくれた。

「翔は美波みなさんの子供だよ。だから、静華とは従弟になる」

「え、美波おばさんの?」

 美波とは、静華にとってのおばさんに当たる人。
 美鈴の妹で、今は結婚して家族を持っている。

「私、聞いていないんだけど。美波おばさんに子供がいたの……」

「静華がここから出て行った後の話だからな」

 ――――あ、そういうことか。

 確かに、出て行った後なのなら情報が回ってこないのは頷ける。
 そうだったとしても、少しくらいは教えてくれても良かったのにと肩を落とすが、気にしても意味はない。

「静華、貴方の部屋は片づけてあるから、荷物を置いて顔と手を洗っちゃいなさい。そして、今日はゆっくり休みなさい」

「え、いいの?」

「色々あったのでしょう? 気にしなくていいから」

 柔和な笑みを浮かべる美鈴に、静華は数年ぶりの安心感を覚え、「わかった」と頷いた。
 奏多とも別れ、自室へと向かう。

 家の中は、和モダンと呼ばれるデザイン。
 襖一枚で部屋を分け、廊下以外の床はフローリングではなく、畳。

 静華が一人暮らししていた時の部屋とは、全く違う作りの実家。
 心温まる廊下を歩き、自身の部屋へと入る為、襖を開けた。

 中は、必要最低限な物しか置かれていない。

 畳の上には、丸いテーブルと座布団。
 壁の方には布団が綺麗に畳まれている。

 ――――綺麗なままだ。お母さん、私がいなくなった後も掃除してくれていたんだ。

 その事実に気づき、目じりが熱くなる。
 同時に、後ろから声が聞こえた。

「静華、おばさんから預かった荷物、どこにおっ――――」

 反射的に振り向いてしまった静華の目元には、薄く涙が浮かんでいた。
 その姿に、荷物を預かっていた奏多は面食らう。

「あっ、ご、ごめん、ありがとう!」

 すぐに目元を拭き誤魔化そうと荷物を受け取る。
 だが、伸ばした手は、大きな手により捕まれ、引き寄せられた。

 ――――ポフッ

 次に感じたのは、体を包み込む優しい温もりと、心音。
 奏多が、静華を抱きしめた。

「か、奏多!?」

 驚きのあまり声を上げてしまった静華だが、奏多は動揺を一切見せない。
 優しく背中を撫で、抱きしめ続ける。

 ザワザワとしていた心が落ち着き始め、ドキドキと心臓が音を鳴らす。

 ――――な、何で私、奏多に抱きしめられているの?

 分からないままパニックになっていると、奏多が低い声で囁いた。

「――――悪い。荷物、ここに置いておくから」

 グィッと静華を離し、荷物は襖の近くに。
 それだけを言い残し、出て行った。

「……………………え!?」

 一気に思考が周り、覚醒。
 ブワッと顔が真っ赤になり、頬を抑える。

「あ、え?」

 体から力が抜け、その場にへたり込む。
 その場からすぐに動くことができない。

 赤面したまま、自身の体を抱えるように、残っている微かな温もりに触れた。
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