3 / 48
初夏
幼馴染と従弟
しおりを挟む
「奏多…………」
「久しぶりだな、静華。元気がないみたいだが、どうしたんだ?」
明るい茶髪に、シルバーのネックレス。
黒い半そでシャツに、ジーンズと、動きやすい服装。
声は一般男性より低く、艶がある。
「え、えっと」
――――久しぶり過ぎて、言葉が出てこない。
久しぶりに見た幼馴染は、静華の記憶とは大きく変わり、かっこよくなっていた。
別れたのは、五年前。
雰囲気が大きく変わり、静華は驚愕。
大人な男と言った感じで、目を合わせられない。
――――年上だから、大人の男と思うのはそうなんだけど、なんか、違う。
都会に住んでいた時も、奏多と同じ年齢の人は周りに沢山いた。
でも、みんな醜くて、見た目が良くても近づきたいとは思わなかった。
それなのに、奏多を見ると言葉が出ず、目を逸らしてしまう。
顔を俯かせ何も言わなくなってしまった静華を目の前に、奏多は首を傾げ近づく。
顎に手を添え、目線を上げさえた。
「…………隈、酷いな。顔色も悪い、移動で疲れただけじゃねぇよな?」
「い、いや、その…………」
「早急に体を休めた方がよさそうだな。翔がいるが、俺が相手しておく。お前は自分の部屋で休んでおけ」
手を引かれ中に入ると、廊下で翔を抱きかかえ待っている美鈴がいた。
「あら、奏多君。こんにちは」
「こんにちは、勝手に上がってしまいすいません」
「大丈夫よ」
ニコッと笑いかける母親より、静華は抱きかかえられ目を丸くしている子供に目が行ってしまう。
――――この子って、誰なんだろう。
見ていると、子供とパチッと目が合ってしまった。
息を飲み、真ん丸な茶色の瞳を見続ける。
「そう言えば、静華は翔と会うのは初めてか?」
「え、う、うん」
パッと目を逸らし、隣に立つ奏多を見上げると、簡単に説明をしてくれた。
「翔は美波さんの子供だよ。だから、静華とは従弟になる」
「え、美波おばさんの?」
美波とは、静華にとってのおばさんに当たる人。
美鈴の妹で、今は結婚して家族を持っている。
「私、聞いていないんだけど。美波おばさんに子供がいたの……」
「静華がここから出て行った後の話だからな」
――――あ、そういうことか。
確かに、出て行った後なのなら情報が回ってこないのは頷ける。
そうだったとしても、少しくらいは教えてくれても良かったのにと肩を落とすが、気にしても意味はない。
「静華、貴方の部屋は片づけてあるから、荷物を置いて顔と手を洗っちゃいなさい。そして、今日はゆっくり休みなさい」
「え、いいの?」
「色々あったのでしょう? 気にしなくていいから」
柔和な笑みを浮かべる美鈴に、静華は数年ぶりの安心感を覚え、「わかった」と頷いた。
奏多とも別れ、自室へと向かう。
家の中は、和モダンと呼ばれるデザイン。
襖一枚で部屋を分け、廊下以外の床はフローリングではなく、畳。
静華が一人暮らししていた時の部屋とは、全く違う作りの実家。
心温まる廊下を歩き、自身の部屋へと入る為、襖を開けた。
中は、必要最低限な物しか置かれていない。
畳の上には、丸いテーブルと座布団。
壁の方には布団が綺麗に畳まれている。
――――綺麗なままだ。お母さん、私がいなくなった後も掃除してくれていたんだ。
その事実に気づき、目じりが熱くなる。
同時に、後ろから声が聞こえた。
「静華、おばさんから預かった荷物、どこにおっ――――」
反射的に振り向いてしまった静華の目元には、薄く涙が浮かんでいた。
その姿に、荷物を預かっていた奏多は面食らう。
「あっ、ご、ごめん、ありがとう!」
すぐに目元を拭き誤魔化そうと荷物を受け取る。
だが、伸ばした手は、大きな手により捕まれ、引き寄せられた。
――――ポフッ
次に感じたのは、体を包み込む優しい温もりと、心音。
奏多が、静華を抱きしめた。
「か、奏多!?」
驚きのあまり声を上げてしまった静華だが、奏多は動揺を一切見せない。
優しく背中を撫で、抱きしめ続ける。
ザワザワとしていた心が落ち着き始め、ドキドキと心臓が音を鳴らす。
――――な、何で私、奏多に抱きしめられているの?
分からないままパニックになっていると、奏多が低い声で囁いた。
「――――悪い。荷物、ここに置いておくから」
グィッと静華を離し、荷物は襖の近くに。
それだけを言い残し、出て行った。
「……………………え!?」
一気に思考が周り、覚醒。
ブワッと顔が真っ赤になり、頬を抑える。
「あ、え?」
体から力が抜け、その場にへたり込む。
その場からすぐに動くことができない。
赤面したまま、自身の体を抱えるように、残っている微かな温もりに触れた。
「久しぶりだな、静華。元気がないみたいだが、どうしたんだ?」
明るい茶髪に、シルバーのネックレス。
黒い半そでシャツに、ジーンズと、動きやすい服装。
声は一般男性より低く、艶がある。
「え、えっと」
――――久しぶり過ぎて、言葉が出てこない。
久しぶりに見た幼馴染は、静華の記憶とは大きく変わり、かっこよくなっていた。
別れたのは、五年前。
雰囲気が大きく変わり、静華は驚愕。
大人な男と言った感じで、目を合わせられない。
――――年上だから、大人の男と思うのはそうなんだけど、なんか、違う。
都会に住んでいた時も、奏多と同じ年齢の人は周りに沢山いた。
でも、みんな醜くて、見た目が良くても近づきたいとは思わなかった。
それなのに、奏多を見ると言葉が出ず、目を逸らしてしまう。
顔を俯かせ何も言わなくなってしまった静華を目の前に、奏多は首を傾げ近づく。
顎に手を添え、目線を上げさえた。
「…………隈、酷いな。顔色も悪い、移動で疲れただけじゃねぇよな?」
「い、いや、その…………」
「早急に体を休めた方がよさそうだな。翔がいるが、俺が相手しておく。お前は自分の部屋で休んでおけ」
手を引かれ中に入ると、廊下で翔を抱きかかえ待っている美鈴がいた。
「あら、奏多君。こんにちは」
「こんにちは、勝手に上がってしまいすいません」
「大丈夫よ」
ニコッと笑いかける母親より、静華は抱きかかえられ目を丸くしている子供に目が行ってしまう。
――――この子って、誰なんだろう。
見ていると、子供とパチッと目が合ってしまった。
息を飲み、真ん丸な茶色の瞳を見続ける。
「そう言えば、静華は翔と会うのは初めてか?」
「え、う、うん」
パッと目を逸らし、隣に立つ奏多を見上げると、簡単に説明をしてくれた。
「翔は美波さんの子供だよ。だから、静華とは従弟になる」
「え、美波おばさんの?」
美波とは、静華にとってのおばさんに当たる人。
美鈴の妹で、今は結婚して家族を持っている。
「私、聞いていないんだけど。美波おばさんに子供がいたの……」
「静華がここから出て行った後の話だからな」
――――あ、そういうことか。
確かに、出て行った後なのなら情報が回ってこないのは頷ける。
そうだったとしても、少しくらいは教えてくれても良かったのにと肩を落とすが、気にしても意味はない。
「静華、貴方の部屋は片づけてあるから、荷物を置いて顔と手を洗っちゃいなさい。そして、今日はゆっくり休みなさい」
「え、いいの?」
「色々あったのでしょう? 気にしなくていいから」
柔和な笑みを浮かべる美鈴に、静華は数年ぶりの安心感を覚え、「わかった」と頷いた。
奏多とも別れ、自室へと向かう。
家の中は、和モダンと呼ばれるデザイン。
襖一枚で部屋を分け、廊下以外の床はフローリングではなく、畳。
静華が一人暮らししていた時の部屋とは、全く違う作りの実家。
心温まる廊下を歩き、自身の部屋へと入る為、襖を開けた。
中は、必要最低限な物しか置かれていない。
畳の上には、丸いテーブルと座布団。
壁の方には布団が綺麗に畳まれている。
――――綺麗なままだ。お母さん、私がいなくなった後も掃除してくれていたんだ。
その事実に気づき、目じりが熱くなる。
同時に、後ろから声が聞こえた。
「静華、おばさんから預かった荷物、どこにおっ――――」
反射的に振り向いてしまった静華の目元には、薄く涙が浮かんでいた。
その姿に、荷物を預かっていた奏多は面食らう。
「あっ、ご、ごめん、ありがとう!」
すぐに目元を拭き誤魔化そうと荷物を受け取る。
だが、伸ばした手は、大きな手により捕まれ、引き寄せられた。
――――ポフッ
次に感じたのは、体を包み込む優しい温もりと、心音。
奏多が、静華を抱きしめた。
「か、奏多!?」
驚きのあまり声を上げてしまった静華だが、奏多は動揺を一切見せない。
優しく背中を撫で、抱きしめ続ける。
ザワザワとしていた心が落ち着き始め、ドキドキと心臓が音を鳴らす。
――――な、何で私、奏多に抱きしめられているの?
分からないままパニックになっていると、奏多が低い声で囁いた。
「――――悪い。荷物、ここに置いておくから」
グィッと静華を離し、荷物は襖の近くに。
それだけを言い残し、出て行った。
「……………………え!?」
一気に思考が周り、覚醒。
ブワッと顔が真っ赤になり、頬を抑える。
「あ、え?」
体から力が抜け、その場にへたり込む。
その場からすぐに動くことができない。
赤面したまま、自身の体を抱えるように、残っている微かな温もりに触れた。
1
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
報酬はその笑顔で
鏡野ゆう
ライト文芸
彼女がその人と初めて会ったのは夏休みのバイト先でのことだった。
自分に正直で真っ直ぐな女子大生さんと、にこにこスマイルのパイロットさんとのお話。
『貴方は翼を失くさない』で榎本さんの部下として登場した飛行教導群のパイロット、但馬一尉のお話です。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる