2 / 48
初夏
麦わら帽子の少年
しおりを挟む
メールアプリを開くと、差出人は静華の幼馴染。
内容を読むと、静華の身体は勝手に動いた。
会社には退職届を出し、有休消化。
すぐにやめる事は出来なかったが、なにがなんでもやめてやると言う強い意思を見せつけた。
弱った心にグサグサと、言葉のナイフを沢山刺される。
心が痛み、脳が全ての言葉を拒否。
全てを遮断し、手続きを終わらせた。
今は、少ない荷物を持ち、電車に揺られている。
向っている先は、自身の実家。
――――絶対に成功させるって言って出てきたのに、今更戻るなんて……。
でも、もうあんな生活はしたくない。
もう、戻りたくない。
都会に夢を見た自分が馬鹿だった。
後悔しても遅く、目じりが熱くなる。
ごしっと目元を拭き、移り変わる景色を窓から覗く。
今は梅雨が終わり、夏。
青空が広がり、緑が風で揺れていた。
息を吐き、視線をスマホに移す。
そこには幼馴染からのメール。
パソコンとスマホは連動させている為、スマホでも見る事は可能。
件名 久しぶり
本文
久しぶりだな、静華。奏多だが、覚えているか?
都会はどうだ。小説のように華やかか?
俺の方はイラストレーターとして成長している。
今はお小遣い程度しか稼げていないが、年々入ってくるお金も増えて、このまま進めばいい線まで行けるんじゃないかと思っている。
静華はまだ小説を書いているか?
もしよかったら、お前の小説の登場人物か、表紙を書きたいと思って連絡したんだ。
時間がある時、返事をもらえると嬉しい。
都会の生活、頑張ってくれ。
何度も読み直している本文、淡々としているが、確実に今の静華の心に深くまで突き刺さる文。
――――奏多は子供の時から絵を描いていた。私が小説を書き始めたのと同じ時に。
そんな奏多と比べ、自分はどうだろう。
都会への憧れだけで実家を出て、大企業に勤める事になったと喜んで。
でも、そこはブラック企業だった。
安い賃金で休みなく働かせる。
管理職は、沢山の給料をもらっていると耳にしたことがあった。
それでも、いつかは報われると、自分の好きな小説を捨て頑張ってきた。
それは意味がなかったんだと、奏多からのメールで思い知らされてしまい、素直に喜ぶことが出来ない。
こんな自分が嫌で、なにもうまくいかない生活に嫌気がさして。
逃げるように実家に帰る自分。
嫌悪感と嫉妬心で押しつぶされそうになる。
ため息が零れ、またして視線を外へと戻す。
実家まで、もう少し――――…………
・
・
・
・
・
・
電車から降り、駅から外へと足を踏み出す。
サァァァと、風が吹き荒れ、静華の長い黒髪が舞いあがる。
手櫛で整えると、五年間離れていた田舎の景色が、静華の瞳を輝かせた。
澄んでいる青空、緑が風で揺れ、踊っている。
陽光が燦々と降り注ぎ、静華の額に一粒の汗が滲み出た。
懐かしい光景に目が奪われつつ、立ち尽くしていても仕方がない。
静華は、ポケットからイヤホンを取り出し耳に付けようとする。
だが、その手は途中で止まった。
――――都会みたいにうるさいわけじゃないし、別にいいか。
すぐにイヤホンをポケットの中に戻し、自然の音を楽しみながら歩き出す。
キャリーケースが地面の凸凹で、カラカラと音を鳴らす。
――――カラカラ カラカラ
コンクリートではない地面、青空が広がる視界、鳥の声や草木が重なる音。
どれも、都会では意識しなければ気にもしなかった自然の音楽。
田舎だからこそ味わう事が出来る自然の味に、静華は目を細め、口角を上げる。
――――なんで、出てきてしまったのだろう。
憧れという物は恐ろしい。
そう思いつつ田舎道を歩いていると、畑で田植えをしている老人二人にあいさつをされた。
最初は驚きつつも、「そう言えば、小さい頃は挨拶していたな」と、すぐに会釈。
これも、田舎の醍醐味だなと思いつつ、再度歩き出し実家へと辿り着いた。
実家は築数十年の平屋。
周りは緑に囲まれ、葉などが玄関口で風に乗り揺れていた。
都会に出る前までは毎日のように見ていた光景。
懐かしいと立ち止まっていると、見知った景色に見覚えのない少年がおり、思わず目を丸くした。
「…………」
「………………え?」
麦わら帽子をかぶった、一人の子供。
静華の来訪に、子供も目を丸くする。
――――な、なんでここに子供が? 近所の子? え、迷子?
よくわからないまま思考がグルグルと回る。
無視してもいいのかわからず見下ろし続けていると、家の中から一人の女性が姿を現した。
「あら、帰っていたのね。お帰りなさい」
「あ、お母さん」
大きな平屋の玄関から顔を覗かせたのは、静華の母親、鈴夏美鈴。
肩までの黒髪を後ろで結び、白いエプロンを付けている。
柔和な笑みを浮かべ、静華の手荷物を受け取ると中へ入るように促した。
その時、子供の手も引く。
「翔君も、今日は中で遊ぼうか」
「うん!!」
美鈴に手を引かれ、家の中に入る二人の姿を見て、静華は動けず唖然。
――――だ、誰の、子供!?
口をワナワナと震わせ立ち尽くしていると、後ろから名前を呼ばれ振り向く。
そこには、静華の幼馴染であり、メールを送った張本人、詩想奏多が立っていた。
内容を読むと、静華の身体は勝手に動いた。
会社には退職届を出し、有休消化。
すぐにやめる事は出来なかったが、なにがなんでもやめてやると言う強い意思を見せつけた。
弱った心にグサグサと、言葉のナイフを沢山刺される。
心が痛み、脳が全ての言葉を拒否。
全てを遮断し、手続きを終わらせた。
今は、少ない荷物を持ち、電車に揺られている。
向っている先は、自身の実家。
――――絶対に成功させるって言って出てきたのに、今更戻るなんて……。
でも、もうあんな生活はしたくない。
もう、戻りたくない。
都会に夢を見た自分が馬鹿だった。
後悔しても遅く、目じりが熱くなる。
ごしっと目元を拭き、移り変わる景色を窓から覗く。
今は梅雨が終わり、夏。
青空が広がり、緑が風で揺れていた。
息を吐き、視線をスマホに移す。
そこには幼馴染からのメール。
パソコンとスマホは連動させている為、スマホでも見る事は可能。
件名 久しぶり
本文
久しぶりだな、静華。奏多だが、覚えているか?
都会はどうだ。小説のように華やかか?
俺の方はイラストレーターとして成長している。
今はお小遣い程度しか稼げていないが、年々入ってくるお金も増えて、このまま進めばいい線まで行けるんじゃないかと思っている。
静華はまだ小説を書いているか?
もしよかったら、お前の小説の登場人物か、表紙を書きたいと思って連絡したんだ。
時間がある時、返事をもらえると嬉しい。
都会の生活、頑張ってくれ。
何度も読み直している本文、淡々としているが、確実に今の静華の心に深くまで突き刺さる文。
――――奏多は子供の時から絵を描いていた。私が小説を書き始めたのと同じ時に。
そんな奏多と比べ、自分はどうだろう。
都会への憧れだけで実家を出て、大企業に勤める事になったと喜んで。
でも、そこはブラック企業だった。
安い賃金で休みなく働かせる。
管理職は、沢山の給料をもらっていると耳にしたことがあった。
それでも、いつかは報われると、自分の好きな小説を捨て頑張ってきた。
それは意味がなかったんだと、奏多からのメールで思い知らされてしまい、素直に喜ぶことが出来ない。
こんな自分が嫌で、なにもうまくいかない生活に嫌気がさして。
逃げるように実家に帰る自分。
嫌悪感と嫉妬心で押しつぶされそうになる。
ため息が零れ、またして視線を外へと戻す。
実家まで、もう少し――――…………
・
・
・
・
・
・
電車から降り、駅から外へと足を踏み出す。
サァァァと、風が吹き荒れ、静華の長い黒髪が舞いあがる。
手櫛で整えると、五年間離れていた田舎の景色が、静華の瞳を輝かせた。
澄んでいる青空、緑が風で揺れ、踊っている。
陽光が燦々と降り注ぎ、静華の額に一粒の汗が滲み出た。
懐かしい光景に目が奪われつつ、立ち尽くしていても仕方がない。
静華は、ポケットからイヤホンを取り出し耳に付けようとする。
だが、その手は途中で止まった。
――――都会みたいにうるさいわけじゃないし、別にいいか。
すぐにイヤホンをポケットの中に戻し、自然の音を楽しみながら歩き出す。
キャリーケースが地面の凸凹で、カラカラと音を鳴らす。
――――カラカラ カラカラ
コンクリートではない地面、青空が広がる視界、鳥の声や草木が重なる音。
どれも、都会では意識しなければ気にもしなかった自然の音楽。
田舎だからこそ味わう事が出来る自然の味に、静華は目を細め、口角を上げる。
――――なんで、出てきてしまったのだろう。
憧れという物は恐ろしい。
そう思いつつ田舎道を歩いていると、畑で田植えをしている老人二人にあいさつをされた。
最初は驚きつつも、「そう言えば、小さい頃は挨拶していたな」と、すぐに会釈。
これも、田舎の醍醐味だなと思いつつ、再度歩き出し実家へと辿り着いた。
実家は築数十年の平屋。
周りは緑に囲まれ、葉などが玄関口で風に乗り揺れていた。
都会に出る前までは毎日のように見ていた光景。
懐かしいと立ち止まっていると、見知った景色に見覚えのない少年がおり、思わず目を丸くした。
「…………」
「………………え?」
麦わら帽子をかぶった、一人の子供。
静華の来訪に、子供も目を丸くする。
――――な、なんでここに子供が? 近所の子? え、迷子?
よくわからないまま思考がグルグルと回る。
無視してもいいのかわからず見下ろし続けていると、家の中から一人の女性が姿を現した。
「あら、帰っていたのね。お帰りなさい」
「あ、お母さん」
大きな平屋の玄関から顔を覗かせたのは、静華の母親、鈴夏美鈴。
肩までの黒髪を後ろで結び、白いエプロンを付けている。
柔和な笑みを浮かべ、静華の手荷物を受け取ると中へ入るように促した。
その時、子供の手も引く。
「翔君も、今日は中で遊ぼうか」
「うん!!」
美鈴に手を引かれ、家の中に入る二人の姿を見て、静華は動けず唖然。
――――だ、誰の、子供!?
口をワナワナと震わせ立ち尽くしていると、後ろから名前を呼ばれ振り向く。
そこには、静華の幼馴染であり、メールを送った張本人、詩想奏多が立っていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い
ヲダツバサ
キャラ文芸
「これは、私達だけの秘密ね」
京都の料亭を継ぐ予定の兄を支えるため、召使いのように尽くしていた少女、こがね。
兄や家族にこき使われ、言いなりになって働く毎日だった。
しかし、青年の姿をした日本刀の付喪神「美雲丸」との出会いで全てが変わり始める。
女の子の姿をした招き猫の付喪神。
京都弁で喋る深鍋の付喪神。
神秘的な女性の姿をした提灯の付喪神。
彼らと、失くし物と持ち主を合わせるための店「失くし物屋」を通して、こがねは大切なものを見つける。
●不安や恐怖で思っている事をハッキリ言えない女の子が成長していく物語です。
●自分の持ち物にも付喪神が宿っているのかも…と想像しながら楽しんでください。
2024.03.12 完結しました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
私たちはリアルを愛せない
星空永遠
ライト文芸
少女は架空のキャラクターに恋をしていた。推しとは少し違う。少女はキャラクターが実際に存在してるようにキャラクターと会話をしたり、キャラクターと交際してるかのように二人きりになると普通の男女のようにイチャイチャする。実在の他者には恋をせず、惹かれもしない。そんな少女はフィクトセクシュアルという心の病を抱えている。これは誰にも理解されない。少女と同じように少年もまた同じ悩みを抱えていた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる