生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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旦那様と熱

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 はっきりと言い切ると、神空さんは目を細めた。

 な、何か言いたい事があるのだろうか。
 彼のレンズの奥に潜む深緑色の瞳に見つめられると、なんとなく気まずくなる。

 目を逸らせば失礼に当たるかもしれぬから、逸らせん……。
 な、何か話してほしいのだが……。

「――――そうですか。幸せなら良かったです」

「は、はぁ」

 よ、良かった。
 何か無礼を働いたかと思ったぞ。

「あやかしに人間が嫁入りするのは私が生きてきた中で初めてのこと。九尾とも話し合いましたが、貴方にお願いしてよかったのかもしれないですね。今回で、新しい世界がまた一つ、広がります」

 お刺身を一つ口に含み、神空さんは水色の髪を耳にかけると優しく微笑む。

「ですが、まだ油断してはいけませんよ。あやかしと人間ではまだまだ苦難があります。例えば、跡取り、とか」

「む、ま、まだそこまでは…………」

「それはあやかしである貴方の感覚でしょう? 人間とあやかしでは生きる時が違う。人間は儚く散ってしまいます。確実に貴方より先に、散りますよ。なので、ゆっくりもしない方がいいかなと思います」

 生きる時が違う、か……。たしかに、それはそうだな。
 華鈴は今、二十才。我はもう華鈴の何十倍の時を生きておる。同じ感覚で考えていては駄目か。

 むむ、だが跡取りとなると、それはまたしても難しいことだ。
 つい最近、やっと華鈴の額にキスを落とせた程度。それ以上はまだ我が難しい。心臓と理性が破裂してしまう。

 それだけではなく、華鈴はどうしても自分に自信を持てない。
 我が何か言えば我慢して、無理をする。それだけはどうしても避けたいのだ。

 だが、跡取り……むむむ………。

 思わず考え込んでしまうと、神空さんの視線が刺さる。

「七氏さんは、やはり真面目な方なのですね。そこまで真剣に考え込むとは思いませんでしたよ」

「え、あ、すいません。一人で考え込んでしまって」

「大丈夫です、貴方がどれだけ真剣に奥様を考えているのか。どれだけ大事になされているのか。それがわかることによりこちらは安心できますので……ふふっ」

 思いっきり楽しんでいるのがわかるな、我の反応で。

「では、今日お急ぎなのは奥様に何かあったのでしょうか?」

「は、はい。実は、妻が熱を出してしまっており、そばにいてあげたかったのだが……」

 言うと、神空さんは目を丸くし手に持っていた箸を落としてしまった。
 なぜ、そんなに驚いたのだ?

「な、な……」

「???」

「何をしているのですか貴方は!!!」

「――――えっ」

 い、いきなり怒鳴られてしまった。

 …………え、もしかして怒らせてしまったのか!? ま、まずい、早く謝らなければ!

 だが、なにに対して謝ればよいのだ。
 神空さんは何に対し怒っているのだ、わからぬ!!

 わからないままでは謝れん!!

 戸惑っていると、神空さんが我の方へと歩き近づいてくる。肩を掴まれ、ガクガクと体を揺らされた。
 あ、あ、頭が、脳みそが揺れる、気持ちが悪い!!

「貴方は早く奥様の方へ行ってあげてください!! 私など優先しなくても良いのですよ! なぜ奥様を優先しなかったのですか!!」

「い、いえ。神空さんがお忙しい中お時間を割いてくださったので、なんとしてでも行かなければと思い…………」

「私のことは後でよいのです!! 良いから、早く戻ってください! ここは私がお支払いしておきますので!」

 無理やり立たされ、廊下へと押されてしまった。
 これは、早く戻らないといけないということっ――……

「では、また後日! 奥様が元気になった時にでも話の続きを致しましょう!」

 ――――パチン

 神空さんが我を廊下に出すと同時に、指をパチンと鳴らす。
 すると、硬い床を踏んでいた我は、いつの間にか地面を踏みしめていた。

 周りを見回すと、後ろにはあやかし世界に戻る神木が風に揺られ立っている。

 神空さんが我をここまで送り届けてくれたのか。それはものすごく助かるな。

 助かるが、大丈夫だろうか。
 我は、迷惑をかけてしまったのだろうか。

 …………いや、今は華鈴だ。熱が引いたか確認しなければ。

 神木に手を触れあやかしの世界へ戻り、早く華鈴に会いに行こう。
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