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旦那様と熱
10ー2
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人間世界の長、神空チガヤさんに付いて行くと高級料亭に案内された。
緑に囲まれた和装建築の建物。名前は”蒲公英亭”。
落ち着いた雰囲気と豪華な料理で有名なのだと、移動途中に神空さんに教えていただいた。
完全予約制とのことらしいが、神空さんが事前に全て済ませてくれていたみたいだ。
受付の者に名を言うと、すぐに通してもらえた。
部屋へ入ると、二人で使用するには大きすぎるほどの大部屋。中心にはすでに料理とお酒が用意されている。
まだ湯気が立っているのもあるな、今さっき準備が整ったのか。
「では、ごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうございますねぇ」
そそくさと居なくなった女性に手を振り、神空さんは我に座るように促してくる。
素直に座り姿勢を整えると、さっそくいつものように近況報告という名の雑談が始まった。
「今月も足をお運びいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。お時間を作ってくださり、ありがとうございます」
頭を下げ言うと、神空さんがケラケラと笑い、お手拭きを手にした。
「そう固くならなくても大丈夫ですよ。いつも言っているでしょう、普段の貴方と話がしたいと」
「ですが…………」
「貴方の父上である九尾さんは、すぐにすべてをさらけ出してくれたんですけどねぇ。それはもう、本当にすべてを……ふふっ」
え、なんですかその含みのある笑い。
父上は一体どこまで晒したのですか、気になりますが聞きたくありません。
自身が尊敬している父上の失態は、出来る限り聞きたくない。
普段から失態を晒しているもんだが……。
「それはそうと、今日は何時間共に過ごしましょうか。私の方は今日一日空けておりますのでいつまでも大丈夫ですよ」
「毎度聞いてくださいますが、いつも延長が入るではありませんか…………」
御酒を飲むと人が変わる神空さんは、本題に入る前には必ずこのように聞いてくれる。
だが、毎回必ず延長三時間は入ってしまうのだ。
いつものように返していると、神空さんが首を傾げ目を丸くし我を見てきた。どうしたのだろうか。
「…………今日はお急ぎかな?」
「っ! えっ。い、いえ。いつまでもお付き合いいたしますよ」
な、なぜ気づかれた? まさか、態度に出てしまっていたのか?
いつものように話していたはずなのだが、どこで……。
…………せっかく時間を合わせてくださったのだから、ここで無礼な態度をとるわけにはいかぬ。
神空さんは普段は温厚で、怒っているところなど見たことはない。
だが、本気で怒らせてはいけないと父上と母上は言っていた。
なんと、国一つを簡単に亡ぼせるとか何とか……。
華鈴の事はものすごく心配だが、女中達に任せるしか今はできぬ。
「では、お注ぎいたしますよ」
なんとか今の空気を変えなければ……。
変に諭され気を使われてはならん。場所も予約をしてくださったのだ、いつものように過ごすぞ。
「…………いえ、今日は御酒の気分ではありません、遠慮しますね」
「っ、え、ですが…………」
「それより、今日は食べ物の方を楽しみましょうか」
小皿を手に取り、準備されているお刺身や天ぷらをよそい渡してくる。
手に持ったお酒を下ろし素直に受け取ると、何故か嬉しそうに笑った。
な、何を考えておるのだ?
なんだか、怖いのだが……。
「そう緊張しなくても大丈夫だと言っているんですがねぇ。――では、まずは私の方から報告させていただきましょうか」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ここからはいつもの報告会。人間世界では大きな事件がないと、後十年は問題は起きないと話してくださった。
我もあやかしの世界での出来事を話す。しかし、こちらも大きな事件や事故などは起きてはいないため、すぐに終わる。
特別に話さなければならないのは、自我を失ったあやかしが人間を驚かせていた事くらいだ。
そちらに関してはきっちりと謝罪も含め伝えると、笑って許してくださった。
「その事なら既に把握しておりますよ。すぐに七氏さんが対処してくださったことも伝えられております。なので、安心してください」
「それなら安心しました。私の不手際でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですよ。人間は出来る事が限られるため、次の行動を予想できますが、あやかしはいつ何時何が起こるかわかりません。いつでも完璧に管理など難しいでしょう。それをしていた九尾さんが化け物なだけです」
神空さんの言う通り、父上はあやかし達全員を完璧に束ね、抑制していた。
時々、人間世界でアバ手相になったあやかしもいたらしいが、暴れる前に駆けつけていた。
本当に我の父上はすごすぎる、後を継ぐ我の事も考えてほしいものだ。
「それと、これは私が個人として気になるだけですが、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「は、はい。お答えできる物でしたらなんでもお答えさせていただきます」
「では、一つ。七氏さんの恋愛事情をお聞きしたいと思いまして」
「っ、え、我の恋愛事情?」
――――あ、お、驚きすぎて素が出てしまった。
慌てて口を塞ぐが、もう遅いらしい。
神空さんは、によによと笑いながら我を見て来る。
「それが貴方の素なのですね。そちらでお話しください、その方が私も話しやすい」
「は、はぁ。申し訳ありません………」
「ふふっ。では、話を戻しますね。七氏さんは人間の女性とご結婚されたと聞きましたが、いかがですか?」
「い、いかがとは?」
質問を思わず返してしまうと、にまにました笑みを返された。
な、なんだのだ。
「結婚生活は幸せですか? あやかしと人間では感覚や生活環境など。色々異なる部分が多いと思います、大変ではないでしょうか?」
む、なるほど、そういう事か。
それなら簡単に答えられるぞ。
「大変など、一度も思った事はありませんよ。毎日が楽しく、我が幸せにするはずが、幸せを頂いてばかりの毎日です」
緑に囲まれた和装建築の建物。名前は”蒲公英亭”。
落ち着いた雰囲気と豪華な料理で有名なのだと、移動途中に神空さんに教えていただいた。
完全予約制とのことらしいが、神空さんが事前に全て済ませてくれていたみたいだ。
受付の者に名を言うと、すぐに通してもらえた。
部屋へ入ると、二人で使用するには大きすぎるほどの大部屋。中心にはすでに料理とお酒が用意されている。
まだ湯気が立っているのもあるな、今さっき準備が整ったのか。
「では、ごゆるりとお過ごしください」
「ありがとうございますねぇ」
そそくさと居なくなった女性に手を振り、神空さんは我に座るように促してくる。
素直に座り姿勢を整えると、さっそくいつものように近況報告という名の雑談が始まった。
「今月も足をお運びいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。お時間を作ってくださり、ありがとうございます」
頭を下げ言うと、神空さんがケラケラと笑い、お手拭きを手にした。
「そう固くならなくても大丈夫ですよ。いつも言っているでしょう、普段の貴方と話がしたいと」
「ですが…………」
「貴方の父上である九尾さんは、すぐにすべてをさらけ出してくれたんですけどねぇ。それはもう、本当にすべてを……ふふっ」
え、なんですかその含みのある笑い。
父上は一体どこまで晒したのですか、気になりますが聞きたくありません。
自身が尊敬している父上の失態は、出来る限り聞きたくない。
普段から失態を晒しているもんだが……。
「それはそうと、今日は何時間共に過ごしましょうか。私の方は今日一日空けておりますのでいつまでも大丈夫ですよ」
「毎度聞いてくださいますが、いつも延長が入るではありませんか…………」
御酒を飲むと人が変わる神空さんは、本題に入る前には必ずこのように聞いてくれる。
だが、毎回必ず延長三時間は入ってしまうのだ。
いつものように返していると、神空さんが首を傾げ目を丸くし我を見てきた。どうしたのだろうか。
「…………今日はお急ぎかな?」
「っ! えっ。い、いえ。いつまでもお付き合いいたしますよ」
な、なぜ気づかれた? まさか、態度に出てしまっていたのか?
いつものように話していたはずなのだが、どこで……。
…………せっかく時間を合わせてくださったのだから、ここで無礼な態度をとるわけにはいかぬ。
神空さんは普段は温厚で、怒っているところなど見たことはない。
だが、本気で怒らせてはいけないと父上と母上は言っていた。
なんと、国一つを簡単に亡ぼせるとか何とか……。
華鈴の事はものすごく心配だが、女中達に任せるしか今はできぬ。
「では、お注ぎいたしますよ」
なんとか今の空気を変えなければ……。
変に諭され気を使われてはならん。場所も予約をしてくださったのだ、いつものように過ごすぞ。
「…………いえ、今日は御酒の気分ではありません、遠慮しますね」
「っ、え、ですが…………」
「それより、今日は食べ物の方を楽しみましょうか」
小皿を手に取り、準備されているお刺身や天ぷらをよそい渡してくる。
手に持ったお酒を下ろし素直に受け取ると、何故か嬉しそうに笑った。
な、何を考えておるのだ?
なんだか、怖いのだが……。
「そう緊張しなくても大丈夫だと言っているんですがねぇ。――では、まずは私の方から報告させていただきましょうか」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ここからはいつもの報告会。人間世界では大きな事件がないと、後十年は問題は起きないと話してくださった。
我もあやかしの世界での出来事を話す。しかし、こちらも大きな事件や事故などは起きてはいないため、すぐに終わる。
特別に話さなければならないのは、自我を失ったあやかしが人間を驚かせていた事くらいだ。
そちらに関してはきっちりと謝罪も含め伝えると、笑って許してくださった。
「その事なら既に把握しておりますよ。すぐに七氏さんが対処してくださったことも伝えられております。なので、安心してください」
「それなら安心しました。私の不手際でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですよ。人間は出来る事が限られるため、次の行動を予想できますが、あやかしはいつ何時何が起こるかわかりません。いつでも完璧に管理など難しいでしょう。それをしていた九尾さんが化け物なだけです」
神空さんの言う通り、父上はあやかし達全員を完璧に束ね、抑制していた。
時々、人間世界でアバ手相になったあやかしもいたらしいが、暴れる前に駆けつけていた。
本当に我の父上はすごすぎる、後を継ぐ我の事も考えてほしいものだ。
「それと、これは私が個人として気になるだけですが、お伺いしてもよろしいでしょうか」
「は、はい。お答えできる物でしたらなんでもお答えさせていただきます」
「では、一つ。七氏さんの恋愛事情をお聞きしたいと思いまして」
「っ、え、我の恋愛事情?」
――――あ、お、驚きすぎて素が出てしまった。
慌てて口を塞ぐが、もう遅いらしい。
神空さんは、によによと笑いながら我を見て来る。
「それが貴方の素なのですね。そちらでお話しください、その方が私も話しやすい」
「は、はぁ。申し訳ありません………」
「ふふっ。では、話を戻しますね。七氏さんは人間の女性とご結婚されたと聞きましたが、いかがですか?」
「い、いかがとは?」
質問を思わず返してしまうと、にまにました笑みを返された。
な、なんだのだ。
「結婚生活は幸せですか? あやかしと人間では感覚や生活環境など。色々異なる部分が多いと思います、大変ではないでしょうか?」
む、なるほど、そういう事か。
それなら簡単に答えられるぞ。
「大変など、一度も思った事はありませんよ。毎日が楽しく、我が幸せにするはずが、幸せを頂いてばかりの毎日です」
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