44 / 79
七氏と巫女の出会い
8ー17
しおりを挟む
満月の夜、雲が一つもなく星空が広がっていた。
カサカサと、森の中を歩いている一人の男性。
黒い着物に白地の羽織、黒い龍の刺繍が施されていた。
口元に浮かぶのは、微かな笑み。
顔には目元を隠すように黒く、四角い布が付けられ風で揺れていた。
「やっと、ぬしを助けられるぞ。巫女よ」
嬉しそうに呟く男性が向かった先は、現代に繋がる道を作り出してくれる神木。
長い銀髪を揺らし、目の前にそびえたつ神木を見上げ、黒い布を横へと微かにずらす。
藍色の瞳には、風で揺れている草木が映し出された。
「あやかしの長になった今、今までの我とは違う。人間とあやかしの共存が可能なのなら、人間とあやかしの恋愛も可能のはずだ。――――いや、”はず”ではない。確実に可能とする。それを証明するためには、まず我が巫女を落とさねばならんな。必ず、我を愛してやまなくしてやろうぞ」
拳を握り気合を入れた男性は、あやかしの長になった九尾の実の息子である七氏。
彼は気合を入れ、目の前に立っている神木に触れた。
すると、淡く光っていた神木が強い光を放つ。
今ではその光にも慣れ、冷静に落ち着くのを待った。
数秒後、光が落ち着き元の神木へと戻る。
「うまくいったらしいな」
にんまりと笑う七氏は、右手を神木の中へと入れ始めた。
ズズズッと手、腕、肩、体……。
徐々に神木の中に消えていく。
最後に地面を踏みしめていた足も神木の中へと入れ、完全に姿を消した。
神木の中へと姿を消した七氏を、後ろから見ていた父親である九尾と、母親である氷璃は安心したように見届ける。
「本当によろしかったのですか、九尾様。本来なら、まだ数百年と修行をしなければあやかしの長にはなれないというのに」
「大丈夫であろう。それに、ワシらの時に合わせていたら人間は朽ち果てる。人間に合わせるということは、今回のような事態にも対応しなければならんということだ。それで、これを望んだのは誰でもない七氏だ」
「ふふっ、そうね。これから、どのような生活を送るのでしょうか。私達は隠居生活をしながら待ち続けましょう。七氏が夢を掴む、その日まで」
お互い見つめ合い微笑むと、指をからめその場から忽然と姿を消した。
それはまるで、森に吹く風が二人を連れて行ってしまったかのよう。
神木は今だ淡い光が放たれており、七氏と、もう一人の女性の帰りを待ち続けていた――……
・
・
・
・
・
・
『ぬし、我の嫁となれ』
カサカサと、森の中を歩いている一人の男性。
黒い着物に白地の羽織、黒い龍の刺繍が施されていた。
口元に浮かぶのは、微かな笑み。
顔には目元を隠すように黒く、四角い布が付けられ風で揺れていた。
「やっと、ぬしを助けられるぞ。巫女よ」
嬉しそうに呟く男性が向かった先は、現代に繋がる道を作り出してくれる神木。
長い銀髪を揺らし、目の前にそびえたつ神木を見上げ、黒い布を横へと微かにずらす。
藍色の瞳には、風で揺れている草木が映し出された。
「あやかしの長になった今、今までの我とは違う。人間とあやかしの共存が可能なのなら、人間とあやかしの恋愛も可能のはずだ。――――いや、”はず”ではない。確実に可能とする。それを証明するためには、まず我が巫女を落とさねばならんな。必ず、我を愛してやまなくしてやろうぞ」
拳を握り気合を入れた男性は、あやかしの長になった九尾の実の息子である七氏。
彼は気合を入れ、目の前に立っている神木に触れた。
すると、淡く光っていた神木が強い光を放つ。
今ではその光にも慣れ、冷静に落ち着くのを待った。
数秒後、光が落ち着き元の神木へと戻る。
「うまくいったらしいな」
にんまりと笑う七氏は、右手を神木の中へと入れ始めた。
ズズズッと手、腕、肩、体……。
徐々に神木の中に消えていく。
最後に地面を踏みしめていた足も神木の中へと入れ、完全に姿を消した。
神木の中へと姿を消した七氏を、後ろから見ていた父親である九尾と、母親である氷璃は安心したように見届ける。
「本当によろしかったのですか、九尾様。本来なら、まだ数百年と修行をしなければあやかしの長にはなれないというのに」
「大丈夫であろう。それに、ワシらの時に合わせていたら人間は朽ち果てる。人間に合わせるということは、今回のような事態にも対応しなければならんということだ。それで、これを望んだのは誰でもない七氏だ」
「ふふっ、そうね。これから、どのような生活を送るのでしょうか。私達は隠居生活をしながら待ち続けましょう。七氏が夢を掴む、その日まで」
お互い見つめ合い微笑むと、指をからめその場から忽然と姿を消した。
それはまるで、森に吹く風が二人を連れて行ってしまったかのよう。
神木は今だ淡い光が放たれており、七氏と、もう一人の女性の帰りを待ち続けていた――……
・
・
・
・
・
・
『ぬし、我の嫁となれ』
0
https://accaii.com/sakurannbo398/?msg=signup
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?
しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。
いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。
どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。
そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います?
旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる