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七氏と巫女の出会い
8ー16
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恥ずかしい、さすがに恥ずかしいです、父上。
今まで我は、とんだ勘違いをしていた。
「はぁ……」
「気にし過ぎだ、七氏」
「なぜ、教えてくださらなかったのですか、父上」
「今回も無事に現代へ来ることが出来て良かったな、七氏」
今まで我が一人で現代に行けていたのは、父上がこっそりと現代への道を開いてくださっていたらしい。
現代に向かう途中で父上があっけらかんと教えてくれた。
それだったら、行けない時があったのも頷ける。
父上と我の時間が合わなかっただけなのだから。
今は、父上と共に神木の枝に座り、神社を見下ろしている。
その時に、神木の契約についても父上は我に教えてくれた。
どうやら、神木の道を開くには、契約の証となる刻印が必要らしい。
父上は服で隠れている為見えないが、背中に刻印があると言っていた。しかも、妖術を使う時のみ現れるらしく、普段は消えていて見えないとのこと。
それは、あやかしと人間の長一人ずつにしか刻まれておらず、たとえ血の繋がりがある我でも、現代への道を開けない。
「はぁ…………」
「気にしても仕方が無かろう。それより、見てみぃよ。本殿から出てきたぞ」
父上が言うように、巫女が箒を片手に本殿から姿を現した。
「ぬしは、巫女を助けたいと強く思っているらしいな。その理由はわかったか?」
「…………まだ、完全にはわかりません」
そう、まだ我は分からぬ。
言葉にできないなにか。これに、名前がまだ付けられん。
「――――ですが、あの者を見ていると胸が苦しくなり、あの者の傷ついた顔を見ると力が抑えられないくらいの怒りが芽生えます。今は抑える事にも慣れてきましたが、それでも苦しく、辛いです。これは、なんと言う名前の感情なのでしょうか?」
隣にいる父上に問いかけると、眉間に皺を寄せ腕を組み、考え込んでしまった。
「ん-」と唸っている父上の言葉を待っていると、「仕方がない」と、顔を上げ我と目を合わせた。
「氷璃の言葉を覚えておるか?」
「母上の? あっ、恋をしているというものですか?」
「そうだ。それを自覚しつつあるのだろうと、ワシは思うぞ」
恋と言われても、まだまだ分からぬ。
だが、自覚しつつある、か。だが……。
「我、あの巫女とは話したことすらないのですよ?」
「氷璃が言っていたであろう、一目ぼれだ。ぬしの運命の相手なのかもしれん」
言いながら、ケラケラと笑う父上。
「…………恋……恋、か。一目惚れ……か」
…………むむっ。母上に言われた時はよくわからんかったが、今はなんとなくわかる気がする。
我の心に合ったもやもやがストンと、憑き物が落ちたような、気持ちが軽くなった気がした。
再度、巫女に目を向けると、何故か今度は胸が高鳴る。
こっちを向いてくれないか、笑顔を向けてくれないか。それを考えてしまう。
――――そうか、我はあの者に恋をしておるのか。
納得すると、自然と口角が上がり笑みが零れる。
「だが、人間への恋は今までにない事態。正直言うと、おすすめはできん。その理由は、大体予想つくだろう?」
「…………はい。異種間恋愛は、お互いの生き方、人生、考え方、寿命。すべてが違う物同士の恋愛。淡く、いつ壊れてもおかしくはない。周りからも認められるかわからん」
「それもあるが、ぬしの立場が一番の難題だ」
「立場、ですか?」
「ぬしには跡継ぎを考えて貰わんとならん。だが、人間とあやかしでは子を成すのは難しいと言われておるのだ。それに対して不安の声も上がるだろう。その声に耐えられるか、共に歩めるか。それがワシは不安だ」
跡継ぎ、確かにそれは難題ですね。
我は一人っ子。
跡継ぎについて考えなければ、あやかしの長が居なくなり、世界が不安定となる。
そうなれば人間の世界にも災いが訪れ、共存の話ではない。
「…………我は出来る自信がありますが、巫女の方がどう出るかわかりません。今も苦しんでおるのなら、これからは幸せにっ――……」
「だが、七氏が何もしなければ、巫女はいるかもわからん神に命を捧げられてしまうのだろう? それは、あの巫女にとって幸せになるのか?」
――――っ、それもそうだ。
巫女は今、捧げものとして育てられておる。
あの、私利私欲しか能のない人間どものせいで、巫女は命を神に捧げなければならんくなっておる。
それだけは駄目だ、駄目だ。
「――ぬしが覚悟を決めれば、人間も答えてくれよう。七氏には、それほどの魅力がある。親馬鹿かもしれぬがな」
笑いながら父上が我の頭を撫でてきた。
最後の言葉が不安になるのですが……。
「七氏、部屋で話していたことを思い出せ」
「部屋で話していたこと、ですか?」
どの、話だろうか……。
「あぁ、氷璃が言っていただろう。『貴方の失敗や葛藤を見届け、正しい道へと導くのが私達、親の仕事なのですから』。これはワシも同じ気持ちだ。だから、自由に駆け回れ、七氏よ。あやかし世界と人間世界を守るんだ。ワシではない、ぬしのやり方でな」
――――――――我の、やり方で守る。
「…………わかりました。父上、これからは、我がこの世界を守って見せます。なので、父上は隠居生活の準備をしていてください!」
まだ不安があるが、何故か今の父上の言葉で出来ると。そう、思ってしまった。
我なら出来る。それに、失敗しても問題はない。
我には偉大なる九尾の父上と、優しくて温かい雪女の母上がおる。
絶対に大丈夫、大丈夫だ。
「大事なものを守る決意は、固めたか?」
「――――――――はい!!」
今まで我は、とんだ勘違いをしていた。
「はぁ……」
「気にし過ぎだ、七氏」
「なぜ、教えてくださらなかったのですか、父上」
「今回も無事に現代へ来ることが出来て良かったな、七氏」
今まで我が一人で現代に行けていたのは、父上がこっそりと現代への道を開いてくださっていたらしい。
現代に向かう途中で父上があっけらかんと教えてくれた。
それだったら、行けない時があったのも頷ける。
父上と我の時間が合わなかっただけなのだから。
今は、父上と共に神木の枝に座り、神社を見下ろしている。
その時に、神木の契約についても父上は我に教えてくれた。
どうやら、神木の道を開くには、契約の証となる刻印が必要らしい。
父上は服で隠れている為見えないが、背中に刻印があると言っていた。しかも、妖術を使う時のみ現れるらしく、普段は消えていて見えないとのこと。
それは、あやかしと人間の長一人ずつにしか刻まれておらず、たとえ血の繋がりがある我でも、現代への道を開けない。
「はぁ…………」
「気にしても仕方が無かろう。それより、見てみぃよ。本殿から出てきたぞ」
父上が言うように、巫女が箒を片手に本殿から姿を現した。
「ぬしは、巫女を助けたいと強く思っているらしいな。その理由はわかったか?」
「…………まだ、完全にはわかりません」
そう、まだ我は分からぬ。
言葉にできないなにか。これに、名前がまだ付けられん。
「――――ですが、あの者を見ていると胸が苦しくなり、あの者の傷ついた顔を見ると力が抑えられないくらいの怒りが芽生えます。今は抑える事にも慣れてきましたが、それでも苦しく、辛いです。これは、なんと言う名前の感情なのでしょうか?」
隣にいる父上に問いかけると、眉間に皺を寄せ腕を組み、考え込んでしまった。
「ん-」と唸っている父上の言葉を待っていると、「仕方がない」と、顔を上げ我と目を合わせた。
「氷璃の言葉を覚えておるか?」
「母上の? あっ、恋をしているというものですか?」
「そうだ。それを自覚しつつあるのだろうと、ワシは思うぞ」
恋と言われても、まだまだ分からぬ。
だが、自覚しつつある、か。だが……。
「我、あの巫女とは話したことすらないのですよ?」
「氷璃が言っていたであろう、一目ぼれだ。ぬしの運命の相手なのかもしれん」
言いながら、ケラケラと笑う父上。
「…………恋……恋、か。一目惚れ……か」
…………むむっ。母上に言われた時はよくわからんかったが、今はなんとなくわかる気がする。
我の心に合ったもやもやがストンと、憑き物が落ちたような、気持ちが軽くなった気がした。
再度、巫女に目を向けると、何故か今度は胸が高鳴る。
こっちを向いてくれないか、笑顔を向けてくれないか。それを考えてしまう。
――――そうか、我はあの者に恋をしておるのか。
納得すると、自然と口角が上がり笑みが零れる。
「だが、人間への恋は今までにない事態。正直言うと、おすすめはできん。その理由は、大体予想つくだろう?」
「…………はい。異種間恋愛は、お互いの生き方、人生、考え方、寿命。すべてが違う物同士の恋愛。淡く、いつ壊れてもおかしくはない。周りからも認められるかわからん」
「それもあるが、ぬしの立場が一番の難題だ」
「立場、ですか?」
「ぬしには跡継ぎを考えて貰わんとならん。だが、人間とあやかしでは子を成すのは難しいと言われておるのだ。それに対して不安の声も上がるだろう。その声に耐えられるか、共に歩めるか。それがワシは不安だ」
跡継ぎ、確かにそれは難題ですね。
我は一人っ子。
跡継ぎについて考えなければ、あやかしの長が居なくなり、世界が不安定となる。
そうなれば人間の世界にも災いが訪れ、共存の話ではない。
「…………我は出来る自信がありますが、巫女の方がどう出るかわかりません。今も苦しんでおるのなら、これからは幸せにっ――……」
「だが、七氏が何もしなければ、巫女はいるかもわからん神に命を捧げられてしまうのだろう? それは、あの巫女にとって幸せになるのか?」
――――っ、それもそうだ。
巫女は今、捧げものとして育てられておる。
あの、私利私欲しか能のない人間どものせいで、巫女は命を神に捧げなければならんくなっておる。
それだけは駄目だ、駄目だ。
「――ぬしが覚悟を決めれば、人間も答えてくれよう。七氏には、それほどの魅力がある。親馬鹿かもしれぬがな」
笑いながら父上が我の頭を撫でてきた。
最後の言葉が不安になるのですが……。
「七氏、部屋で話していたことを思い出せ」
「部屋で話していたこと、ですか?」
どの、話だろうか……。
「あぁ、氷璃が言っていただろう。『貴方の失敗や葛藤を見届け、正しい道へと導くのが私達、親の仕事なのですから』。これはワシも同じ気持ちだ。だから、自由に駆け回れ、七氏よ。あやかし世界と人間世界を守るんだ。ワシではない、ぬしのやり方でな」
――――――――我の、やり方で守る。
「…………わかりました。父上、これからは、我がこの世界を守って見せます。なので、父上は隠居生活の準備をしていてください!」
まだ不安があるが、何故か今の父上の言葉で出来ると。そう、思ってしまった。
我なら出来る。それに、失敗しても問題はない。
我には偉大なる九尾の父上と、優しくて温かい雪女の母上がおる。
絶対に大丈夫、大丈夫だ。
「大事なものを守る決意は、固めたか?」
「――――――――はい!!」
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