生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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七氏と巫女の出会い

8ー13

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「なるほど。確かにそれは九尾様ではなく、私の方がいいかもしれませんね」

「それは、どういう意味なのだ氷璃よ…………」 

「ふふっ。こういう話は男性より、女性の方が大好きという事ですよ、九尾様」

 何故、我が巫女についてここまで気になるのか。

 どんなに考えてもわからなかった為、母上の意見を聞こうと部屋へ真っ直ぐ向かい、現代で話していたことを伝えた。

 すると、何故か目を輝かせたのだ。
 なぜ、楽しそうにしているのだ、母上よ。

 いや、それより、なぜ父上まで着いてきたのだ。
 我を他所に平然といちゃつかないで頂きたい。

 母上が父上の頭を笑顔で撫で、父上はふてくされておるような表情を浮かべる。
 ものすごく嬉しそうな空気を醸し出しておるから、怒っていないのは丸わかりなのだがな……はぁ。

「いちゃつくのは我の相談が終わってからにしてください、母上、父上」

「あら、そうね、ごめんなさい」

 素直に聞き入れたということは、いちゃついている自覚はあったらしいな。

「七氏のその感情、断言するわ。それは、恋よ!!」

 …………鯉? いや、母上の表情からすると、恋の方か。

「一目ぼれでもしたのでしょう、素敵ねぇ。私も九尾様との出会いはこのような感じだったわ。運命の人と出会うと、頭より先に心が反応するものよねぇ~」

 母上が頬を染め、つらつらとそのような事を言っておる。
 この後は、我など存在していないかのように二人がいちゃつき始めたので、我は静かにその場から退散。

 部屋から出て、外へと向かった。

「あら? 七氏様、どこかへお出かけでしょうか?」

「うむ、少々そこまでな」

 外で掃除していたろくろっ首へ簡単に挨拶をし、神木がある方向を見やる。
 もう、神木の場所は把握済み、我一人でも向かうことは可能だ。

 神木を頭の中に思い浮かべ深呼吸。
 気持ちを落ち着かせ、膝を折り上へと跳ぶ。

 ――――――――カサッ

 次に着地をした際、石畳を踏んだ感触ではない。
 草の生い茂る地面。無事に、森の中に移動できたらしいな。

 これは、父上が教えてくれた瞬間移動。妖力を足に込め、頭の中で場所を浮かべる。
 最初はうまく出来なかったなぁ、成長している実感が出てきて嬉しいぞ。

「絶対に、父上に追いついてやるぞ」

 拳を握りながらも目の前にある、天にまで届きそうな神木を見上げる。

 一人で来ると、また違う。
 見上げるだけで心が洗われるようなのは変わらぬが、それだけではない。

 我の思考を埋め尽くす疑問を消し去ってくれ、気持ちが楽になる。
 …………勝手に現代へと行ったら怒られるだろうか。怒られるだろうな。

 それでも、行きたい。
 我は、一人でもあの巫女に会いたい。
 そう、思ってしまった。

 神木を見上げた後、自身の手を見る。

 父上は確か、神木に触れておっただけ。
 触れるだけで現代への道が開かれるのか? それか、なにか力を使ったのだろうか。

 むむむっ、わからぬが、触れてみるのはタダ、やってみるぞ。
 右手をおずおずと伸ばし、淡く光っている神木にそっと、触れてみた。

 シーーーーーーーン

「何も、起きん…………」

 試しに妖力を右手に込めてみるが、やはり開かぬ。なにか特別な力を使って切り開いておったのか。
 もしかすると、あやかしの長以外、簡単に現代へと行き来出来ないように細工されているのかもしれん。

 諦めて神木から手を離し屋敷に戻ろうと振り返った時、いきなり背後に立つ神木から強い光を放たれた。

「なっ。この光――」

 この光は、父上が現代に行くために神木へ触れた時と同じだ。

 でも、なぜ今? 
 我は触れておらんというのに。

 手で目を覆い光が収まるのを待っておると、徐々に神木は光を失い始める。
  
 ――――まさか、現代への道が、開かれたのか?

 試しに、右手を伸ばし神木へ触れてみると――……

「っ、現代へ行けるようになっておる…………」

 手がすり抜けた。
 これは、現代への道が繋がったという証拠。
 でも、何故? 我が触った時は何も変化がなかったというのに……。

「…………よくわからんが、現代へ行けるようになったのなら良いか。巫女にもう一度会えるのであれば、我のこの気持ちに説明がつくやもしれん」

 一人で行くのにはまだ不安があるが、今はそれより、このもやもや感をどうにかしたい。
 この、頭を覆いつくす疑問を、解消したい。

 父上に怒られることを承知で息を飲み、神木の中に足を踏み入れた。

 ※

 ――――――――カサッ

 神木の後ろ、影から一人の男性が姿を現した。
 その男性は、七氏の父親である九尾。

 眉を下げ、現代へと向かった七氏を見届けた。

「まったく……はぁ。あれは止めても意味はないだろうなぁ。考えるより、まず行動を起こすのは悪い癖だ、誰に似たのだろうか…………む? ワシか?」

 呆れ交じりのため息を吐き、神木に背中を預け青空を見上げる九尾。その口角はほんの少しだけ、上がっていた。

「――――たわけ者。七氏はまだ、現代へ向かう為の道を開く資格など持っておらん。偉大なる父に感謝するんだな。……哀れな人間を助けてやれよ、人間の長にしっかりと話を付けておいてやるからな」

 楽し気に呟いた九尾は現代への道を開いたまま、その場から姿を一瞬のうちに消した。
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