生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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七氏と巫女の出会い

8-12

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 我が現代に行くようになってから一カ月の月日が経った。

「今日は都会の方に行っても問題はなかったな」

「人が多く、さすがに緊張はしましたが体調の方は大丈夫そうです」

「それなら良かったぞ」

 今は、百目が運転しているタクシーに乗って、神社へと戻っている途中。
 都会にはビルと呼ばれる物が沢山あると聞いていたが、実際に見て”確かに”と思った。

 車の通りは多く、人も沢山歩いていた。
 人酔いという物を何回か経験したが、今では普通に歩けるようになり一安心だ。

 ちなみに我は今、前髪を長くし目元を黒い布で隠している。
 周りからの視線は少々あったが、まぁ、気にならない程度。気にしても無駄だしな。

 それより、他の者が気持ち悪いと思わなければ良い。
 …………思っていない、はず……?

 そんな事を考えながら布を顔の横へ少しだけ傾かせ、外の景色を楽しっ──あ!

「百目! 車を止めてくれぬか?!」

「っ、え、大丈夫ですが…………」

 百目が道路の脇に寄せ、車を止めてくれた。

 父上は隣で腕を組み、何故我が車を止めさせたのか問いかけるような目線を向けて来る。
 だが、我はあの女性から目を離せない。

「あやつ、自分の食べる飯すらまともに買えないはずだろう。なぜ…………」

 何故か歩道に、神社で生活をしている巫女がいた。

 今日も変わらず髪はぼろぼろでやつれておる。
 服は巫女の服ではなく、サイズの合っていない服。所々が破れており、みすぼらしい。

 そんな巫女が、笑顔で一人の子供にパンを渡している。
 他の者に見つからないようにか、建物の隙間で。

 子供の方を見てみると、巫女ほどではないが健康体とは言えない体つき。
 服は巫女と同じくサイズが合っておらず、至る所に怪我があるように見える。

 まともな食事を与えられていないのか、ふらついていた。

 ――――あの巫女、自身の食事をあの子供に分け与えておるのか。
 でも、そうしてしまえば、あやつが食べるものがなくなってしまう。大丈夫なのか?

「七氏? どうしたんだ?」

「…………父上、あの巫女に食べ物を買ってあげることは出来ぬか?」

「あの巫女?」

 我が指さす方向を見た父上は、神社の巫女だとすぐに分かってくれたらしく、「あぁ、あの者か」と言葉を零す。
 だが、すぐに顔を逸らし眉を下げた。

「我らあやかしは、簡単に人間に手を差し伸べることができんのだ。これは、我が受け継ぐずっと前からの決まりらしい」

「え、そうなのですか?」

「あぁ。人間は人間、あやかしはあやかし。そのように区別して、やっと今のように共存が出来ておる。どちらも手を貸してはならんし、危害を加えるなどもってのほか。それでも決まりを無視し暴れる者もおるが、そうなった場合、暴れた人種の長が手を打たんとならん。そういう決まりになっておる」

 そのような決まりがあったのか、しらなんだ……。
 父上が百目に言ってタクシーを走らせてしまい、これ以上巫女を見届けられんくなった。

 …………人間と共存するには、お互いに何もしてはならん。これ、どうにか出来んかなぁ。

「――――あ」

「駄目だ」

「また、勝手に心中をお読みになったのですか?」

「今回のは予想だ。七氏が考えそうなことを予想し、否定したまで」

 むっ、それは本当なのでしょうか。
 本当に、我の心中をお読みになっていないのでしょうか。

 じぃっと父上を見ていると、苦笑を浮かべため息を吐かれた。

「疑わんくても良い。今回はぬしの表情と話の流れ、後は親であるワシの直感で返したのだ」

「…………」

「信用がないなぁ」

 前科があるのだ、疑うのも無理がなかろう。

「……ゴッホン! えぇ、それより、今ぬしが考えたのは”決まりの穴を見つけ巫女を助ける”と言った物だろう?」

「やはり、心中をお読みにっ――」

「なっとらん、そこは本当に信じてくれ…………」

 肩を落とす父上は、本当に嘘は言っていないようだった。

「…………なぜ、駄目なのですか? 我は助けたいです」

「色々理由はあるが、その前に――」

 む? その前に……?

「七氏はなぜ、人間である巫女を助けたいんだ?」

 なぜ、助けたいか……か。
 改めて聞かれると――何故なのだろうか。

 ………む? え、な、なぜ、だ?
 なぜ、我はここまであの巫女が気になるのだ??

 ――――――――わからぬ。
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