生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
上 下
37 / 79
七氏と巫女の出会い

8ー10

しおりを挟む
 驚いている二人へ振り返り、目元の火傷を触る。
 ザラザラで、でこぼこしている肌。

 これが気持ち悪くないわけが、ないか。

「…………七氏、なにがあったの?」

「なにもありません。それより、この顔をどうにか出来ないのでしょうか。火傷の痕を消す事は可能ですか?」

 母上に聞くが、無言。目を逸らされてしまった。
 つまり、これ火傷は消せないのだろう。
 なら、隠す方法を考えよう。

 面でもつけるか? 
 なんのお面にしようか……。

「七氏」

「っ、な、なんでしょうか。父上」

 父上の声が低い、完全に怒っている声だ。
 隣に立つ父上を見上げると、無表情で我を見下ろしてきている赤い瞳と視線がかち合う。

「ぬしから聞き出す事は諦めた。悪いが、記憶を覗かせてもらうぞ」

「え、記憶? 一体何を……?」

 父上が我の頭に手を乗せてきた。

 記憶を覗く? 
 まさか、父上、人の記憶を見れるのか? 

「――――っ、ち、父上!! 待ってください!!」

 頭から手を離させようとするも、父上の力に勝てるわけもなくビクともしない。
 頭を動かそうとしても、しっかりと掴まれておるから逃げられん!!

 父上、見ないでください……。
 我があんな小さい事を気にしているちっぽけな者だと、幻滅されてしまいます……。

「――――すまぬな、七氏」

「…………いえ」

 父上が我の頭から手を離し、謝罪をしてきた。

 我の記憶を覗き終わったらしいな。
 どこを見たのだろうか。見て、どう思ったのだろうか。

「七氏、顔を上げてくれぬか?」

「…………」

「七氏」

 俯いている我に、声をかける父上。
 だが、すいません。今は顔をあげられません。

「…………わかった。なら、そのままでも良い、聞いてくれ。ワシらは七氏の顔が気持ち悪いと思ったことは一度もなく、屋敷の者達もワシらと同じ。ぬしの事は大事に思っており、かけがえのない宝物だ。他人がぬしを気持ち悪いと思おうとも、哀れみの目を向けられようとも。ワシらは絶対に手放さん。だから、安心せい」

 …………あの、道路での会話を覗き込まれたらしい。
 でなければ、このような言葉を口にするわけがない。

 隣で聞いていた母上は、怒りなのかなんなのか。
 黒い笑みを浮かべているような気がする、辺りが微かに寒くなってきた。

 父上の言葉で何があったのか、大方察しがついたらしいな。

「氷璃、怒りを何かにぶつけたい気持ちはワシでもわかる。ワシも、相手がただの人間でないのなら、炎で骨の髄まで燃やし尽くし、魂は閻魔の元へ届け、永遠と地獄でただ働きをさせてやりたいところだ」

 待ってください父上、貴方なら本当にできそうな気がするのでやめてください。そこまでしなくても大丈夫です。

 そこまでしなくても、いいのです。
 ただ、我は少し、悲しかっただけなのですから。

 今だ怒りを抑え込んでいる母上と父上。

 なんか、気が抜ける。
 二人は、本当に我を愛してくれておるのだな。

 こんな、醜い顔をしていても、二人からすれば些細な事。我は、大事な息子なのだな。

「…………ふふっ、まったく。母上、父上。我はもう大丈夫です。怒ってくださり、ありがとうございます」

 二人の手を握り見上げなから言うと、母上は胸をなでおろし、父上は安心したように肩を落とした。

「まったく……、なぜこれを隠そうとするのか。隠してはならん記憶だったぞ。七氏、これはっ――……」

 …………ん? なんだ? 父上が何を言っているのか、途中から聞こえなくなってきた。

 耳を澄ましたくとも、視界の端が黒く染まっていくため、集中が出来ない。

 あ、母上が我に顔を向けなにかを言っている。
 でも、聞こえない、何も、聞こえない。

 あれ……?
 なんか、体に力がはいらっ――………。

 ※

「…………――――ん、あれ。布団? なぜ、我は布団の上で寝ておるのだ?」

 我は今、なぜか自身の部屋にある布団で寝ていた。

 上半身を起こし周りを見ると、母上が布団の隣に正座して眠っている。隣には、畳まれている洗濯の山。
 ずっとここに居てくれたのだろうか、母上の顔が青い。疲れているみたいだ。

 …………辺りが暗い、まだ、夜中か?

「……………………」

 母上、すいません。
 ちょっと、外の空気を吸いたいため、少し出かけますね。

 母上を起こさぬように部屋を出て、屋敷の外に向かう。
 外に出ると夜空には煌々と月が輝き、見上げている我を照らしてくれる。

 やはり現代と違い、空気が澄んでいる。
 大きく息を吸うと、心が洗われるようだ。

「どこか、散歩に行くか」

「それを父上であるワシが許すと思うか、七氏よ」

 ビックゥゥゥゥウウ!!!!!????

「ち、父上!?!?」

 いきなり後ろから淡々とした声が聞こえた。

 振り向くと、そこには額に青筋を立て、我の逃げ道を塞ぎ立っている父上の姿。
 我の肩を掴んでいる手には力が込められ、ギリギリという嫌な音が聞こえてくる。

 ものすごく痛いのです。
 これは、我、終わった。

 父上、本気でキレております。
 こうなると、誰にも止められません……。

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁああああああい!!!!!」
しおりを挟む
https://accaii.com/sakurannbo398/?msg=signup
感想 1

あなたにおすすめの小説

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

残念ながら、定員オーバーです!お望みなら、次期王妃の座を明け渡しますので、お好きにしてください

mios
恋愛
ここのところ、婚約者の第一王子に付き纏われている。 「ベアトリス、頼む!このとーりだ!」 大袈裟に頭を下げて、どうにか我儘を通そうとなさいますが、何度も言いますが、無理です! 男爵令嬢を側妃にすることはできません。愛妾もすでに埋まってますのよ。 どこに、捻じ込めると言うのですか! ※番外編少し長くなりそうなので、また別作品としてあげることにしました。読んでいただきありがとうございました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...