生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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七氏と巫女の出会い

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 …………――――――ん? あれ、体に衝撃が、ない?

「よっと、着いたぞ。目を開けても良い」

「ここは、森の中?」

 言われた通り恐る恐る目を開けると、そこは先程と変わらぬ森の中だった。
 いや、変わらぬわけではない。空気がまるっきり違う。

 周りを見渡すと、景色自体は変わらぬが薄暗い。風が吹くと体に悪寒が走り、微かに震えてしまう。
 空は雲に覆われ濁り、薄暗い。
 鳥もいるみたいだが、我が居た世界とは違い、まるで我らを追い出そうとしているように感じてしまう。

 このような不気味な場所が、現代と呼ばれる場所なのか?

「さて、ワシはこのままの態勢でもいいのだが、このままくか?」

 父上が、楽し気に聞いて来る。

 改めて今の体勢を見てみると、我は父上に片手で抱き留められている状態だった。
 無意識に父上の首に手を回しており、抱き着いていた。

 ……………………。

「お! ろ! し! て! く! だ! さ! い!!」

「待て待て! ワシの顔を押すでない! 首が痛いのと、下ろすではなく落とす事になるぞ! しっかりと下ろすから押さんでくれ!」

 父上が言うので素直に押すのをやめると、残念そうに眉を下げた父上が優しく我を地面に下ろしてくれた。

 まったく、何故残念そうなのだ。
 我はもういい大人だ、先ほどの体勢はさすがに恥ずかしいものがある。

 地面に足が付き、いつものように自分の力で立った。のだが……。

「っ! 体が、重たい」

「だから言ったであろう。現代とワシらが住む世界では空気感が違う。体が重たいのは、体に不調が出始めている証拠だ。眩暈や頭痛はないか?」

「今のところは大丈夫そうです。ですが、長く持ちそうにないのは感覚的に分かります」

「そうか。なら、早くやるべきことを終らせんとならんな」

 父上が中腰になり、膝に手をついている我に手を伸ばしてきた。

 ここで掴まないのもさすがに失礼かと思い、素直に握る。すると、先ほどまで重たかった体が急に軽くなり、しっかり立てた。

「? 父上、何かしました?」

「ちょっとな。ワシの妖力をほんの少しずつ七氏に送っておるのだ。送り過ぎも身体を壊してしまうからな、本当に少量だ」

「では、歩くぞ」と、我の手を引き、歩き出す父上。

 普段は母上といちゃついたり、仕事をさぼろうとして女中達に怒られておるが、こういう所はしっかりとしている。

 時々見る父上のしっかりした姿。
 その、しっかり部分だけは見習おう。普段の父上のことは、正直見習いたくない。かっこ悪いから。

 父上の手を握りながら歩いていると、前方が開けてきた。

「古い神社が見えてきたら道路へと向かい、タクシーを手配しておるから乗るぞ」

「神社? たくしー??」

「見ればわかるが……。簡単に言うと、タクシーは馬車のようなものだ。鉄の、移動する乗り物」

 現代には、我が知らぬものが沢山あるらしい。
 いや、神社はわかるが、たくしーという物は聞いたことがない。どのような物なのか、少々気になるな。

 父上と話しながら歩いていると、森が完全に開けた。
 どんどん進むと、足が地面ではなく石畳を踏む。

「これが、神社?」

 森を抜け周りを見ると、父上が言った通り神社があり、大きな本殿が建っていた。
 一目見ただけでわかるほど古く、壁画は剥がれぼろぼろ。柱は腐っており、今にも崩れてしまいそうだ。
  
 こんな本殿をなぜ現代民は残しておるのか、謎だ。
 すぐにでも取り壊してしまえばよいだろう、意味もない物を残しておく理由がわからぬ。

「これからは速さ重視で動かなければならん。悪いが、神社はまた時間を見つけゆっくりと見ようぞ」

「あ、はい」

 父上に手を引かれ、神社の外へと向かう。
 もう一度後ろを振り返り本殿を見ると、なんとなく違和感を覚えた。

「…………父上、本殿はあんなに古いのに、周りには雑草やゴミは落ちていないのですね。誰か整備しているのでしょうか」

「あぁ、ここには一人だけ巫女が居たはずだ。ただ、まだまだ子供。出来る範囲で整備しているのだろう」

 なるほど、子供なら周りを整備するので精一杯なのも頷ける。
 だが、何故子供が神社の整備をしているのかが気になるな。

 ――――――ん? 人が本殿から出てきた?

「父上、人が出てきました」

「今は時間がないぞ。悪いが、また後日にしてくれんか?」

「あ、すいません…………」

 気になるけれど、今回は我の体調も考え時間がないと言ってくれている。
 これ以上わがままを言う訳にはいかんか。

 仕方がない、父上は後日と言っている。
 また日を改め、あの人に声をかけてみよう。

 再度前を向くと、道に鉄の乗り物があるのが見えた。
 もしかして、あれがたくしーと呼ばれる物なのか? 

「よぉ、百目。今日はよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

 あ、百目がたくしーから出てきて、父上に一礼をした。

 百目は我が小さい頃、一人にならぬように一緒に遊んでくれたことがあるから覚えとるぞ。
 まさか、現代で働いていたとは思わんかった。

「では、行くぞ七氏」

「はい」

 たくしーに父上と同じように乗り、扉を閉めると、大きな音を立てたくしーが動き出した。
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