生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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七氏と巫女の出会い

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 我は自分の両親が、他の家族より仲が良いと思っている。
 その理由は、今、目の前で繰り広げている二人の食事光景が物語っているのだ。

「九尾様、こちらは私が丹精込めて作りました、天ぷらでございます。火を扱うのには慣れておりませんが、練習を沢山しました。いかがでしょう、食べてみてください。はい、あーん」

「うむ、あーん。むっ、前より温かく、美味いぞ! さすがワシの嫁だ!」

 息子である我の目の前でも、外でも。そこでも構わずイチャイチャする両親。
 
 ――――はぁ、仲が良いのは良いのだが、こちらとしてはもう少し自重してほしいものだ。 
 見ているこっちが恥ずかしいぞ。

「あら、七氏。食べないの? 具合でも悪いのかしら」

「甘いものを目から摂取しておりますので、お気になさらないでください、母上」

「それはどういう意味かしら?」

「胸やけしそうですが、具合は悪くありませんので大丈夫という意味です。ご飯もしっかりと食べますので、お気になさらず」

 首を傾げておるが、父上が母上の裾を引っ張り、次をせがんだためかすぐに目を離し、また食べ合いっこをし始めた。
 
 ため息を吐きながらご飯を食べ終え、いつものように部屋に戻ろうと立ち上がると、何故か父上に止められた。


「七氏、明日あすは暇か?」


「はい、特に予定はありません。仕事の手伝いでしょうか?」

「似たようなものだ。七氏、明日は現代へ行く用事がある。共にかぬか?」

 現代へ同行ということか? 
 今まで、我がいくら行きたいと言っても、危険だからと連れ出してはくれなかったのに。
 
 とうとう我も、父上にお近づきになれたということか。
 大人に一歩、近づいたな。嬉しい限りだ!

「行きたいです!!」

「くくっ、そうか。まだ少々不安ではあるが、ワシと共になら問題ないだろう。だが、約束してくれ」

「約束、ですか?」

 いきなり真剣な表情になった父上。普段ヘラヘラしている父上が急に真剣になると、なんだか怖いぞ。
 何を言われてしまうのだ、我。覚悟して聞かねば……。

「あぁ。気分が悪くなったらすぐに言うこと。あと、ワシから絶対に離れないこと。この約束を破れば、二度と現代へ連れては行かぬからな?」

「は、はい…………」

 真剣から表情から、笑顔になった父上。
 その笑顔、怖いです。黒いですよ、父上。

 だが、父上が警戒するのも、無理は無い。
 今まで自由に過ごしてきた自覚はある。

 仕事ばかりしている父上に構ってほしくて襖を壊したり、廊下を走り回ったり。
 一度、母上に後ろから突進してしまい、沸騰していたお湯が顔にかかったことがあったな。

 あの時の母上は、泣きそうな顔を浮かべ何度も謝っていた。

 我が構ってほしくてやってしまったというのに、母上は自分を責め何度も謝罪していた、させてしまった。
 父上は事情を聞いて、何度も母上に『大丈夫だ』と『お前のせいではない』と言っていた。
 
 我も何度も母上と父上に謝り、その場は収まったが……。
 ほとぼりが冷めた頃に、一日中怒られた記憶が蘇る。

 いや、怒りというより、諭すような感じ。しかも今と似たような黒い笑みを浮かべて……。

 我はもう、絶対に父上を怒らせてはならないと心に誓った出来事だったな。

「旦那様、本当に大丈夫なのでしょうか。現代の空気は、我々あやかしにとって毒となります。体調を崩さないか心配なのですが…………」

「それも含めての提案だ。七氏には、ワシの後を継いでもらわんとならん。そのためには、現代の空気にも慣れ、偵察や、現代にいるあやかしの様子を確認する術を手にしてもらうのだ」

「ですが……」

「今はまだ、体調を崩したとしてもすぐに戻ってこれる。少々手荒だが、問題はないだろう」

 父上の膝に乗っている母上が父上を見上げ、心配そうに眉を下げて聞いている。 
 そこまで心配するくらい、現代の空気は汚いらしい。
 
 我が住んでいるこの世界は空気が澄んでおり、風も心地よい。昼寝には最適の環境だ。
 この空気に慣れていると、現代の空気は気持ち悪くなる。だがら、少しでも気分が崩れたら教えてくれという事だな。

「恐らくだが、最初は現代に行っただけで体を崩す。七氏が体調を崩しても良いように、氷璃は氷枕やタオルなどを準備しておいてくれ」

「わかりました」

 え、体調を壊してもいいようにの事前準備? おかしくないか?
 ……………………現代とは、恐ろしい所なんだな。
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