生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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旦那様と親への挨拶 氷璃

6ー1

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 現代からあやかしの世界へ戻ってきて、もう一カ月の月日が流れました。
 私はこの一カ月、一日一回は旦那様の部屋に向かっております。

 最初は慣れず廊下で固まっていた私を、旦那様や二口女さんが中に入りやすいようにと促してくださいましたが、今では一呼吸すれば声をかけられるようになりました。

 今も、旦那様にお会いできる時間になったので、襖の前に立っております。

「はぁぁぁぁああ、ふぅぅぅぅぅぅうう」

 大きく深呼吸をし、中にいるであろう旦那様に声をかけます。
 よし、頑張るのですよ、私!!!

「旦那様、私です!」

 ・・・・・・・シーン。

「あ、あれ?」

 いつもならどんなに小さくても私の声を聞き、お声を返してくださるのに。
 も、もう一度声をかけます。

「だ、旦那様! 私です、華鈴です!」

 ・・・・・・・シーン。

 ど、どうしましょう。
 まさか、中で倒れているなんてありませんよね!? 

 過労で意識が朦朧としていたら、どどど、どうしよう……。

「うぅ。中に勝手に入るのも駄目ですよね……。でも……」

「いかがいたしましたか?」

 あ、鎌鼬さんが不思議そうに首を傾げ、声をかけてくださいました。

「旦那様へお会いに来たのですが、返答がないのです。倒れているのかもしれないと思い…………」

「それでしたら問題ありませんよ。先ほど、旦那様へお客様が来ておりましたので、お会いしております。なので、今は客間の方かと」

 あ、そうだったのですね。
 良かったです、倒れているのかと思って心配してしまいました。

「でしたら、私はまた時間を空けることにします。わざわざありがとうございます」

 一礼をし、その場を後にしようとしますが、何故か引き止められました。
 どうしたのでしょうか。

「今回のお客様、旦那様の母上なのです。もしよかったらお会いになりませんか?」

「―――――え?」

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「あの、やはり私はまだ……。こんな、突然会いに行ってご迷惑かと思いますので…………」

「大丈夫ですよ。旦那様もわかってくださいます。ほら、声をかけますね」

「え、待っ―――」

「旦那様、お話し中に申し訳ありません。華鈴様をお連れいたしました。中へご案内してもよろしいでしょうか」

 ひゃ!!! 鎌鼬さんが私の言葉を無視して中へ声をかけてしまわれました! 

 ど、どうしましょう、心臓が波打って体が震えます! 
 な、なななな、何を言えばいいのでしょうか、どうしましょう!

『鎌鼬か。開けても良いぞ』

「失礼します」

 ――――――――スッ

 鎌鼬さんが襖を開けると、中には旦那様と、赤い着物に白いスズランの花をちりばめた、素敵な着物を身に着けている一人の女性がおりました。

 黒色の髪を後ろでお団子にまとめており、藍色の瞳を私達に向けております。
 凛々しい表情、大人の女性とは、この人のようなことを言うのでしょう。

「貴女が、私の息子である七氏ななしのお嫁さんかしら」

「あ、はい。私は人間世界から来ました。元神社の巫女、天魔華鈴です。いつも旦那様にはお世話になっております」

 旦那様の母君の前に移動し、深々と頭を下げ挨拶。

 こ、このような形で大丈夫なのでしょうか。
 私、マナーを全く知らないため、これで大丈夫なのか不安です!

「顔を上げてください。そこまでかしこまらないで大丈夫ですよ」

 言われた通り、私は恐る恐る顔を上げますと、母君がこちらを見ておりました。
 藍色の瞳と目があい、思わず肩が震えてしまいます。

 旦那様と同じ、夜空のような藍色の瞳。
 ずっと見ていると、吸い込まれてしまいそうになります。

「…………ふふっ、七氏。貴方は良いお嫁さんを見つけましたね」

「はい、自慢の嫁ですよ、母上」

 え、え? は、話の脈絡が分かりません。
 な、なぜ??

「では、私はこれで失礼します」

「あぁ、ありがとな鎌鼬」

「いえ」

 旦那様が鎌鼬さんを見送り、この部屋には私と母君と旦那様の三人となりました。

 え、私はどうすればいいのですか。どこに座れば……。
 ここから動いてもいいのでしょうか。誰か、助けてください。

「華鈴、こちらへ来い」

「あ、はい」

 旦那様が助け舟を出してくださいました。

 素直に旦那様が指さした方に移動し、そこへ腰を下ろします。
 その際、なぜか母君は私達を見てクスクスと笑っておられます。

「本当に素直な子ね、愛らしいわ」

「いくら母上でも、華鈴は渡しませんよ?」

「あらぁ、それは残念ね」

 ん? ん??? これは、何の話ですか?
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