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旦那様と親への挨拶
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「移動手段は、おそらく車だろう。ここで声をかけて、他に助けを求められるのはめんどくさい。あやつが家についてから声をかけるぞ」
「ですが、車だと追いかけるのは難しいのではないですか?」
「追いかけるのは確かに難しい。だから、先回りする」
「先回り?」
――――――――ポンッ
「――――――――ん?」
私の肩に旦那様が手を回してきました。
腰ではなく肩。何故、肩なのでしょう。今までは腰でしたのに……。
「む? 腰の方が良かったか?」
「っ! そんなこと言っていません!!」
いきなり顔を近づかせ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる旦那様。
私の思考が完全に読まれてます!!
「くくっ、悪かったな。では、行くぞ。今回は一瞬で移動し終わる」
「えっ――…………」
っ、いきなり視界が白く――………
・
・
・
・
・
「ほれ、着いたぞ」
「…………え、え!?」
ふ、浮遊感すら何もなく、いつの間にか移動しております……。
今、私がいる場所は、天高くそびえ立つタワーマンションの目の前、圧倒です。
「目立たぬ所で待機していようぞ。車なのであれば、十分以内で辿り着くはずだ」
「わ、わかりました」
周りを見るとベンチがあったため、そこで待ちます。
旦那様と星空を眺めながら待っていると、一台の赤い車がタワーマンションの前に止まりました。
中から現れたのは、先程の女性。
黒いスーツを身に纏い、黒い髪を後ろで一つにまとめています。
邪魔にならないようにクルンと、お団子のようにまとめているみたい。
「行くぞ」
「あ、はい…………」
あの人が、私の母親。
確かに、曖昧にではありますが、記憶の片隅にある母親の記憶と同じです。
近付くと、車から降りドアを閉めた女性が私達に気づいたみたいで、ちらっと見ます。
ですが、そのまま気にせず中に入ろうとしました。
タワーマンションは、セキュリティがしっかりとしていると聞いたことがあります。
中に入れば声をかける事が出来なくなりそう。急がなければ――………
「すいません、夜分に申し訳ない。少々お時間いただけますか?」
あ、旦那様が声をかけた事で、女性が振り向き足を止めてくれました。
「…………どちら様ですか?」
「私は九火七氏。貴方様の実の娘である、天魔華鈴さんの旦那になった者です」
「…………はぁ? 娘の、旦那?」
私の事、隠さずそのまま言うのですね。
前置きなどはないのでしょうか。
私が旦那様の隣に立つと、やっと私が視界に入ったみたいです。
女性は目を大きく見開き、手に持っていた鞄を地面に落とし、体をわなわなと震えさせ始めました。
その反応からして、私の事は覚えているみたいですね。
先程までは薄暗く、はっきりと母親の顔は見れませんでしたが、今はタワーマンションの光が洩れている為、しっかりと見えます。
少しだけ、私と似ている顔立ちをしているような気がします。髪色は全く同じ。
「…………っ!」
「おっと、それは許しませんよ」
女性が私達から逃げようとエントランスに入ろうとしましたが、旦那様が許すはずがありません。
風よりも早く動き、女性の両手首を後ろから掴み逃げを封じる。
すぐさま、女性の右手を背中につかせ、左手は壁に。
女性は壁と旦那様に挟まれ、身動きが出来ない状態になりました。
「あ、貴方、こんな事をしてただで済むと思っているのですか!? 警察を呼びますよ!」
「この状態で呼べるものでしたら、呼んでみては?」
「私が呼ばなくても、ここには監視カメラがあるわ。それに、夜と言えど通行人はまだっ―――え、なんで?」
女性が困惑の声を上げました、当然です。
私達の周りには、女性が口にするように通行人がいます。
仕事帰りの人が多く歩いておりますね。
ですが、誰も私達には気づいておりません。
旦那様が私達を他の人に認識させないようにしたのでしょう。
これは、私と共に空を飛んだ時に使用していた妖術と同じでしょう。
妖術については、先ほど女性を待っていた時に聞きました。
「な、なんで私がこんな目に合っているのに、周りの人は助けてくれないの!? なんで私を見てくれないの!? 誰か私を助けてよ!!」
「どんなに叫んだところでぬしみたいな、人を平気で見捨てられる者の声は誰にも届かぬぞ。残念だったな」
女性に囁く旦那様。私も女性に近付き、恐怖で顔を真っ青にしている顔を見下ろします。
「あ、貴方。この人の嫁になったって……。なら、私を助けなさいよ!!」
…………哀れな女性、本当にこの人が私の母親なのでしょうか。
この人は、私の事を覚えていました。
つまり、この人が過去、私へやった行いも覚えているはず。
私がまだ中学生の時、この母親は、私を神社に残して消えました。
周りの人が私を蔑むようになったのは、母親が私を捨てたからです。
捨てられた子供は、悪。
何もできない、迷惑をかけるから捨てられた。
そのような暗黙の噂が回ったから。私は誰にも助けられることはなく、生きなければならなかったのです。
ゴミを漁り、恥を忍んでお金を恵んでもらおうともしました。
それでも、誰も助けてはくれません。
そんな人生を私に送らせたのは、他の誰でもなく、この人です。
「華鈴? なに、その顔……母親に向かって、そんな顔…………」
母親、母親……。
なに、母親は、自分の娘なら自由に扱っていいのですか?
娘は、母親の言いなりにならなければならないのですか?
いえ、そんなことは絶対にありません。
娘だからと言って、自由に扱ってもいいはずがありません。
娘だからと言って、いらなくなったから捨てて、必要な時だけ利用していいわけではありません。
娘と言えど、私は人間です。
人形では無いので、感情があります。
「…………貴方は、私の母親じゃない。貴方みたいな人、私の母親じゃない!!!」
「ですが、車だと追いかけるのは難しいのではないですか?」
「追いかけるのは確かに難しい。だから、先回りする」
「先回り?」
――――――――ポンッ
「――――――――ん?」
私の肩に旦那様が手を回してきました。
腰ではなく肩。何故、肩なのでしょう。今までは腰でしたのに……。
「む? 腰の方が良かったか?」
「っ! そんなこと言っていません!!」
いきなり顔を近づかせ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる旦那様。
私の思考が完全に読まれてます!!
「くくっ、悪かったな。では、行くぞ。今回は一瞬で移動し終わる」
「えっ――…………」
っ、いきなり視界が白く――………
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「ほれ、着いたぞ」
「…………え、え!?」
ふ、浮遊感すら何もなく、いつの間にか移動しております……。
今、私がいる場所は、天高くそびえ立つタワーマンションの目の前、圧倒です。
「目立たぬ所で待機していようぞ。車なのであれば、十分以内で辿り着くはずだ」
「わ、わかりました」
周りを見るとベンチがあったため、そこで待ちます。
旦那様と星空を眺めながら待っていると、一台の赤い車がタワーマンションの前に止まりました。
中から現れたのは、先程の女性。
黒いスーツを身に纏い、黒い髪を後ろで一つにまとめています。
邪魔にならないようにクルンと、お団子のようにまとめているみたい。
「行くぞ」
「あ、はい…………」
あの人が、私の母親。
確かに、曖昧にではありますが、記憶の片隅にある母親の記憶と同じです。
近付くと、車から降りドアを閉めた女性が私達に気づいたみたいで、ちらっと見ます。
ですが、そのまま気にせず中に入ろうとしました。
タワーマンションは、セキュリティがしっかりとしていると聞いたことがあります。
中に入れば声をかける事が出来なくなりそう。急がなければ――………
「すいません、夜分に申し訳ない。少々お時間いただけますか?」
あ、旦那様が声をかけた事で、女性が振り向き足を止めてくれました。
「…………どちら様ですか?」
「私は九火七氏。貴方様の実の娘である、天魔華鈴さんの旦那になった者です」
「…………はぁ? 娘の、旦那?」
私の事、隠さずそのまま言うのですね。
前置きなどはないのでしょうか。
私が旦那様の隣に立つと、やっと私が視界に入ったみたいです。
女性は目を大きく見開き、手に持っていた鞄を地面に落とし、体をわなわなと震えさせ始めました。
その反応からして、私の事は覚えているみたいですね。
先程までは薄暗く、はっきりと母親の顔は見れませんでしたが、今はタワーマンションの光が洩れている為、しっかりと見えます。
少しだけ、私と似ている顔立ちをしているような気がします。髪色は全く同じ。
「…………っ!」
「おっと、それは許しませんよ」
女性が私達から逃げようとエントランスに入ろうとしましたが、旦那様が許すはずがありません。
風よりも早く動き、女性の両手首を後ろから掴み逃げを封じる。
すぐさま、女性の右手を背中につかせ、左手は壁に。
女性は壁と旦那様に挟まれ、身動きが出来ない状態になりました。
「あ、貴方、こんな事をしてただで済むと思っているのですか!? 警察を呼びますよ!」
「この状態で呼べるものでしたら、呼んでみては?」
「私が呼ばなくても、ここには監視カメラがあるわ。それに、夜と言えど通行人はまだっ―――え、なんで?」
女性が困惑の声を上げました、当然です。
私達の周りには、女性が口にするように通行人がいます。
仕事帰りの人が多く歩いておりますね。
ですが、誰も私達には気づいておりません。
旦那様が私達を他の人に認識させないようにしたのでしょう。
これは、私と共に空を飛んだ時に使用していた妖術と同じでしょう。
妖術については、先ほど女性を待っていた時に聞きました。
「な、なんで私がこんな目に合っているのに、周りの人は助けてくれないの!? なんで私を見てくれないの!? 誰か私を助けてよ!!」
「どんなに叫んだところでぬしみたいな、人を平気で見捨てられる者の声は誰にも届かぬぞ。残念だったな」
女性に囁く旦那様。私も女性に近付き、恐怖で顔を真っ青にしている顔を見下ろします。
「あ、貴方。この人の嫁になったって……。なら、私を助けなさいよ!!」
…………哀れな女性、本当にこの人が私の母親なのでしょうか。
この人は、私の事を覚えていました。
つまり、この人が過去、私へやった行いも覚えているはず。
私がまだ中学生の時、この母親は、私を神社に残して消えました。
周りの人が私を蔑むようになったのは、母親が私を捨てたからです。
捨てられた子供は、悪。
何もできない、迷惑をかけるから捨てられた。
そのような暗黙の噂が回ったから。私は誰にも助けられることはなく、生きなければならなかったのです。
ゴミを漁り、恥を忍んでお金を恵んでもらおうともしました。
それでも、誰も助けてはくれません。
そんな人生を私に送らせたのは、他の誰でもなく、この人です。
「華鈴? なに、その顔……母親に向かって、そんな顔…………」
母親、母親……。
なに、母親は、自分の娘なら自由に扱っていいのですか?
娘は、母親の言いなりにならなければならないのですか?
いえ、そんなことは絶対にありません。
娘だからと言って、自由に扱ってもいいはずがありません。
娘だからと言って、いらなくなったから捨てて、必要な時だけ利用していいわけではありません。
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人形では無いので、感情があります。
「…………貴方は、私の母親じゃない。貴方みたいな人、私の母親じゃない!!!」
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