17 / 79
旦那様と親への挨拶
5ー4
しおりを挟む
やはり、帰されてしまいました。
当たり前です、アポすら取っていないのですから。
「旦那様、いかがいたしますか?」
「待つしかないな。九時まで営業しているとなると………。ふむ、今は午後の七時。二時間ここで待っていると変に目立つ。カフェの中に入るも、九時前に退社されてしまえばすぐに動くことができん。むむ……」
険しい声を上げ、旦那様が空を仰いでしまいました。
私も、旦那様に頼ってばかりではなく、動かなければ!!
周りに、何かちょうど良い、時間が潰せそうなスポットは無いでしょうか。
・・・・・・・・・・・・・。
周りの人が旦那様の容姿や、妖しい雰囲気に注目されておりますね。
え、ま、待ってくださいよ。
見惚れてしまう人などはいませんよね、大丈夫ですよね。
私以外の女性が旦那様に見惚れるのは駄目です、許しません。
「よしっ、わかった。空の散歩でもして時間を潰そうか」
「わかりまっ――空の散歩?」
ん? どういう事でしょうか。展望台などに行くという事でしょうか。
ですが、空の散歩が出来るほどではないかと……。
「こっちに来い」
「は、はい」
旦那様に手を引かれてしまいついて行くと、何故か辿り着いたのはビルの裏側。路地裏と呼ばれる所です。
な、なぜ、空の散歩をすると言って、路地裏に向かったのでしょうか。
――――あっ、人がここにはいません。
高いビルにより陽光が遮られ、薄暗いです。
少々、肌寒くもあります。
旦那様、何を考えておられるのですか?
「ここなら人はいないか。少しは楽しまないと、ここまで来た意味がないからな。上から都会を見て、楽しむぞ」
「ど、どうやってですか?」
「こうやってだ」
旦那様は、隠していた狐の耳と九本の尾を出すと、私の腰に手を回してきました。
抱き抱えられた際、落ちないように首に手を回せと言われたため、そっと回します。
「落ちないように気を付けるのだぞ」
「あの、もしかしてですが、旦那様。空、飛べるのですか?」
問いかけると、黒い布の隙間から覗き見える口元がにやっと上がります。
その顔だけで私は、この後何が起きるのか予想が出来ました……はい、出来てしまいました。
「あ、あの、旦那様、す、少しだけお待ちくだっ―――」
「悪いが、断るぞ」
断られた!? え、体に浮遊感。旦那様が上にピョンと跳びました!!
あ、ああああ、赤色に染まっている空が近くなっていきます!!!
「ひっ…………って、あれ。体に衝撃などはないのですね。浮遊感だけ……?」
「なるべく衝撃を抑えたからな。人の目にも映らないようにしているから、周りも気にせんでよい」
な、なんでも出来るのですね、旦那様。かっこいいです!!
「それより、どうだ? 今までこんなに近場で夕暮れを見た事はないだろう?」
旦那様の声で、何とか気持ちが落ち着いてきました。
周りを見ると、広がるのは鮮やかな赤。
今日という日が終わると、沈む太陽が知らせてくださる景色。
「わぁ、凄い……」
目が奪われるような澄んだ空気、光景に目をそらす事が出来ない。
鳥が自由に赤い世界を飛び回り、光の線が四方に伸びております。
手を伸ばせば、この綺麗な景色を掴めるんじゃないかと。
思わず、伸ばしてしまいました。
「綺麗だろ、我のお気に入りだ」
伸ばした手を、旦那様の大きな手が包み込みます。
旦那様を見上げると、儚い旦那様の横顔。
儚いけれど、芯のある空気を纏っている旦那様。
今、手を離してしまうと、旦那様が私の前から消えてしまいそうな。そんな雰囲気を感じます。
「ん? どうした?」
「いえ、今にも旦那様が消えてしまうんじゃないかと。少々、思ってしまっただけです」
「我が今消えたら、華鈴はこの高さから落ちるのだが、大丈夫か?」
…………下をちらっと見てみます。
高層ビルまでもが小さく見えるほど高く飛んでおります。人なんて米粒より小さい……。
「────無理です」
「だろ? だから安心しろ。我は華鈴の前から消えん、離れる事も考えておらん。な?」
旦那様が私の顔を見て、優しくそう言ってくれました。
そのまま絡めた手を旦那様は、自身の口元に持っていき、私の手の甲に軽くキスを落とします。
「だ、旦那様?!」
「くくっ、たまには良いだろう。このような甘いのも」
ケラケラと、私の顔を見て笑う旦那様。
楽しそうなのはいいのですが、私は顔が赤くなってしまいます。
むぅ、今日の旦那様は、手が早いです!
いつもはこのようなことはしないのに……。
────あぁ、そうか。
私がさっきから不安そうにしていたから、それに気づきこのような事をしてくださったのでしょうか。
それが当たっているのなら、私は本当に旦那様へご迷惑をかけてばかりなのです。
何かしたいと思っても、結局は助けられてしまいます。
「っ、どうしたんだ? どこか痛いか?」
旦那様の顔が、涙で歪んで見えない。
嬉しすぎて、温かくて。涙が止まらない。
「私は、っ、私は本当に、幸せです」
「それなら、良かった」
私の額に、旦那様は軽くキスを落とす。
ふふっ、こういう所での”初めて”はお気になさらないのですね。
────いえ、"初めて"は、ここがいいです。
「旦那様」
「むっ」
旦那様の服をそっと掴み、顔を近づかせてみます。
すると、旦那様は私がしたい事をすぐに察してくださいました。
頬を染め、少々考えていましたが、すぐに覚悟を決めてくださったみたいです。
私の顎に手を添え、顔を近づかせてくれました。
夕暮れを背負い、私達は初めてのキスをする。あと、数センチで――………
――――――――ブワッ!!!
「っ!!」
「っ、しまっ――――」
あともう少しの所で、私達の邪魔をするように突風が吹き荒れ、旦那様の顔を隠していた黒い布を飛ばしてしまわれました。憎みます、呪います。
「旦那様、だいじょっ──……」
────あ。
何とか旦那様は片手で顔を隠そうとしますが、私はしっかりと見てしまいました。
旦那様の顔半分、目元に、大きな火傷の跡があるのを―――…………
当たり前です、アポすら取っていないのですから。
「旦那様、いかがいたしますか?」
「待つしかないな。九時まで営業しているとなると………。ふむ、今は午後の七時。二時間ここで待っていると変に目立つ。カフェの中に入るも、九時前に退社されてしまえばすぐに動くことができん。むむ……」
険しい声を上げ、旦那様が空を仰いでしまいました。
私も、旦那様に頼ってばかりではなく、動かなければ!!
周りに、何かちょうど良い、時間が潰せそうなスポットは無いでしょうか。
・・・・・・・・・・・・・。
周りの人が旦那様の容姿や、妖しい雰囲気に注目されておりますね。
え、ま、待ってくださいよ。
見惚れてしまう人などはいませんよね、大丈夫ですよね。
私以外の女性が旦那様に見惚れるのは駄目です、許しません。
「よしっ、わかった。空の散歩でもして時間を潰そうか」
「わかりまっ――空の散歩?」
ん? どういう事でしょうか。展望台などに行くという事でしょうか。
ですが、空の散歩が出来るほどではないかと……。
「こっちに来い」
「は、はい」
旦那様に手を引かれてしまいついて行くと、何故か辿り着いたのはビルの裏側。路地裏と呼ばれる所です。
な、なぜ、空の散歩をすると言って、路地裏に向かったのでしょうか。
――――あっ、人がここにはいません。
高いビルにより陽光が遮られ、薄暗いです。
少々、肌寒くもあります。
旦那様、何を考えておられるのですか?
「ここなら人はいないか。少しは楽しまないと、ここまで来た意味がないからな。上から都会を見て、楽しむぞ」
「ど、どうやってですか?」
「こうやってだ」
旦那様は、隠していた狐の耳と九本の尾を出すと、私の腰に手を回してきました。
抱き抱えられた際、落ちないように首に手を回せと言われたため、そっと回します。
「落ちないように気を付けるのだぞ」
「あの、もしかしてですが、旦那様。空、飛べるのですか?」
問いかけると、黒い布の隙間から覗き見える口元がにやっと上がります。
その顔だけで私は、この後何が起きるのか予想が出来ました……はい、出来てしまいました。
「あ、あの、旦那様、す、少しだけお待ちくだっ―――」
「悪いが、断るぞ」
断られた!? え、体に浮遊感。旦那様が上にピョンと跳びました!!
あ、ああああ、赤色に染まっている空が近くなっていきます!!!
「ひっ…………って、あれ。体に衝撃などはないのですね。浮遊感だけ……?」
「なるべく衝撃を抑えたからな。人の目にも映らないようにしているから、周りも気にせんでよい」
な、なんでも出来るのですね、旦那様。かっこいいです!!
「それより、どうだ? 今までこんなに近場で夕暮れを見た事はないだろう?」
旦那様の声で、何とか気持ちが落ち着いてきました。
周りを見ると、広がるのは鮮やかな赤。
今日という日が終わると、沈む太陽が知らせてくださる景色。
「わぁ、凄い……」
目が奪われるような澄んだ空気、光景に目をそらす事が出来ない。
鳥が自由に赤い世界を飛び回り、光の線が四方に伸びております。
手を伸ばせば、この綺麗な景色を掴めるんじゃないかと。
思わず、伸ばしてしまいました。
「綺麗だろ、我のお気に入りだ」
伸ばした手を、旦那様の大きな手が包み込みます。
旦那様を見上げると、儚い旦那様の横顔。
儚いけれど、芯のある空気を纏っている旦那様。
今、手を離してしまうと、旦那様が私の前から消えてしまいそうな。そんな雰囲気を感じます。
「ん? どうした?」
「いえ、今にも旦那様が消えてしまうんじゃないかと。少々、思ってしまっただけです」
「我が今消えたら、華鈴はこの高さから落ちるのだが、大丈夫か?」
…………下をちらっと見てみます。
高層ビルまでもが小さく見えるほど高く飛んでおります。人なんて米粒より小さい……。
「────無理です」
「だろ? だから安心しろ。我は華鈴の前から消えん、離れる事も考えておらん。な?」
旦那様が私の顔を見て、優しくそう言ってくれました。
そのまま絡めた手を旦那様は、自身の口元に持っていき、私の手の甲に軽くキスを落とします。
「だ、旦那様?!」
「くくっ、たまには良いだろう。このような甘いのも」
ケラケラと、私の顔を見て笑う旦那様。
楽しそうなのはいいのですが、私は顔が赤くなってしまいます。
むぅ、今日の旦那様は、手が早いです!
いつもはこのようなことはしないのに……。
────あぁ、そうか。
私がさっきから不安そうにしていたから、それに気づきこのような事をしてくださったのでしょうか。
それが当たっているのなら、私は本当に旦那様へご迷惑をかけてばかりなのです。
何かしたいと思っても、結局は助けられてしまいます。
「っ、どうしたんだ? どこか痛いか?」
旦那様の顔が、涙で歪んで見えない。
嬉しすぎて、温かくて。涙が止まらない。
「私は、っ、私は本当に、幸せです」
「それなら、良かった」
私の額に、旦那様は軽くキスを落とす。
ふふっ、こういう所での”初めて”はお気になさらないのですね。
────いえ、"初めて"は、ここがいいです。
「旦那様」
「むっ」
旦那様の服をそっと掴み、顔を近づかせてみます。
すると、旦那様は私がしたい事をすぐに察してくださいました。
頬を染め、少々考えていましたが、すぐに覚悟を決めてくださったみたいです。
私の顎に手を添え、顔を近づかせてくれました。
夕暮れを背負い、私達は初めてのキスをする。あと、数センチで――………
――――――――ブワッ!!!
「っ!!」
「っ、しまっ――――」
あともう少しの所で、私達の邪魔をするように突風が吹き荒れ、旦那様の顔を隠していた黒い布を飛ばしてしまわれました。憎みます、呪います。
「旦那様、だいじょっ──……」
────あ。
何とか旦那様は片手で顔を隠そうとしますが、私はしっかりと見てしまいました。
旦那様の顔半分、目元に、大きな火傷の跡があるのを―――…………
0
https://accaii.com/sakurannbo398/?msg=signup
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?
しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。
いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。
どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。
そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います?
旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる