生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-

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旦那様とお買い物

3ー5

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 外に出ると、いい匂いがしてきました。
 お茶とお団子の香りです。

 そう言えば、近くに有名なお団子屋さんがあると聞いたことがあります。

 いいなぁ、食べてみたいです。
 食べてみたいですが、旦那様の前で一人食べるのも忍びないです。
 …………諦めましょう…………。

「この後はどうするか……。どこか行きたい所はあるか?」

「いえ、私は旦那様の行きたい所であればどこでもっ―――」

 ぐぅぅぅぅぅううううう――…………

 …………え、今、どこから音が? へ? 私のお腹から? 

 確かに、今は昼時です。
 御屋敷でしたら女中さんが事前に準備をしてくれ、時間ぴったりに食事を出してくださいますが……。

 まさか、私の身体がその習慣に慣れてしまい、今、旦那様の前でお腹を鳴らしてしまったという事なのでしょうか!

「すすすすすすすすいません!! 下品な音を鳴らしてしまって!! あの、あの! すいません!!!」

 腰を深く折って全力で謝罪。恥ずかしすぎて顔を上げる事が出来ません。
 旦那様は、何も言わず無言を貫いております、ひえぇ……。

 ――――はっ、も、もしかしてですが。呆れられてしまったのでしょうか。

 こんな、食い意地の張った嫁など恥ずかしくて一緒にいたくないと思われてしまいましたでしょうか。

 あぁ、穴がありましたら顔から突っ込み、冬を超えるまで埋まれるというのに。
 こういう時に限ってどこにも穴がありません!

 うぅ、恥ずかしすぎます、死にたい。

「そういや、ここら辺に有名な団子屋があると二口女が言っていたな。もし団子が苦手ではないのなら、一緒に行かないか?」

 え、笑いもしなければ、馬鹿にもしないのですか? 
 恥ずかしくないのでしょうか。
 旦那様の嫁が、あんな下品な音を鳴らしたのに。

「どうした、俯いてばかりで。もしや、団子は苦手だったか? それなら、また他の所を考えよう」

「あ、い、いえ、そうではなく。下品な音を鳴らしてしまったため、旦那様に恥ずかしい思いをさせてしまったかと思いまして……」

「ん? なにを言うか。恥ずかしいなんぞ思っておらんぞ。むしろ、可愛いとまで思っている」

「カッカッカッ」と、高笑いする旦那様。
 高笑いをしている旦那様もかっこよく美しいのですが、私は先程までとは違う意味で恥ずかしいです。

 顔が赤くなっているのを感じます、勘弁してくださいぃぃい!

「ほら、迷子になるぞ。手を繋げ」

「むぅ…………」

 差し出された手を握ると、指を絡め、また恋人繋ぎに。
 これだけで心臓が跳ねるの、どうにかしたいです。

「では、行くか」

「あ、はい!」

 旦那様の半歩後ろを付いて行きます。

 この、旦那様の大きな背中を眺められるのは、お嫁さんである私の特権です。
 幸せをかみしめます。

 ※

「「うわぁぁぁあああ…………」」

 旦那様と声が重なってしまいました。ですが、これは仕方がありません。

 お団子屋さんには、沢山のお客様が並んでおります。
 おそらく、一時間以上は待たなければならないでしょう。

 人気とは聞いておりましたが、まさかここまでとは……。

「だ、旦那様。これはさすがに、並ぶのはお辛いでしょう。私は大丈夫ですので、他のお店に行きましょう」

「だが、ぬしは食べたかったんじゃないか?」

「いえ、私は今、お団子より他の物を食べたい気分です。ほら、あちらのお店のお饅頭も美味しそうです。旦那様はお饅頭食べますか?」

「我は今、腹が減っている訳では無いからなぁ……」

「あ、そうですよね、すいません……」

「いや、すまんな」

 私の馬鹿!! 旦那様が物を口にしないのは知っていたじゃないですか! 
 それなのに、なぜあんなことを聞いてしまったのです!!

 "こいつ、我の事なんも分かってないな"と、思われておりましたらどうしましょう……。
 このまま嫌われてしまったら? 私、生きていけない……。

「では、お饅頭でも食べよう」

「え、あっ、はい!」

 よ、良かった。嫌われてはいないみたい。

 旦那様に手を引かれ移動した先には、ぽつりぽつりと人がいるお饅頭屋さん。
 行列はできていないみたいです。

「ここなら早く中に案内していただけそうですね。………? あの、いかが致しましたか?」

「……いや、なんでもない。中に入ろう」

 ? どうしたのでしょう。さっき、旦那様に見られていたような気がしますが……。
 でも、なんでもないと旦那様が言っているのです、きっとなんでもないのでしょう。

 旦那様の後ろを着いていき、中に入ります。
 中は暖かい雰囲気の、くつろげそうなお店となっておりました。

 案内された先は、堀座卓。
 テーブルの上にあります注文表を、二人で並んで見ます。

「凄い、お饅頭だけでも色んな種類があるんですね」

「みたいだな。蒸し饅頭や焼き饅頭、栗や酒。葛饅頭や薯蕷饅頭じょうよまんじゅうまで。選び放題だなぁ」

 旦那様が私の持っているお品書きを覗き込んできます。
 旦那様のふわっとした爽やか香りが鼻を掠め、お品書きに集中できません。

 ですが、余計なことを言ってしまうと、旦那様が私から距離をとってしまうかもしれない。
 それだけは、避けなければなりません。

 私が綻ぶ口元を耐えている間も、旦那様はお品書きに集中しており、ぶつぶつとお饅頭の名前を呟いています。

「むぅ、悩むなぁ。ぬしは何か食べたい物はあるか?」

「…………っ!?」

 な、ななななな、旦那様!? こんな近距離で顔を私に向けないでください。旦那様の顔を隠している黒い布が間近です!! 

 これ、もし黒い布がなかったら、その、あの、当たっていてもおかしくないほど顔が近いんですからね!!! 

「どうした?」

「い、いえ、あの。私もたくさん食べたいものがありすぎて、悩んでおりました」

「おぉ!! やはり悩むよなぁ! こんなにあるとどれも食べたくなる」

 うぅ、喜んでいる旦那様、可愛いです。抱きしめたいです。
 ですが、我慢です。私は、こんな所ではしたない顔を浮かべるわけにはいかないのですよ。

 ――――って、あれ? 旦那様、お饅頭見て悩んでいるということは、一緒に食べてくださるということでしょうか? 

 それは、ものすごくうれしいです!!
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