マイナス100Lvの最強国王

青浜ぷりん

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二章 望む来訪者、望まぬ来訪者

十八話 卑怯な逃亡者

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「ワガママって……一体何だよ」

「ここから逃げてください。私はワガママですから、何が何でもあなたに生きて欲しい。私の勝手な願いです。お願いします」

「――」

 ワガママの中でもとびきりのワガママだと思った。
 でも、皆を置いて逃げることで、俺の心がどうなるかはきっと考えた上での頼みなんだろう。
 それでも、ワガママは叶えてあげられない。

「無理だ。この体でどうやって逃げろって言うんだよ。すぐに捕まって終わりだ」

「大丈夫です」

「……え」

 体が明るい輝きに包まれる。
 これは、治癒魔法だ。
 
「駄目だ、マノン……そんなことしたら――」

「おいおい!! お前、何やってるんだ? 本気か?」

 俺を治癒するマノンを見てソワンが口を挟んできた。

「自ら俺達の前で罪人に協力するとは。これはもう言い逃れできないぞ」

「構いません。トウゴ様が罪人であろうが何であろうが、私はトウゴ様に協力します。あなた達が何と言おうと」

 ソワンの言葉に耳もくれず、マノンは俺の治癒を続ける。
 出血が徐々に治まり、体も楽になっていく。

「てめぇ……ふざけやがっ――」

「来ないでください!!!」

「ッ――」

 マノンは、治癒を止めようと歩み寄ってくるソワンを叫んで威圧した。
 ソワンも予想外の叫びに少し驚いたのか、歩みを止めた。
 徐々に体が治癒されていく。
 だけど、明らかに治癒されていくスピードが速いように感じた。

「ハアッ……ハアッ……トウゴ様。どうですか?」

「血も止まって、体も動く。でも、マノン……お前……」

 マノンが息切れをしているのを見て俺は悟った。
 恐らく持てる限りの全てを尽くして俺を治癒してくれたのだろう。

「良かった……良かった。これで走れますよね? さぁ、行ってください。お願いします」

 あまりにも突然、別れを告げられた。
 こいつらに捕まるか、一人逃げるか。
 どちらにせよ明るい未来は待っていない。
 でも――

「無理だ。逃げられない。分かるだろ?俺は――」

「私のこと、好きでしたか?」

「……え」

 突然の質問に俺は困惑してしまった。
 でも、質問の答えは即答できる内容だ。
 そうじゃなければ、俺は今頃生きていないかもしれない。

「当たり前だ……! 好きだ、好きだよ……。初めて俺をこんなに認めてくれて、俺を支えてくれて。お前がいたから俺は――ッ……とにかく好きに決まってる。マノン、だからお前を――」

「良かった。安心しました」

 ニコッと俺に笑顔を見せる。

「トウゴ様、行ってください。大丈夫、また会いましょう。きっとどこかで」

 スクッと立ち上がり、マノンはソワンに顔を向ける。

「……マノン」

「さぁ、走ってください!!」

「おい、ふざけるなよお前。そいつを逃がすことがどれ程のことか分かっているのか? お前も牢獄行になるぞ。チャンスをやる、そいつを引き渡せ」

「嫌です。あなた達なんかにトウゴ様を渡しません。あなた達の主張には正当性の欠片もない。勝手に彼を呼んでおいて、勝手に役目を押し付けて。挙句の果てには罪人扱いなんて、馬鹿馬鹿しい」

「ッ……言ってくれるなぁ。お前も罪人ってことでいいんだな? じゃあ遠慮なく叩き潰すけどいいのか?」

「トウゴ様、私はここで足止めします。走って下さい。できるだけ遠くへ」

「そんな……」

 そんな、なんて言いつつも、俺はこの提案を却下出来なかった。
 怖かったからだ。ただそれだけだ。
 正直、もう痛い思いをしたくなかった。
 そして今、幸運にも逃げられる可能性が出てきた。
 もしかしたら、マノンはソワンに勝てるかもしれない。
 何か策があるのかも。

「マノン、お前の望みは俺がここから生きて逃げることなのか……?」

 卑怯な質問を繰り出す。

「はい。トウゴ様が生きて逃げること、それが望みです」

「ッ――そう、か。そうか、マノンの望み……なら、仕方ないよな……そうだ、仕方ない」

 自分を正当化するように自問自答を繰り返す。
 先程ソワンに刻まれた痛みが、俺の気持ちに拍車をかけた。
 ――気が付けば、俺は冷静な判断が出来なくなっていた。

「仕方ない仕方ない仕方ない……うぁ、うわああああああああああああああッ!!!」

 

 俺は逃げた。
 生に執着し、逃げることを選んだ。
 全ての痛みから、全ての責任から。
 頭を空っぽにして、俺は逃げた。

「ああああああああああああッ!!」

 雄叫びをあげて走った。
 門の正反対へと走った。
 門からじゃなくとも、逃げられる。
 塀を超えて、逃げよう。
 遠くへ、遠くへ、遠くへ。
 


 ――――逃げて、どうしよう。
 行く当てもないのに、逃げた後どうやって生きていく?
 異世界でどうやってお金のやりとりをするかなんて知らない。
 また違うヒロインに出会えるだろうか。
 
 出会えるわけない。俺の何処に惚れる要素がある?
 一人になれば、俺は本当に終わる。
 走っているうちに、俺は冷静さを取り戻していった。

「ハッ、ハッ、ハアッハァッ」

 さっき自分が思ったことを思い出した。
 マノンがソワンに勝てるかもしれない、策があるのではという考えだ。
 俺は走るのを中断し、住宅の脇の道に立ち止まった。

「……勝てるわけ、ない」

 マノンがソワンに勝てるわけない。
 策があったとしても、無理だ。

「でも……戻っても、マノンを失望させるだけだ。マノンの願いを俺は破ることになる」

 マノンは、俺が逃げることを望んでいる。
 なら、俺はその望みを叶えるべきなのだろうか。

「駄目だ。やっぱり駄目だ。戻らないと。マノンの願いを破ってもいい。戻らないと駄目だ」

 考えをコロコロ変える都合のいい男六宮冬悟は、マノンの元に戻ることを決断した。
 クルリ、と門へと向き直る。

「マノンに呆れられてもいい。とにかく行かなきゃ、俺は一生後悔する。逃げてもきっと残酷な結末は変わらない」

 カタカタと足が竦んだ。
 やはり痛いのは嫌だ。
 いくら救いがあろうと、それだけは絶対に変わらない。
 だけど、このまま逃げたら絶対に一生後悔するだろう。
 それだけは確信していた。
 
 ダダダダッ――!
 元来た道を全速力で走る。
 こんな状況なのにも関わらずシャトルランのように道を往復している自分に呆れたが、今は考えないでおく。

「ハァッ、ハァッ、ハァ……お願いだ、耐えてくれ。耐えてくれ、マノン」

 門に着いたら、土下座してソワンに許しを請おう。
 マノンのこと、村の皆のことは助けてくれって。
 自分のプライドなんて、もはやどうでも良かった。
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