マイナス100Lvの最強国王

青浜ぷりん

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二章 望む来訪者、望まぬ来訪者

十六話 終了

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「トウゴ様!!」

 マノンはゼェゼェと息を切らしながら走ってきた。
 駄目だ、マノンを戦いの場に巻き込んではいけない。

「マノン……来るな、こいつには勝てない……来ちゃ駄目だ」

「そんな……」

 マノンは俺の腹の傷に目をやり、そう呟いた。
 一体何を思っているだろうか。
 この村を守ると豪語した英雄気取りの人間が、あっけなく腹を切られている。
 自分を心配して駆けつけてくれた者に、敵の強さをただ蹲って説くことしか出来ない哀れな男を目の前に、マノンは何を思っているだろう。

「トウゴ様!! 逃げてください!! その傷は駄目です……治癒しなきゃ」

「マノン……もう逃げれないんだ。こいつと一対一の戦いを申し込んだ。だから、せめて最後まで戦わせてくれ。ごめん、ごめんな」

「おお、お前、女ができたのか? 中々美人じゃねぇか。こんな奴いたっけな。まぁいい、とにかく引っ込んでな。これはトウゴ様が申し込んだ戦いだ。分かるだろ? ここで戦いを放棄して逃げることが、どれだけカッコ悪いか。せめてこいつの戦いっぷりを見届けてやれ」

「ッ――」

「大丈夫、腹の傷は治癒させてやる。もう一度ギャラリー有りで戦おう。士気が上がって強くなるかもしれん」

 ソワンの言葉に、マノンは心なしか一瞬安心したような顔をした。
 ただ、俺にはそれすら情けなかった。
 敵に情けをかけられる所を好きな女に見られる。
 穴があったら入りたいと思ったが、チャンスをくれるのならやるしかないと思った。
 次は勝てるかもしれない。次こそは。

「リーラ……」

 情けない声で魔法を唱える。
 傷が徐々に癒えていく。

「お、もう一戦承諾してくれたか。ま、無理するなよ? あんまり女の前で醜態を晒したくないだろ?」

「ちょっと、ソワン!! 何やってるの、早くしなさいよ!! 何治癒させてるのよ!!」

 退屈そうにしていたベラが半ギレで叫んだ。
 戦闘を開始してからまあまあな時間が経っているので、恐らく痺れを切らしたのだろう。

「チッ……分かってるよ!! 悪い、トウゴ様と、……マノン? だっけ。うちの魔法使いと部下が退屈してそうだから、早めに決めさせてもらうことにするわ」

「完全に舐めてるな……油断するなよ、ソワン」

 ガクガクと痙攣する脚で体を支え、精一杯の威嚇をした。
 
「お、威勢が戻って来たか。さぁ、早く始めるぞ。お前から来てみろ!」

「言われなくてもやってやるよ……ヒーラッ……!」

 ゴオッ――!!

「あ? 何だそれ」

「……あれ」

 ヒーラを使うと、炎の渦がソワンに到達する前に風に溶けて消えた。
 力が入らない。何でだ。
 まだ戦えるのに。さっき治癒したじゃないか。
 今魔法を出せなければ、本当に何も出来ずに終わる。
 
「……ああ、成る程な。お前はもう限界だったんだ。傷は治せても、精神は回復してないな。残念」

「っえ?」

 ソワンは淡々と冷静に、今起きている状況を分析した。
 
「戦闘ではよくあることだ。圧倒的な力の前に戦意喪失する。相手を圧倒的格上だとみなしてしまったらもう無理だ。戦闘を続行出来なくなる。まぁ、仕方ないことだ」

「……あ」

 先程から震えが止まらない。
 そうか、これは痙攣じゃない。
 恐怖か。俺の体が勝てないと、戦いを拒んでいるんだ。

「トウゴ様……もういいです、もうこれ以上……」

 マノンは今にも泣きだしそうな顔で呟いた。

「ソワン様!! お願いです、私はどうなってもいい。だから、トウゴ様だけはお助け下さい!! お願いします、お願いします!!」

「無理だ。悪いが、ディエゴ様の決定で罪人六宮冬悟の確保は確定事項だ。これはもう覆らねぇよ」

 必死な形相でソワンに懇願するマノン。
 俺はそれをただ見ていることしか出来ない。
 
 これ以上情けないことがあるだろうか。
 守らなければならないものに守られて。
 俺はこれまで一体、何をしてきたんだ。

「ぉお、お……う、おおおおおッ!!!」

 歯を食いしばれ。まだやれる、まだやらなければならない。
 守れ、守れ、守れ。
 せめて最後、全ての力を出し切って。

「おおおおおおおおおッ!!!」

 叫べ、渾身の力で叫べ。
 全身に血を巡らせろ。
 地面にしっかり足を付けて、魔法を繰り出せ。

「おおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 バリバリバリ――!!
 手に雷が生じる。
 行け。このまま放て。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!! ヴェーら……あ」




 ザシュッ――――!!

「あああばば」

 ――ザシュザシュザシュ!
 ズシュ、ズバン!
 ザシュザシュザシュザシュ!
 
 血飛沫が綺麗だ。
 目の前が真っ赤。
 でもここまでやらなくてもいいじゃない、とおれはおもった。

「適切な鍛錬を行わず、威勢だけで強くなろうとする。俺はそういうやつが嫌いだ。自分が血反吐を吐いて鍛錬した時を思い返すと尚更な。……つっても、流石にやりすぎたか? 治癒だけでどうにかなるか、これ? まぁ別にいいか。ピンピンした状態で連れてこいなんて言われてないしな」

「ッ――ああッ……ガフゲホッ」

 視界が朦朧とする。
 終わった。
 全てが終わった。
 まぁ、勝てないことは最初から分かってた。
 もし奇跡的にソワンに勝てても、ベラと部下達を相手しなければいけない。
 最初から不可能だったんだ。
 
 でも、楽しかったな。
 マノンと、トリスタン村長と、村の皆と過ごした日々。
 皆に感謝しないと。

 ――グシャリ!
 髪を乱暴に引っ張られ、俺は門へと連れて行かれた。
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