マイナス100Lvの最強国王

青浜ぷりん

文字の大きさ
上 下
6 / 20
一章 最強国王の悲劇

六話 約束

しおりを挟む
 建物の裏をチラッと確認すると、マノンがいた。
 建物の中に隠れて窓から頭だけをピョコっと出している。

「あ……あの……ご、ご、ごめんなさい……」

 マノンは俺を見るなり何故かいきなり謝ってきた。
 何に対して謝っているのだろうか。

「あ、驚かせて悪かったな。少し君のことが気になって来てみたんだ。俺達のこと見てたよな?」

「あ、あっ……ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

「え? 全然怒ってないって! なんで謝るんだよ! 別に隠れなくてもいいじゃんか。俺は何もしないから」

「……あなたは、わ、私達のことを支配するつもりはないんですか……?」

「うん。そもそもディエゴ達が村を支配してたなんてこの村に来るまで知らなくてさ。ベラとソワンの態度が横暴だったからまさかとは思ったんだけど……本当なんだな」

 俺がこの村に危害を加えるつもりはないということに安心したのか、マノンは建物から全身を露わにした。
 間近で見たマノンに俺はまた見惚れてしまう。
 美人はバン王国にたくさんいたが、国の実態を聞いた後ではどうしても色褪せて見えてしまう。
 マノンは純粋な紅色の目をしている。
 燃えるような奥深い瞳は、国にいる誰よりも美しく見えた。

「君と少し話がしたいんだ。君ぐらい若い人はレザンス村にはほとんどいないんだろ? 多分年も俺と近いから気になってさ。年はいくつなんだ?」

「十八です……」

 なるほど、まぁ見た目的にもそれくらいか。
 ディエゴが六十一で衰えてるとか言ってたし、年の概念は異世界でもあまり変わらなさそうだな。

「そっか、じゃあ俺の一つ下だな。俺の名前は六宮冬悟。知ってると思うけど、バン王国の国王だ。一応最強魔術師らしい」

 言い終わった後、しまった、と思った。
 最後の一言がマノンを少し怯えさせてしまったようだ。
 小刻みに肩が震えている。

「あ……悪い! 大丈夫か? 最強魔術師っつっても、使える魔法のグレードと種類が最強なだけなんだ。戦闘スキルとかはそこまでない。魔法でゴリ押しみたいな感じだ」

「最上位魔法を使えるんですか?な、何種類最上位魔法を扱えるんですか」

「火、水、風、雷、闇、光、回復……後なんかあったっけ。まぁそのくらいだ」

 マノンは唖然としていた。口をパクパクさせている。
 可愛い。

「そんなに扱えるなんて……凄い」

「あはは、ありがとう。でもまだ異世界で分からないことだらけなんだ。だから色んな人と話したいし色んなことをしたい。マノンちゃんのことももっと知りたいんだ」

 美少女ともっと話したいなんて言ったらまたマノンを震え上がらせてしまうかもしれないので、もっともらしい理由を述べておく。

「トウゴ様、もう日が沈みます。夕ご飯はもうすぐ用意出来ますのでこちらへ。マノンもおいで。トウゴ様と皆でご飯を食べよう」

 トリスタン村長がやってきてそう促してくれたので、俺とマノンは村長に付いていった。

 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~

「うおぉ……すげぇ、これが異世界飯か……」

「さぁ、召し上がって下さい」

 この村に来た夜。
 俺、トリスタン村長、マノン、料理人含む村の数人で夕飯を食べることになった。

 大皿にはマンモス肉みたいなでかい肉が切り分けられていた。
 ハチミツみたいな黄色のソースがかかっていて、金色に照り輝いている。

「いただきます!」

 ガブリ、と巨大肉に思いっきり齧り付く。

「……やべぇ、美味すぎる。こんな美味い肉食ったことないよ。この肉で争い無くせるだろ」

「ありがとうございます。トウゴ様は本当に美味しそうに召し上がりなさる。料理人としてはこれ以上の幸せはありません」

「昼食った飯も美味かったのに……ベラの奴、こんなものって言ったの許せねぇな。金持ちはやっぱ舌が肥えてんだな」

「おじいちゃん! これ美味しい! 本当に美味しいよ!」

 突然マノンが大きい声で言った。

「おおそうかそうか、良かった。今日はトウゴ様が来てくれたから特別だ。いくらでも食べなさい」

 村長はニコニコして言った。
 マノンちゃんは俺を見るとハッとして恥ずかしそうに顔を赤らめる。
 俺の前ではしゃぎ過ぎたと思ったのだろう。

「あはは、いいよそんな畏まらなくても。……って、今おじいちゃんって言ったか?マジ?」

「あぁ、血は繋がっておりません。マノンは小さい頃に両親を亡くしました。なので村長である私が代わりに小さい頃から面倒を見ているんです」

「成る程、そういうことだったのか」

「マノンの他にも二人の子供の面倒を見ていたんですが、先程言ったように出て行ってしまったんです」

 村長として子供の世話をしていたのか。
 恐らくリーフェン鉱石の採掘と村長としての仕事と子育てを同時にこなしていたんだろう。
 本当に優しい人だ。

「……皆、聞いてくれ。提案があるんだ」

「何でしょう?」

「俺は明日、バン王国に戻る。そしてレザンス村の待遇を改正するように部下に言うよ。それでもし反対するようなら王の権利を行使して無理にでも改正させる」

「何と……そこまでして下さるというのですか。本当にありがとうございます、あなたは本当にお優しい方だ」

「それともう一つ。この村が万が一魔物や外部の人間なんかに襲撃された時、やっぱり後ろ盾が欲しいと思う。それでここからが皆に提案なんだが、俺がここの王になるってのはどうだ? 王を掛け持ちするんだ。バン王国と違ってそこまで大きいわけじゃないし、目が届く距離にある」

「え……それはつまり、この村の王になり守って下さるということでしょうか?」

「あぁ、そういうことだ」

「ありがたい話ですが、ディエゴ様が許すでしょうか。王の掛け持ちなど……」

「俺が説得してみせるよ。あんまりやりたくないけど、力で脅す手もある。これ以上レザンス村を支配しようとするなら俺が力ずくで辞めさせる」

「もしトウゴ様さえ良ければ、是非お願いしたいです。最近ドゥルガー・フェイスや魔物の動きも激しさを増していると聞いています。トウゴ様が守って下さるのでしたらどれ程心強いか」

「任せろ。マノン、俺がここの王になったらいっぱい肉食べさせてやるからな。楽しみに待っててくれよ。約束だ」

 マノンは驚いたように俺の顔を暫く見つめていたが、暫くして俺に一言。

「ありがとうございます。嬉しいです」

 そう言って微笑んだ。
 その笑顔は、誰よりも純粋で綺麗な笑顔だった。

 ~◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇~

「それじゃあ、またな。絶対説得して戻ってくるから、待っててくれ」

「はい。レザンス村の者共はトウゴ様が国王で本当に良かったと思っています。いつまでも待っていますので、この村のことをよろしくお願いいたします」

「おう。じゃあな、マノン。待っててくれ、もう理不尽な目には遭わせないから」

「はい。いつまでも待ってます、トウゴ様。ここに帰ってきたらまたご飯を一緒に食べましょう」

「おう。今度は村の皆で宴だ。楽しみにしておくよ」

 レザンス村に来て二日目の早朝、俺は村の皆に挨拶をして別れた。
 村の皆の為にも、俺はディエゴ、ベラ、ソワン、皆を説得しなければならない。
 村で借りた馬に乗って俺はバン王国へと駆けて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...