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01 君を愛するつもりはない
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「悪いが君を愛するつもりはない。夫婦らしく過ごす気もないし、君にもそういったものを求めないでいただきたい」
「まぁ」
白く艶やかなウエディングドレス姿のミラベルに、たった数時間前に夫となったグレン・ハンプトンが、部下に指示でも出すよう淡々とそう告げた。
今は結婚式を終えたふたりが、馬車でハンプトン伯爵邸に帰るところである。
ミラベルは緩く巻いた白銀の髪を揺らし、グレンを眺めた。
──やぁんグレン様しゅきぴ♡♡♡ 低く響くお声がなんてセクシーなのぉ! いつもの黒い騎士服も素敵だけれど、たくさん飾りのついた正装姿なんてレアすぎて倒れちゃいそう♡ グレン様の美しい金髪に白い騎士服がとっても映えて……本物の王子様も嫉妬してしまうくらいの王子様だわぁ♡♡♡
「元々妻など娶る気はなかったのだ」
──妻ですって!!! それ!!! わたくしのことですわね??!! 妻!!! わたくしが!!! 今日から!!! グレン様の妻です!!!
「存じておりますわ」
ミラベルは体内で暴れ回る自らの煩悩を、にっこりと淑女の笑みで覆い隠した。
「大体君とは歳が離れすぎなのだ」
グレンはミラベルと視線を合わせようとはせずに、窓の外へ目を向けながら話す。
ミラベルは二十五歳。貴族令嬢としては行き遅れと言われる年齢なのだが、グレンは彼女よりも更に十五も年上である。
──あぁん物憂げな表情もす♡て♡き♡ 長い睫毛がお顔に影を作って……何を考えていらっしゃるのかしら? もしかして今夜のことだったりして……? きゃー! グレン様のえっち♡♡♡
「この先、君がどこに出かけようが散財しようが恋人を作ろうが私は干渉しない。世継ぎ問題が複雑になるゆえ、子を成すことは認められないが、それ以外のことなら容認しよう」
そう言い放つグレンに、ミラベルは青色の瞳を揺らす。
「お待ちくださいグレン様。あなた様の言いたいことはよくわかりましたわ。けれども、ひとつだけお願いがございますの」
「……なんだ」
「形だけとはいえ、わたくしは今日より伯爵夫人ですわ。それが結婚式の当日から夫に愛想を尽かされているなんて……使用人にも示しがつきません」
「ふむ。たしかにそれは一理あるが……なにが言いたい?」
グレンは鋭い碧眼をミラベルに向ける。
この国の精鋭、近衛騎士たちを束ねる立場にある彼の眼力は、同僚ですら震え上がってしまうほど恐ろしい。の、だが。
──やっとこちらを見てくださったわ! 「皇帝の金獅子」なんて呼ばれているグレン様……サラサラの御髪がとっても綺麗で見惚れちゃう。
と、ミラベルは、グレンの鋭い視線など気にする様子はない。むしろ陽に透ける、輝くような金髪に映える碧眼をうっとりと眺めてしまわないよう必死である。
グレンからは釘を刺すように「愛するつもりはない」なんて言われているからだ。ミラベルの本心を知られてしまえば、馬車を降りたが最後、もう二度とこの麗しい顏を向けてくれることはないだろう。
そう思ってしまうほどに、″皇帝の金獅子″は女性との関りを極端に避けている。
だから今日、この結婚式の当日がミラベルの一世一代の勝負なのだ。
「今夜だけでかまいません。グレン様、どうか夫婦の寝室にいらしてくださいませ」
「まぁ」
白く艶やかなウエディングドレス姿のミラベルに、たった数時間前に夫となったグレン・ハンプトンが、部下に指示でも出すよう淡々とそう告げた。
今は結婚式を終えたふたりが、馬車でハンプトン伯爵邸に帰るところである。
ミラベルは緩く巻いた白銀の髪を揺らし、グレンを眺めた。
──やぁんグレン様しゅきぴ♡♡♡ 低く響くお声がなんてセクシーなのぉ! いつもの黒い騎士服も素敵だけれど、たくさん飾りのついた正装姿なんてレアすぎて倒れちゃいそう♡ グレン様の美しい金髪に白い騎士服がとっても映えて……本物の王子様も嫉妬してしまうくらいの王子様だわぁ♡♡♡
「元々妻など娶る気はなかったのだ」
──妻ですって!!! それ!!! わたくしのことですわね??!! 妻!!! わたくしが!!! 今日から!!! グレン様の妻です!!!
「存じておりますわ」
ミラベルは体内で暴れ回る自らの煩悩を、にっこりと淑女の笑みで覆い隠した。
「大体君とは歳が離れすぎなのだ」
グレンはミラベルと視線を合わせようとはせずに、窓の外へ目を向けながら話す。
ミラベルは二十五歳。貴族令嬢としては行き遅れと言われる年齢なのだが、グレンは彼女よりも更に十五も年上である。
──あぁん物憂げな表情もす♡て♡き♡ 長い睫毛がお顔に影を作って……何を考えていらっしゃるのかしら? もしかして今夜のことだったりして……? きゃー! グレン様のえっち♡♡♡
「この先、君がどこに出かけようが散財しようが恋人を作ろうが私は干渉しない。世継ぎ問題が複雑になるゆえ、子を成すことは認められないが、それ以外のことなら容認しよう」
そう言い放つグレンに、ミラベルは青色の瞳を揺らす。
「お待ちくださいグレン様。あなた様の言いたいことはよくわかりましたわ。けれども、ひとつだけお願いがございますの」
「……なんだ」
「形だけとはいえ、わたくしは今日より伯爵夫人ですわ。それが結婚式の当日から夫に愛想を尽かされているなんて……使用人にも示しがつきません」
「ふむ。たしかにそれは一理あるが……なにが言いたい?」
グレンは鋭い碧眼をミラベルに向ける。
この国の精鋭、近衛騎士たちを束ねる立場にある彼の眼力は、同僚ですら震え上がってしまうほど恐ろしい。の、だが。
──やっとこちらを見てくださったわ! 「皇帝の金獅子」なんて呼ばれているグレン様……サラサラの御髪がとっても綺麗で見惚れちゃう。
と、ミラベルは、グレンの鋭い視線など気にする様子はない。むしろ陽に透ける、輝くような金髪に映える碧眼をうっとりと眺めてしまわないよう必死である。
グレンからは釘を刺すように「愛するつもりはない」なんて言われているからだ。ミラベルの本心を知られてしまえば、馬車を降りたが最後、もう二度とこの麗しい顏を向けてくれることはないだろう。
そう思ってしまうほどに、″皇帝の金獅子″は女性との関りを極端に避けている。
だから今日、この結婚式の当日がミラベルの一世一代の勝負なのだ。
「今夜だけでかまいません。グレン様、どうか夫婦の寝室にいらしてくださいませ」
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