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30-2 この景色を見せたくて
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「やあメロディナ嬢、いい夜ですね。あまりに美しいあなたのドレス姿に、僕は妖精にでも出会ってしまったのかと驚いてしまいました」
「っ! まぁ、ギューロ侯爵令息様にパメラさん。ごきげんよう」
「卿も、姫を守るナイトさながらだ。お久しぶりですね」
「……チッ」
ニコニコとフランツから声をかけられて、慌てて表情を作った。
隣から小さく舌打ちが聞こえたが、気にしてはいけない。
クレオナルドはフランツのことをどうしてだか毛嫌いしているようで、今も全く目を合わせようとしていない。
たしかに、硬派な騎士であるクレオナルドと、人好きのするフランツとが和やかに談笑しているところは想像できないのだが。
「ごきげんようメロディナさん、ブルドア卿。フランツ様、おふたりの邪魔をしてはいけませんわ、お話しする時間はまた後であるでしょう」
「でもパメラ、おふたりに会うのは久々だし。あ、なんなら今から四人で」
「フランツ様! 私、緊張で喉が渇いてしまって。早くいただきたいのです。おふたりはどうぞごゆっくり。またのちほどご挨拶に伺いますわ」
「それなら仕方ないね。メロディナ嬢、ブルドア卿。また後で」
「え、ええ。のちほど……」
パメラはメロディナと目が合うと申し訳なさそうに会釈をして、フランツの腕を引っ張って行ってしまった。
彼女は今日、メロディナがクレオナルドに大切な話をする予定だと知っているから、気を遣ってくれたのだろう。
パメラとは変わらず仲良くしており、メロディナにとって一番の友人だった。口が堅く気のいい彼女は信頼できる人物で、家族以外で彼女だけがクレオナルドとの本当の関係を知っている。
そしてそんなパメラが恋心を抱いているのがフランツなのだ。今回の夜会では、ご令嬢たちから人気のある彼のエスコートを勝ち取れたのだと嬉しそうに話していた。
「パメラさんも苦労するわね……」
「ハッ、あんな軟派野郎のどこがいいのか理解に苦しむ」
「そんなこと言わないで。お友達の恋路は応援したいわ」
フランツの家は、表向き貴族派の家門だ。メロディナたちと同じく王族派であるパメラでは、問題が山積みだと思う。
だが恋に積極的なパメラのことだ。今日だけでなく、ふたりが一緒にいるのを近頃よく目にするし、その恋が成就するのは時間の問題かもしれない。
「俺たちも行くとしよう」
「ええ」
寄り添いながら、ゆっくりと進む。
会場に入り談笑して、一通りの挨拶を終えると、クレオナルドはメロディナをバルコニーに誘った。
「ふわ……! きれい……」
クレオナルドに促されて広いバルコニーに出たメロディナは、そこから見える庭園の美しさにうっとりとして、クレオナルドの腕に寄りかかった。
「毎年デビュタントの舞踏会と、それから三ヶ月後のこの時期はライトアップされるんだ。昨年は来られなかったから、今年こそは一緒に見たくて」
「素敵……」
メロディナは二年前のデビュタントのことを思い出した。
あの時もクレオナルドはメロディナをバルコニーに誘ってくれた。けれどもなぜだか彼は若い騎士に呼び止められ、一緒に景色を見ることは叶わなかった。
王城の庭園は美しい。
昼間の陽の光を受けてキラキラと輝く、生命力に満ち溢れた木々や花たちは眩しく力強い。
だが月明りと、淡い灯りに照らされている夜の庭園は、まるでおとぎ話の中に迷い込んだのではないかと思えるほど幻想的だった。
白い花びらがぼうっと浮かび上がるその景色は、儚くもとても美しい。
ふたりは暫くの間言葉も忘れ、見入っていた。
ぴったりと寄り添い、どれほど時間が経ったのかもわからなくなった頃。メロディナはそっと、クレオナルドに耳打ちをした。
「ねえレオ。今日はおうちに来いって、誘ってくれないの?」
そうして、伝えたい。
──長い間待たせてごめんなさい。ようやく、あなたのお嫁さんになる決心がついたの。
「っ! まぁ、ギューロ侯爵令息様にパメラさん。ごきげんよう」
「卿も、姫を守るナイトさながらだ。お久しぶりですね」
「……チッ」
ニコニコとフランツから声をかけられて、慌てて表情を作った。
隣から小さく舌打ちが聞こえたが、気にしてはいけない。
クレオナルドはフランツのことをどうしてだか毛嫌いしているようで、今も全く目を合わせようとしていない。
たしかに、硬派な騎士であるクレオナルドと、人好きのするフランツとが和やかに談笑しているところは想像できないのだが。
「ごきげんようメロディナさん、ブルドア卿。フランツ様、おふたりの邪魔をしてはいけませんわ、お話しする時間はまた後であるでしょう」
「でもパメラ、おふたりに会うのは久々だし。あ、なんなら今から四人で」
「フランツ様! 私、緊張で喉が渇いてしまって。早くいただきたいのです。おふたりはどうぞごゆっくり。またのちほどご挨拶に伺いますわ」
「それなら仕方ないね。メロディナ嬢、ブルドア卿。また後で」
「え、ええ。のちほど……」
パメラはメロディナと目が合うと申し訳なさそうに会釈をして、フランツの腕を引っ張って行ってしまった。
彼女は今日、メロディナがクレオナルドに大切な話をする予定だと知っているから、気を遣ってくれたのだろう。
パメラとは変わらず仲良くしており、メロディナにとって一番の友人だった。口が堅く気のいい彼女は信頼できる人物で、家族以外で彼女だけがクレオナルドとの本当の関係を知っている。
そしてそんなパメラが恋心を抱いているのがフランツなのだ。今回の夜会では、ご令嬢たちから人気のある彼のエスコートを勝ち取れたのだと嬉しそうに話していた。
「パメラさんも苦労するわね……」
「ハッ、あんな軟派野郎のどこがいいのか理解に苦しむ」
「そんなこと言わないで。お友達の恋路は応援したいわ」
フランツの家は、表向き貴族派の家門だ。メロディナたちと同じく王族派であるパメラでは、問題が山積みだと思う。
だが恋に積極的なパメラのことだ。今日だけでなく、ふたりが一緒にいるのを近頃よく目にするし、その恋が成就するのは時間の問題かもしれない。
「俺たちも行くとしよう」
「ええ」
寄り添いながら、ゆっくりと進む。
会場に入り談笑して、一通りの挨拶を終えると、クレオナルドはメロディナをバルコニーに誘った。
「ふわ……! きれい……」
クレオナルドに促されて広いバルコニーに出たメロディナは、そこから見える庭園の美しさにうっとりとして、クレオナルドの腕に寄りかかった。
「毎年デビュタントの舞踏会と、それから三ヶ月後のこの時期はライトアップされるんだ。昨年は来られなかったから、今年こそは一緒に見たくて」
「素敵……」
メロディナは二年前のデビュタントのことを思い出した。
あの時もクレオナルドはメロディナをバルコニーに誘ってくれた。けれどもなぜだか彼は若い騎士に呼び止められ、一緒に景色を見ることは叶わなかった。
王城の庭園は美しい。
昼間の陽の光を受けてキラキラと輝く、生命力に満ち溢れた木々や花たちは眩しく力強い。
だが月明りと、淡い灯りに照らされている夜の庭園は、まるでおとぎ話の中に迷い込んだのではないかと思えるほど幻想的だった。
白い花びらがぼうっと浮かび上がるその景色は、儚くもとても美しい。
ふたりは暫くの間言葉も忘れ、見入っていた。
ぴったりと寄り添い、どれほど時間が経ったのかもわからなくなった頃。メロディナはそっと、クレオナルドに耳打ちをした。
「ねえレオ。今日はおうちに来いって、誘ってくれないの?」
そうして、伝えたい。
──長い間待たせてごめんなさい。ようやく、あなたのお嫁さんになる決心がついたの。
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