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27-2 「どうやら本気で死にたいらしい」
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「っリンディ行って! あなただけでも……!」
「させるわけねぇだろうがぁ!」
「ぅぐっ」
掴んだままの髪を引かれ、メロディナはをしたたかにその場に身体を打ちつけた。
そしてメロディナの言葉を守ろうとしたリンディも、扉に手を伸ばす間もなく襟首を掴まれてしまう。
「放せ!」
「クソガキが! 優しくしてりゃぁつけあがりやがって……! 自分の立場ってもんをわからせてやんよ!」
「やめて、まだ子供よ!」
「ならお望み通りお前からにしてやろうか?! チッ! どうやって解いたんだガキが! 余計な手間増やしやがって!」
ゴン! と重く鈍い音を耳にして、メロディナの瞳からは幾筋もの涙が零れていく。メロディナの大切で可愛い弟が、目の前で殴られてしまったのだ。
「いやぁリンディ! お願いやめて……! もう……っ、もう反抗なんてしないわ。だからその子を放して! 私ならどうなってもかまわないから……」
「っは、美しい兄弟愛だなぁ。けどそれを聞いてやる義理なんてねぇんだわ。おめぇはそこで無力な自分を呪いながら見とけ。ガキが終わったらたっぷり相手してやるからよ」
「ね……さまに、さわるな……」
「はぁあ?」
男はさも愉快そうに笑い、もう一度拳を振り上げる。
「やめてぇ!!!」
涙で目の前が霞む。メロディナだって本当は見たくない。けれども大切な弟を放ってはおけない。
無力な少年、ましてや血の繋がった愛しい弟が暴行される姿に、どうして正気でいられようか。
悲鳴のような叫び声が止まらない。喉からは血の味がして、熱くて焼けるように痛む。涙はとめどなく溢れ、頭は割れそうに痛い。
「やめて……」
打ち付けて痛むボロボロの身体を叱責し、少しでも男の注意が逸れるようにと体当たりをする。
だがそれも軽くあしらわれ、肩を蹴られてしまう。
「おめぇもあとで構ってやるから、そこで大人しくしとけ」
「いや……いやよ……たすけて、おねがい…………」
ふと、目の前が漆黒に染まる。
閉めきられた部屋の中で感じるはずのない風を頬に浴びた瞬間に、大きな呻き声を耳にした。
視界の隅には、先ほどまでリンディに掴みかかっていた男が倒れた姿があって。
「あ……あぁ……うそ……」
「モモ、遅くなってすまない。怖い思いをさせたな」
振り向いたクレオナルドの顔を見て、安堵感からまた涙が溢れてしまう。彼は男から救い出したリンディを片手に抱いていた。
遅れてバタバタと部屋に入ってきた二人の騎士が、クレオナルドからリンディを受け取り、メロディナも保護してくれる。ようやく腕の拘束も解かれて、メロディナはすぐに大切な弟を力いっぱい抱きしめた。
◆
「おい、起きろ」
地を這うような低い声でそう言って、踏みつけていた図体ばかりでかい男の腹を蹴る。
メロディナが連れて行かれたと思しき小屋を見つけ、争うような声が聞こえた部屋の扉を急いで開けたときには、心臓が止まりそうになってしまった。
目に入ったのは懇願し泣き崩れるメロディナの姿。そして彼女の大事な弟を掴み、今にも殴りかかろうとする男の姿だ。
そんなありえない光景にカッとなり、クレオナルドは素早くリンディを取り上げ、男の顎下へ重い蹴りを放つ。
もちろんメロディナに汚いものは見せられない。目に入らぬよう、彼女を背に隠してだ。
そのまま震える彼女を抱きしめ傍についていてやりたかったのだが、その前にやるべきことがある。
小屋の前に停められていたコーラル家の馬車の安全を確かめさせ、そこへリンディと共にメロディナを乗せるよう指示をして、今に至る。
「はっ……! あ、あぅ……っ!」
ごぽっと汚らしい血を吐いて、男の目が覚めた。
途端に泣きながら、のたうち回っている。クレオナルドの蹴りで顎が砕けたのだろうが、かまってやる筋合いはない。
「貴様。メロディナをどうするつもりだった」
「ひっ……! は、ひは……!」
ひたり、ゆっくりと鞘から抜いた剣で男の頬を撫でた。
男はガタガタと身体を震わせている。どうやら命乞いをしているようなその姿に、クレオナルドからは乾いた笑いが漏れた。
「ふ……ははは」
「ひっ」
「どうやら本気で死にたいらしい」
あれだけメロディナを散々に追い詰めておいて、いざ立場が逆転すると命乞いとは。全く滑稽でならない。
瞳孔の開ききったクレオナルドに見下され、男は泡を食っている。
「メロディナの白く美しい手首が縄で擦れ、血が滲んでいた……あちこちに傷ができて、可哀想に涙で目が腫れてしまって」
「ひぃ……っ!」
「そんなメロディナの訴えを無視した貴様に、何故俺が手心を加えなければならない?」
「カハッ!」
斬る価値もない。クレオナルドは男の顔を踏みつけると、喉にかかる踵に、ゆっくりと体重を乗せていった。
「ぐぇ……」
聞きぐるしい潰れた蛙のように声を出し、男はクレオナルドのブーツを力なく叩き、引っ掻くような仕草を見せた。
もう少しで落ちるだろう。クレオナルドは冷めた目でそれを見て、更に体重を加えていく。
「わーわーわー! 隊長ストップストップ! ほんとに死んじゃうから! お気持ちはわかりますがね、コイツは証人でもあるんすから連行しなきゃ!」
「証人ならそっちにもいるだろう」
「ひとりよりふたりの方がいいの! あ、主犯も捕まえたみたいなんで、もうここはいいっすよ。姫さんのところへ……って行くの早いんやて」
早く顔を見たい。
クレオナルドはすぐに部屋から飛び出して、彼女が乗る馬車へと走った。
「させるわけねぇだろうがぁ!」
「ぅぐっ」
掴んだままの髪を引かれ、メロディナはをしたたかにその場に身体を打ちつけた。
そしてメロディナの言葉を守ろうとしたリンディも、扉に手を伸ばす間もなく襟首を掴まれてしまう。
「放せ!」
「クソガキが! 優しくしてりゃぁつけあがりやがって……! 自分の立場ってもんをわからせてやんよ!」
「やめて、まだ子供よ!」
「ならお望み通りお前からにしてやろうか?! チッ! どうやって解いたんだガキが! 余計な手間増やしやがって!」
ゴン! と重く鈍い音を耳にして、メロディナの瞳からは幾筋もの涙が零れていく。メロディナの大切で可愛い弟が、目の前で殴られてしまったのだ。
「いやぁリンディ! お願いやめて……! もう……っ、もう反抗なんてしないわ。だからその子を放して! 私ならどうなってもかまわないから……」
「っは、美しい兄弟愛だなぁ。けどそれを聞いてやる義理なんてねぇんだわ。おめぇはそこで無力な自分を呪いながら見とけ。ガキが終わったらたっぷり相手してやるからよ」
「ね……さまに、さわるな……」
「はぁあ?」
男はさも愉快そうに笑い、もう一度拳を振り上げる。
「やめてぇ!!!」
涙で目の前が霞む。メロディナだって本当は見たくない。けれども大切な弟を放ってはおけない。
無力な少年、ましてや血の繋がった愛しい弟が暴行される姿に、どうして正気でいられようか。
悲鳴のような叫び声が止まらない。喉からは血の味がして、熱くて焼けるように痛む。涙はとめどなく溢れ、頭は割れそうに痛い。
「やめて……」
打ち付けて痛むボロボロの身体を叱責し、少しでも男の注意が逸れるようにと体当たりをする。
だがそれも軽くあしらわれ、肩を蹴られてしまう。
「おめぇもあとで構ってやるから、そこで大人しくしとけ」
「いや……いやよ……たすけて、おねがい…………」
ふと、目の前が漆黒に染まる。
閉めきられた部屋の中で感じるはずのない風を頬に浴びた瞬間に、大きな呻き声を耳にした。
視界の隅には、先ほどまでリンディに掴みかかっていた男が倒れた姿があって。
「あ……あぁ……うそ……」
「モモ、遅くなってすまない。怖い思いをさせたな」
振り向いたクレオナルドの顔を見て、安堵感からまた涙が溢れてしまう。彼は男から救い出したリンディを片手に抱いていた。
遅れてバタバタと部屋に入ってきた二人の騎士が、クレオナルドからリンディを受け取り、メロディナも保護してくれる。ようやく腕の拘束も解かれて、メロディナはすぐに大切な弟を力いっぱい抱きしめた。
◆
「おい、起きろ」
地を這うような低い声でそう言って、踏みつけていた図体ばかりでかい男の腹を蹴る。
メロディナが連れて行かれたと思しき小屋を見つけ、争うような声が聞こえた部屋の扉を急いで開けたときには、心臓が止まりそうになってしまった。
目に入ったのは懇願し泣き崩れるメロディナの姿。そして彼女の大事な弟を掴み、今にも殴りかかろうとする男の姿だ。
そんなありえない光景にカッとなり、クレオナルドは素早くリンディを取り上げ、男の顎下へ重い蹴りを放つ。
もちろんメロディナに汚いものは見せられない。目に入らぬよう、彼女を背に隠してだ。
そのまま震える彼女を抱きしめ傍についていてやりたかったのだが、その前にやるべきことがある。
小屋の前に停められていたコーラル家の馬車の安全を確かめさせ、そこへリンディと共にメロディナを乗せるよう指示をして、今に至る。
「はっ……! あ、あぅ……っ!」
ごぽっと汚らしい血を吐いて、男の目が覚めた。
途端に泣きながら、のたうち回っている。クレオナルドの蹴りで顎が砕けたのだろうが、かまってやる筋合いはない。
「貴様。メロディナをどうするつもりだった」
「ひっ……! は、ひは……!」
ひたり、ゆっくりと鞘から抜いた剣で男の頬を撫でた。
男はガタガタと身体を震わせている。どうやら命乞いをしているようなその姿に、クレオナルドからは乾いた笑いが漏れた。
「ふ……ははは」
「ひっ」
「どうやら本気で死にたいらしい」
あれだけメロディナを散々に追い詰めておいて、いざ立場が逆転すると命乞いとは。全く滑稽でならない。
瞳孔の開ききったクレオナルドに見下され、男は泡を食っている。
「メロディナの白く美しい手首が縄で擦れ、血が滲んでいた……あちこちに傷ができて、可哀想に涙で目が腫れてしまって」
「ひぃ……っ!」
「そんなメロディナの訴えを無視した貴様に、何故俺が手心を加えなければならない?」
「カハッ!」
斬る価値もない。クレオナルドは男の顔を踏みつけると、喉にかかる踵に、ゆっくりと体重を乗せていった。
「ぐぇ……」
聞きぐるしい潰れた蛙のように声を出し、男はクレオナルドのブーツを力なく叩き、引っ掻くような仕草を見せた。
もう少しで落ちるだろう。クレオナルドは冷めた目でそれを見て、更に体重を加えていく。
「わーわーわー! 隊長ストップストップ! ほんとに死んじゃうから! お気持ちはわかりますがね、コイツは証人でもあるんすから連行しなきゃ!」
「証人ならそっちにもいるだろう」
「ひとりよりふたりの方がいいの! あ、主犯も捕まえたみたいなんで、もうここはいいっすよ。姫さんのところへ……って行くの早いんやて」
早く顔を見たい。
クレオナルドはすぐに部屋から飛び出して、彼女が乗る馬車へと走った。
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