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25 誘拐

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「姉さま、身体が動かないようにつかまっててください!」
「リンディ……! 一体なにが……っいえ、大丈夫よ、あなただけは、姉さまが必ず守るわ」

 大事な弟だ。状況が上手くのみこめないが、この子だけは傷つけさせはしないと、メロディナは恐ろしさにこみあげてくる涙をぐっと堪えた。

「おそらく……誘拐ではないかと。なにが目的かはわかりません。身代金でしょうか。白昼堂々僕たちを襲うなんて、命知らずもいいところですね」
「誘拐……」
「ええ、今思えば、御者の姿が行きと違っていました。店に入っている間に馬車を奪われたのでしょう。うちのものになりすましておりましたし、これはきっと計画されていた犯行だと思います」

 どくん、と嫌な記憶が脳裏に蘇る。
 真っ暗な馬車の荷台、絶望、そして、悪魔のような男たちの声……。
 呼吸が浅くなり、意識が遠のきかけたけれど、今のメロディナはひとりではない。守るべき弟がいるのだ。
 必死に胸を押さえ、ぐらぐらする頭で考える。まずは、落ち着かなければ。

「っは……、どうにかあなただけでも逃げないと。扉に鍵はかかっていないし、飛び降りれないかしら」
「そんな、このスピードでは危険です!」

 物語などではよくあるシーンだが、確かに現実的ではなさそうだ。鍛え抜かれた成人男性ならまだしも、まだ幼いリンディや、深窓の令嬢であるメロディナが全速力で走る馬車から飛び降りるなんて、怪我で済めばまだマシだ。

「大丈夫です姉さま。今日の護衛は頼りなかったけれど、さすがにすぐ父さまへ連絡がいくはずです。このまま、なんとか時間を稼いで……姉さまと僕が離されてしまわないようにだけ気を付けましょう」
「ええ、そうね。相手の目的も人数もわからないし、大人しくしていましょう」

 メロディナは自分にもそう言い聞かせ、リンディの小さな手を握りしめた。
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