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24 初めてのお買い物

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 姉との外出は初めてだと嬉しそうにはしゃぐリンディと、それを優しく見守るメロディナを乗せ、馬車はのんびりと進む。

「ベリルちゃんへのプレゼントは、なににするか決めているの?」
「ええと、ちい姉さまはよく髪をひとつにまとめているので、飾りのついたリボンはどうかと思っているのですが……」
「まぁ」

 メロディナはピンと背を伸ばし、強いまなざしで前を見据えるベリルの姿を思い描く。
 メロディナたち姉妹の見た目は対照的だ。
 金髪翠眼という色彩こそ同じだが、父親譲りのたれ目に、ふわふわとした髪質の優しげなメロディナとは違い、母親似のベリルは意志の強そうな瞳が印象的な、圧倒的な美女だ。
 剣の才能があり、まだ見習いとはいえ女騎士として活躍する姿はメロディナの目から見ても眩しく、自慢の妹である。

「それは素敵だわ。ベリルちゃんは癖のない綺麗な髪をしているものね。いつも高い位置で結い上げているから、きっと喜ぶと思うわ」

 そう微笑むと、リンディも満面の笑みで弾んだ声を出す。

「ほんとうですか! では姉さまのそのブローチとお揃いになるような、パールのついた飾りをオーダーしましょう」

 嬉しそうにあれこれと考える姿は、まるで婚約者や恋人にプレゼントを用意する若者のようだと、メロディナはクスリと笑ってしまう。
 そうしてふと、あの黒蝶真珠を想う。クレオナルドが贈ってくれた、大切なイヤリング。
 だけど今は見るのも辛くて、ベッド横のチェストに大事に仕舞ってしまった。
 あの艶やかな黒に深い緑がゆらめく美しい宝石を、なんの憂いもなく、もう一度手に取れる日が来るのだろうか。

「姉さまは、ちい姉さまへのプレゼントは用意したのですか?」
「え? ええ、刺繍したハンカチと、乗馬用のブーツにしたわ。編み上げでシルエットが美しいの」
「わぁ! 姉さまの刺繍はとってもおきれいですから、いいなぁ。僕も前にいただいたハンカチ、大事に使ってます」

 ほら、とリンディが得意げにポケットから出してきたのは、誕生日に贈ったハンカチだった。この年頃の子が喜びそうだと、リンディの愛読書「竜と騎士の冒険譚」に出てくる挿絵の竜をモチーフに刺したもの。
 繊細な鱗を表現すべく、頭をひねり作製した力作だ。

「あら、使ってくれているのね、嬉しいわ。帰ったら、また一緒にあの本を読みましょう」
「はい! あ、姉さま、そろそろ着きそうです。石畳ですけど、まだ少し濡れているかもしれないので降りるときは気をつけてくださいね」
「ええ、ありがとうリンディ」

 程なくして馬車が止まる。
 先に降りたリンディが手を差し出してくれる。きっと、仲睦まじい両親の姿を手本にしているのだろう。
 リンディよりも当然背も高く、大人であるメロディナからすると少々危なっかしくもあるのだが、それよりも微笑ましさが勝ってしまう。隣でどうするべきか逡巡している護衛を制し、リンディの手を借りて馬車から降りると、一同がホッと胸をなでおろしたように見えた。

 リンディと手をつなぎ、入ったのは王都の有名な宝飾店だった。
 コーラル家でも贔屓にしているこの店の品は、度々オーナーを屋敷に呼び、直接購入したりもしている。もちろんメロディナも同席し選んだことがある。
 だが実店舗は当然初めてで、数多くの物珍しい品を前に、はしたなくもつい色々と眺めてしまう。
 そんな姉をよそに、リンディの振る舞いは堂々としたもので、メロディナたちの入店に恭しく頭を下る従業員に話しかけていた。
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