上 下
41 / 76

17-2 フランツという男

しおりを挟む
「…………そのイヤリングは、ブルドア卿からの贈り物ですか?」
「えっ?」

 先に口を開いたのはフランツだった。
 メロディナは無意識に耳に触れる。指先に感じるのは、デビュタントのあの日にもらった、黒蝶真珠。

「先日もつけていらっしゃった。可憐なあなたに、よくお似合いです」
「あ、ありがとうございます」

 頬が熱いのは、直接的な褒め言葉だったからか。それとも、揺れる馬車の中でつけてくれた、クレオナルドの硬い指先を思い出したからだろうか。

「あの日、僕が言ったことを覚えておいでですか?」
「あの日?」

 フランツと会ったのは二回。デビュタントの日と、夜会の日だ。メロディナはこてん、と首をかしげ、彼を見る。

「あなたを口説きたいと言いました、メロディナ嬢。あの日、僕がパメラ嬢と飲み物を取りに行っている間に、あなたは卿と出て行ってしまった。ふたりが寄り添う姿を見て、柄にもなく激しく嫉妬をしてしまったのです」

 フランツは立ち上がりメロディナの前に恭しく跪くと、彼女の手を取り、優雅に微笑む。

 王子様みたいだな、と思った。
 女の子は皆、彼のような貴公子に跪かれてしまえば、きっと夢のようだと舞い上がるのだろう。

「卿とまではいきませんが、僕だって次期侯爵です。あなたに不自由はさせませんし、コーラル伯爵の信を得ている僕なら、あなたの伴侶として不足はないはずです」
「そんな、不足だなんて。私にはもったいないお話です。私は、だって」

 普通の令嬢とは違う。

 喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。
 一時期に良くなったと思っていた体調も、また昔に戻ってしまっている。

 それに──

「今すぐでなくてもかまいませんし、僕を愛してくれとも言いません。ただ、僕はあなたが欲しい」

 彼の言葉を、どこか他人事のように聞いていた。
 ふわりと優しそうに微笑むフランツは、クレオナルドとは随分と違う。
 纏う色も声も、手のぬくもりも。メロディナをみつめる、そのまなざしすらも。

「申し訳ありませんが、私は」
「いえ、それ以上は言わないでください。もしあなたのお気持ちに変化がありましたら、いつでもご連絡を」

 握った指先にキスを落とすふりをして、フランツは立ち上がる。
 見送ろうと腰を上げるメロディナを制し、上品に微笑んだ。

「こちらで結構です。それではメロディナ嬢、良い一日をお過ごしください」
「……ありがとうございます。ギューロ侯爵令息様も、良い一日を」

 部屋から出て行くフランツに、メロディナは完璧な淑女の礼で応えたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...