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17 モモの想い
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スタンリー伯爵家での事件は、軍部の総司令官であるメロディナの父、コーラル伯爵が手を回し、第二騎士団が以前から調査を進めていたのだという。
メロディナは内緒でパメラと共に夜会に出席したつもりであったが、クレオナルドの読み通り、メロディナのおままごとのような計画は、当然全てばれていたのだ。
元々かの家にはきな臭いところがあったらしく、父は渡りに船とばかりに徹底的に調べ上げ、何日も前から使用人として軍部のものを潜入させていた。
すると驚くべきことに、国で固く禁止されているはずの人身売買や違法薬物などに関わる証拠品が多数発見されたのだ。
先の夜会でもパーティーを隠れ蓑に複数の貴族子女が薬物の使用、売買を行っており、その場で現行犯逮捕。そしてそれに関わる者たちも一斉検挙された。
当然、スタンリー家の者は重要参考人として皆捕縛。伯爵家の取り潰しは避けられない。
そんな中に愛娘を放り込むのだ。父はメロディナが被害にあわないよう、参加者の中に自らの手の者を紛れ込ませるという徹底ぶりで、その人物と使用人ら多数の証言から、メロディナの身の潔白は証明されている。故に取り調べも特になく、この計画自体が総司令官の一声で行われたため、メロディナに疑いの目が向けられることは無かったのである。
その話を聞かされて、メロディナは大変に恥じた。
結局皆に守られるばかりで、自分ではなにひとつできることは無いのだと、己の小ささを再確認させられたのだった。
そして今日、夜会から一週間ほど経ったある日のこと。
コーラル伯爵邸の応接室で、メロディナの目の前には、優雅にソファーへ腰掛ける、茶髪の紳士の姿が。
「体調はいかがですか? メロディナ嬢。あの日、あなたを危険な目に合わせてしまったことを謝罪したく思いまして」
そう言って眉を下げるのは、愛嬌のあるそばかすが印象的で優しそうな彼、ギューロ侯爵家の嫡男、フランツだった。
「そんな、謝罪だなんて必要ありません。すべて愚かだった私の行動が招いたことです。むしろギューロ侯爵令息様とパメラさんが私をあの部屋から連れ出してくださって、本当に感謝しておりますの」
メロディナが微笑むと、フランツは複雑そうな顔を見せた。
「……いえ、僕がもっと早く着いていれば、そもそもあの部屋に連れて行かれることもなかったのです。コーラル伯爵にも、こってり絞られました。あぁ、どうぞ僕のことは気軽にフランツと」
「まぁ」
そう、メロディナの父、コーラル伯爵の息がかかった参加者とはフランツだった。
ギューロ侯爵家は貴族派であり、王族派筆頭のブルドア公爵家やコーラル伯爵家と対立派閥であることは有名だ。だが、それは表向きの話らしい。
「現侯爵である僕の父は元々伯爵家の出で、ギューロ家の入婿なのです。両親の結婚前にある事件が起こり、父の生家諸共侯爵家が没落一歩手前に陥りました。ですがそれを救ってくださったのがコーラル伯爵だったとお聞きしています」
なんでもフランツの両親は王族派の貴人の逆鱗に触れ、彼らの領地内の物流が乱れてしまう大変な事態になりかけたそうだ。
しかしコーラル伯爵がフランツの父、ギューロ現侯爵を見出し、表向きは貴族派のまま彼を王族派へと引きずり込み、事を収めたのだとか。
そのため、フランツは幼い頃からメロディナの父と秘密裏に交流があったのだという。フランツに言わせれば、師弟のような関係らしい。
「それなのに、あなたの護衛という最も重大な任務を遂行出来なかったわけですから、あの方のお怒りは至極当然なのです」
スタンリー伯爵家へ向かう途中、馬車の不調により大幅に遅れが出てしまったのだとフランツは肩を落とした。
「本当は次の日にでもこちらにお伺いするつもりでしたが、あの方の許可が下りなくて」
「それは……父が失礼いたしました」
「いいえ。あれだけおぞましい経験をしたのです。あなたの心の回復のためにも、時間が必要だったことでしょう。あなたを護れなかったという僕の勝手な罪悪感を、謝罪という形でまだ傷の癒えていないあなたに押し付けてしまうところでした」
メロディナは曖昧に頷いた。確かに恐ろしくもあったし、今思い出すだけでも、ぞわりとした不快感が身体に纏わりついてくる。
しん、と沈黙が流れ、手持ち無沙汰にカップへ口をつけた。
メロディナは内緒でパメラと共に夜会に出席したつもりであったが、クレオナルドの読み通り、メロディナのおままごとのような計画は、当然全てばれていたのだ。
元々かの家にはきな臭いところがあったらしく、父は渡りに船とばかりに徹底的に調べ上げ、何日も前から使用人として軍部のものを潜入させていた。
すると驚くべきことに、国で固く禁止されているはずの人身売買や違法薬物などに関わる証拠品が多数発見されたのだ。
先の夜会でもパーティーを隠れ蓑に複数の貴族子女が薬物の使用、売買を行っており、その場で現行犯逮捕。そしてそれに関わる者たちも一斉検挙された。
当然、スタンリー家の者は重要参考人として皆捕縛。伯爵家の取り潰しは避けられない。
そんな中に愛娘を放り込むのだ。父はメロディナが被害にあわないよう、参加者の中に自らの手の者を紛れ込ませるという徹底ぶりで、その人物と使用人ら多数の証言から、メロディナの身の潔白は証明されている。故に取り調べも特になく、この計画自体が総司令官の一声で行われたため、メロディナに疑いの目が向けられることは無かったのである。
その話を聞かされて、メロディナは大変に恥じた。
結局皆に守られるばかりで、自分ではなにひとつできることは無いのだと、己の小ささを再確認させられたのだった。
そして今日、夜会から一週間ほど経ったある日のこと。
コーラル伯爵邸の応接室で、メロディナの目の前には、優雅にソファーへ腰掛ける、茶髪の紳士の姿が。
「体調はいかがですか? メロディナ嬢。あの日、あなたを危険な目に合わせてしまったことを謝罪したく思いまして」
そう言って眉を下げるのは、愛嬌のあるそばかすが印象的で優しそうな彼、ギューロ侯爵家の嫡男、フランツだった。
「そんな、謝罪だなんて必要ありません。すべて愚かだった私の行動が招いたことです。むしろギューロ侯爵令息様とパメラさんが私をあの部屋から連れ出してくださって、本当に感謝しておりますの」
メロディナが微笑むと、フランツは複雑そうな顔を見せた。
「……いえ、僕がもっと早く着いていれば、そもそもあの部屋に連れて行かれることもなかったのです。コーラル伯爵にも、こってり絞られました。あぁ、どうぞ僕のことは気軽にフランツと」
「まぁ」
そう、メロディナの父、コーラル伯爵の息がかかった参加者とはフランツだった。
ギューロ侯爵家は貴族派であり、王族派筆頭のブルドア公爵家やコーラル伯爵家と対立派閥であることは有名だ。だが、それは表向きの話らしい。
「現侯爵である僕の父は元々伯爵家の出で、ギューロ家の入婿なのです。両親の結婚前にある事件が起こり、父の生家諸共侯爵家が没落一歩手前に陥りました。ですがそれを救ってくださったのがコーラル伯爵だったとお聞きしています」
なんでもフランツの両親は王族派の貴人の逆鱗に触れ、彼らの領地内の物流が乱れてしまう大変な事態になりかけたそうだ。
しかしコーラル伯爵がフランツの父、ギューロ現侯爵を見出し、表向きは貴族派のまま彼を王族派へと引きずり込み、事を収めたのだとか。
そのため、フランツは幼い頃からメロディナの父と秘密裏に交流があったのだという。フランツに言わせれば、師弟のような関係らしい。
「それなのに、あなたの護衛という最も重大な任務を遂行出来なかったわけですから、あの方のお怒りは至極当然なのです」
スタンリー伯爵家へ向かう途中、馬車の不調により大幅に遅れが出てしまったのだとフランツは肩を落とした。
「本当は次の日にでもこちらにお伺いするつもりでしたが、あの方の許可が下りなくて」
「それは……父が失礼いたしました」
「いいえ。あれだけおぞましい経験をしたのです。あなたの心の回復のためにも、時間が必要だったことでしょう。あなたを護れなかったという僕の勝手な罪悪感を、謝罪という形でまだ傷の癒えていないあなたに押し付けてしまうところでした」
メロディナは曖昧に頷いた。確かに恐ろしくもあったし、今思い出すだけでも、ぞわりとした不快感が身体に纏わりついてくる。
しん、と沈黙が流れ、手持ち無沙汰にカップへ口をつけた。
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