37 / 76
16 帰らないで
しおりを挟む
「モモ!」
騎士たちから連絡があったのだろう。屋敷に戻ると、門の前で夫人がメロディナの到着を待っていた。
彼女を心配そうに見つめるその顔色は、今にも倒れてしまいそうなほど、青い。
「お母様、ごめんなさい、私……」
「……あなたが無事なら、それでいいのよ」
伯爵は今回の違法薬物の件で呼ばれたらしく、姿が見えない。騎士たちを取り締まる立場なのだから当然だ。
そのことに、メロディナは心なしか安堵しているようだった。まだ心の整理がついていない状態で、激怒しているであろう父親に会うのは勇気がいるのかもしれない。それもただ、問題を先送りにしているだけではあるが。
「モモ、お父様は今日帰ってこられるかわからないし、あなたも疲れたでしょう? もう休みなさい」
「夫人の言うとおりだ。もう家だから何も心配しなくていい。ゆっくり休め」
ではな、とロイロの鐙に足をかけるクレオナルドに、メロディナは慌てたように声をかけてきた。
「え……まって、レオ帰っちゃうの?」
巻かれたマントの合わせを握り締めながら駆け寄ってくるメロディナに、クレオナルドの動きも止まる。
「そりゃ……伯爵がいないのに夜遅くに上がり込むわけには」
「レオならいいよねお母様?……まだ怖いの。お父様もいないのに、レオも帰っちゃったら……」
──ぐっ……可愛すぎるだろうが……!
散々泣き腫らした目を更に潤ませて縋るメロディナに、不謹慎にもクレオナルドの胸は喜びではち切れそうになってしまう。
そしてそんなクレオナルドに、メロディナは追い討ちをかけるのだ。
「ねぇ、眠るまで、一緒にいてくれる?」
その言葉に、クレオナルドは喉を鳴らした。
深い意味はないのだろう。メロディナの言うとおり、彼女が一番頼りにしているコーラル伯爵が不在だから、幼馴染みであるクレオナルドに声をかけただけなのだ。
落ち着け、と自身に言い聞かせ、今にも零れてしまいそうなメロディナの涙をそっと拭う。すっかり化粧が落ちてしまっていたけれど、それでも彼女の可憐さは変わらない。
最近調子がいいと言ってはいたが、心的外傷のせいであまり眠れないのだろう。
愛しい人に頼られるのは嬉しいし、我儘なんて滅多に言わないメロディナの望みは、なんでも叶えてやりたい。
なにより、クレオナルド自身が彼女と一緒にいることを望んでいる。
そう思い夫人に視線を向けると、彼女は苦笑しながら執事に指示を出してくれた。
「モモがお化粧を落としている間、クレオナルド様のお相手はわたくしがいたしましょう。応接室にお通しして。ハーブティーをお願いね」
「かしこまりました」
「あなたも早く着替えていらっしゃい。よく眠れるように、あとで一緒にお茶を飲みましょうね」
夫人が優しいまなざしを向けると、メロディナは安心したように頷いて、侍女を伴っていく。
そうしてクレオナルドが通されたのは、通い慣れたコーラル邸の応接室。
促されるままソファーに座るやいなや、夫人はクレオナルドに向かい、頭を下げた。
騎士たちから連絡があったのだろう。屋敷に戻ると、門の前で夫人がメロディナの到着を待っていた。
彼女を心配そうに見つめるその顔色は、今にも倒れてしまいそうなほど、青い。
「お母様、ごめんなさい、私……」
「……あなたが無事なら、それでいいのよ」
伯爵は今回の違法薬物の件で呼ばれたらしく、姿が見えない。騎士たちを取り締まる立場なのだから当然だ。
そのことに、メロディナは心なしか安堵しているようだった。まだ心の整理がついていない状態で、激怒しているであろう父親に会うのは勇気がいるのかもしれない。それもただ、問題を先送りにしているだけではあるが。
「モモ、お父様は今日帰ってこられるかわからないし、あなたも疲れたでしょう? もう休みなさい」
「夫人の言うとおりだ。もう家だから何も心配しなくていい。ゆっくり休め」
ではな、とロイロの鐙に足をかけるクレオナルドに、メロディナは慌てたように声をかけてきた。
「え……まって、レオ帰っちゃうの?」
巻かれたマントの合わせを握り締めながら駆け寄ってくるメロディナに、クレオナルドの動きも止まる。
「そりゃ……伯爵がいないのに夜遅くに上がり込むわけには」
「レオならいいよねお母様?……まだ怖いの。お父様もいないのに、レオも帰っちゃったら……」
──ぐっ……可愛すぎるだろうが……!
散々泣き腫らした目を更に潤ませて縋るメロディナに、不謹慎にもクレオナルドの胸は喜びではち切れそうになってしまう。
そしてそんなクレオナルドに、メロディナは追い討ちをかけるのだ。
「ねぇ、眠るまで、一緒にいてくれる?」
その言葉に、クレオナルドは喉を鳴らした。
深い意味はないのだろう。メロディナの言うとおり、彼女が一番頼りにしているコーラル伯爵が不在だから、幼馴染みであるクレオナルドに声をかけただけなのだ。
落ち着け、と自身に言い聞かせ、今にも零れてしまいそうなメロディナの涙をそっと拭う。すっかり化粧が落ちてしまっていたけれど、それでも彼女の可憐さは変わらない。
最近調子がいいと言ってはいたが、心的外傷のせいであまり眠れないのだろう。
愛しい人に頼られるのは嬉しいし、我儘なんて滅多に言わないメロディナの望みは、なんでも叶えてやりたい。
なにより、クレオナルド自身が彼女と一緒にいることを望んでいる。
そう思い夫人に視線を向けると、彼女は苦笑しながら執事に指示を出してくれた。
「モモがお化粧を落としている間、クレオナルド様のお相手はわたくしがいたしましょう。応接室にお通しして。ハーブティーをお願いね」
「かしこまりました」
「あなたも早く着替えていらっしゃい。よく眠れるように、あとで一緒にお茶を飲みましょうね」
夫人が優しいまなざしを向けると、メロディナは安心したように頷いて、侍女を伴っていく。
そうしてクレオナルドが通されたのは、通い慣れたコーラル邸の応接室。
促されるままソファーに座るやいなや、夫人はクレオナルドに向かい、頭を下げた。
2
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる