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13 夜会のおもてなし

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 パメラとの楽しいおしゃべりは時間を忘れさせてくれるもので、少しだけ馬車に緊張していたメロディナだったが、無事に移動することができた。
 ふたりは時間どおりに到着すると、スタンリー伯爵家の豪奢な玄関ホールに足を踏み入れる。
 そこには値打ちものらしい置物や絵画を見せつけるように、これでもかと並べられていた。そしてそれをこれまた豪華なシャンデリアが、目が痛くなりそうなほどギラギラと照らしだしていた。
 メロディナの生家、コーラル伯爵邸でも絵画などをいくつも飾っているが、それぞれの魅力が邪魔にならないよう、品よく置かれている。同じ伯爵家でもこうも違うものなのかと、メロディナは内心驚いていた。

 そんな中、眩しい照明にも負けじとたっぷりのフリルやレースのドレスで着飾った女性が出迎えてくれた。彼女がこの夜会の主催、マリエット・スタンリー伯爵令嬢なのだと、パメラは初対面であるメロディナにこっそりと耳打ちをした。
 マリエットは大きな瞳を強調するようぐるりとアイラインで囲み、顔色がわからなくなるほど白粉をはたいている。赤みがかった長い茶髪を派手に巻き、頭にも大きな髪飾りをつけていた。蠱惑的な厚いくちびるは紅く、にんまりとした弧を描いている。

「パメラ、そしてコーラル伯爵令嬢、スタンリー家の夜会へようこそ! よくいらしてくださいましたわね」
「マリエット様、本日はご招待いただきありがとうございます」
「ご招待くださりありがとう存じます、スタンリー伯爵令嬢様。コーラル伯爵家が長女、メロディナにございます。本日はよろしくお願いいたしますわ」

 そう言って腰を折る優雅で完璧なメロディナの挨拶に、マリエットはもとより、周りの者も瞬きすら忘れて見惚れてしまう。

「い、いやですわ。本日は気楽な集まりなのよ。そんなにかしこまらないでくださいまし。パメラがあなたを連れてくると聞いて、とっても嬉しかったの。私たち皆が、あなたと仲良くなりたいと思っていますのよ。本日は楽しんでいただけると嬉しいですわ」
「マリエット様は学院で、ひとつ先輩だったの。在学中はよくお茶会に呼んでくださって。卒業されてから一度もお会いしておりませんでしたが、お元気そうですね」

 パメラが間に入り、和やかに談笑する。マリエットの話は面白く興味をそそられたが、きつく香る彼女の香水だけは、どうしてだかあまり好きになれなかった。
 そうしているうちにどんどんと招待客が訪れ、マリエットはそちらにかかりきりになる。また後でと手を振って、執事に応接室へ案内されると、ようやくメロディナは一息をついた。
 しかしパメラと共にソファーに腰掛けると、先に来ていた参加者たちの視線を感じて気まずくなる。
 最低限の社交もしてこなかったメロディナだ。男女問わず不躾な好奇心に満ちた目を向けられて、その表情を曇らせた。
 先の舞踏会では何ともなく、堂々としていられたのにどうして──
 すっかりと心を預けていた人物が思い浮かびそうになって、慌ててかぶりを振った。
 夏の夜空を思わせる艶やかな黒髪も、甘くとろけそうな蜂蜜色の瞳も、突き放したのはメロディナだ。心細くなるなんて、間違っている。

「パメラさん、マリエット様って──」

 思い出の中の彼を追い払うように、メロディナは目の前の令嬢に微笑みを向けた。
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