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09-2 憧れの
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◇
「ようこそいらっしゃいましたわ! コーラル夫人にメロディナ様。本日は小規模なお茶会ですので、どうぞお気楽にお過ごしくださいませね」
メロディナの母の言った通り、オーマン伯爵夫人はとても気さくな方だった。自慢だという庭園で開かれた茶会は和やかで、皆と初対面のメロディナが疎外感を抱かないような話題を選んでくれるなど、とても配慮がいき届いていた。
何よりメロディナと同い年の娘、パメラを隣の席にしてくれていたのが嬉しかった。
「メロディナ様、もしよろしければお庭をご紹介したいのだけれど、いかがかしら?」
「まぁ! 嬉しいわ、かまいませんの?」
パメラにそう提案され、メロディナは母と夫人を窺う。二人は快く送り出してくれたので、パメラについて庭園を散策することにした。
夫人の趣味らしく、オーマン伯爵家の庭園は広く美しい。中でもパメラのお気に入りだと言う温室は見事で、珍しい花とその香りにメロディナも自然と顔が綻んだ。
「メロディナ様、今日は来てくださって本当にありがとうございます。一度お話したいと思っておりましたの! 皆に自慢できますわ」
「自慢って?」
何かしら、と首をかしげるメロディナの色香にあてられて、パメラはポッと頬を赤く染めている。
「いえっ、あの、とても美しくあられるのに、お見かけできない方だと。お身体が弱くいらっしゃるとお聞きしていますけれど、お加減はいかがです? 気分が悪くなったときは、いつでもおっしゃって」
「ありがとうございます。近頃はとても調子がいいの。私は学院にも通えていなかったから、知り合いを増やしたくて」
「それで来てくださったのね。私、デビュタントでメロディナ様をお見かけしておりましたのよ。ドレスが本当に素晴らしくお似合いで! それにブルドア卿とのダンス、とっても素敵でしたわぁ……」
ゆっくりと並んで歩く二人。しかしパメラは夜会のことを思い出したようで、立ち止まりうっとりと目を閉じた。
「ブルドア卿ととても仲がよろしいのですね。あの方は舞踏会に参加なさっても、誰とも踊らないことで有名ではありませんか。王家に次ぐ身分の貴公子が見初めるのはどなたなのかと大変注目されていたのですが、それがメロディナ様のようなお美しい方だったなんて。皆納得ですわ」
羨ましそうにキラキラとした瞳を向けるパメラに、メロディナは言葉が詰まってしまった。やっと心の隅に追いやれていたクレオナルドだったのに、また彼のことで頭がいっぱいになってしまう。
「レオ……クレオナオルド様とはただ家同士の関係で、そんな、見初めるだなんて」
「きっとそれだけではございませんわ! メロディナ様を見つめるあの優しげな眼差し……私だけでなく、皆本当に驚いておられましたもの」
「そうなの?」
「ええ! メロディナ様は第三騎士団の公開練習を見に行かれたことはございまして?」
「いえ……」
公開練習とは、第三騎士団の朝の鍛錬を誰でも見学出来る特別な日のことだ。
父の勇ましい姿を見に来る家族や、意中の騎士を応援しに来る令嬢など、逞しい騎士様が見れると人気の催しである。更に鍛錬後の一時間、希望者は第三騎士から剣術の指南も受けられ、子供たちや騎士を目指す若者達が沢山やってくるのだ。
そしてその日は午前中いっぱいの鍛錬となるので、その後の昼食にと気合いの入った差し入れで溢れるという。
「私、あまり外に出たことがなくて」
「まぁ、そうだったのですね、すみません事情も知らずに」
「いえ、あの。それで、その公開練習がどうかしたの?」
「そうでしたわ、ブルドア卿は隊長様でいらっしゃいますでしょう? 騎士様の中でもひと際目を引く方なのです。剣を振る姿はとても凛々しくいらっしゃって、部下たちに指示を出す様はさすが公爵家の後継者だと、ご令嬢たちは皆熱い視線を送っておりますのよ」
熱い視線、とメロディナは呟いた。
何とも形容しがたい気持ちが、メロディナの心を侵食していく。
「レ……クレオナルド様は、その、ご令嬢たちに人気があるの?」
「まぁ! それはもちろんですわ! 恐ろしく整ったお顔立ちはお父上譲りですが、ブルドア卿は総帥閣下ほど身体が大きくございませんし、男性に言い寄られていたご令嬢を助けてくださった、なんてお優しい一面もあると評判ですのよ。何より高貴な方ですもの。憧れない方はいないのではないかしら」
「そうなの……」
──レオが優しいのなんて、そんなの私が一番知ってるもん。
メロディナは無意識のうちに、スカートを握りしめていた。
にこにこと笑いながら話すパメラに対し、口には出せない感情が浮かぶ。それを笑顔の仮面で隠して、それとなく話題を変えた。
メロディナの母が言った通り、パメラは明るく素敵な女性だった。話題も豊富で面白く、メロディナの話もたくさん聞いてくれる。少しの時間一緒に過ごしただけで、メロディナはパメラが大好きになった。
──でも、パメラ様もレオに憧れているのかしら。
優しい一面、だなんて。一体彼の何を知っているというのだろう。クレオナルドは、メロディナにいつも優しい。疲れているだろうに、外に出れなくて寂しそうにしているメロディナに会いに来てくれるのは彼だけだ。
何も知らないのに、他の人がクレオナルドを知ったように言うのが面白くなかった。
──家族以外からレオの話を聞いたことがなかったから。だから変な気持ちになるのだわ。
また胸がざわついたけれど、メロディナはその感情を心の奥に押し込めるのに必死だった。
「ようこそいらっしゃいましたわ! コーラル夫人にメロディナ様。本日は小規模なお茶会ですので、どうぞお気楽にお過ごしくださいませね」
メロディナの母の言った通り、オーマン伯爵夫人はとても気さくな方だった。自慢だという庭園で開かれた茶会は和やかで、皆と初対面のメロディナが疎外感を抱かないような話題を選んでくれるなど、とても配慮がいき届いていた。
何よりメロディナと同い年の娘、パメラを隣の席にしてくれていたのが嬉しかった。
「メロディナ様、もしよろしければお庭をご紹介したいのだけれど、いかがかしら?」
「まぁ! 嬉しいわ、かまいませんの?」
パメラにそう提案され、メロディナは母と夫人を窺う。二人は快く送り出してくれたので、パメラについて庭園を散策することにした。
夫人の趣味らしく、オーマン伯爵家の庭園は広く美しい。中でもパメラのお気に入りだと言う温室は見事で、珍しい花とその香りにメロディナも自然と顔が綻んだ。
「メロディナ様、今日は来てくださって本当にありがとうございます。一度お話したいと思っておりましたの! 皆に自慢できますわ」
「自慢って?」
何かしら、と首をかしげるメロディナの色香にあてられて、パメラはポッと頬を赤く染めている。
「いえっ、あの、とても美しくあられるのに、お見かけできない方だと。お身体が弱くいらっしゃるとお聞きしていますけれど、お加減はいかがです? 気分が悪くなったときは、いつでもおっしゃって」
「ありがとうございます。近頃はとても調子がいいの。私は学院にも通えていなかったから、知り合いを増やしたくて」
「それで来てくださったのね。私、デビュタントでメロディナ様をお見かけしておりましたのよ。ドレスが本当に素晴らしくお似合いで! それにブルドア卿とのダンス、とっても素敵でしたわぁ……」
ゆっくりと並んで歩く二人。しかしパメラは夜会のことを思い出したようで、立ち止まりうっとりと目を閉じた。
「ブルドア卿ととても仲がよろしいのですね。あの方は舞踏会に参加なさっても、誰とも踊らないことで有名ではありませんか。王家に次ぐ身分の貴公子が見初めるのはどなたなのかと大変注目されていたのですが、それがメロディナ様のようなお美しい方だったなんて。皆納得ですわ」
羨ましそうにキラキラとした瞳を向けるパメラに、メロディナは言葉が詰まってしまった。やっと心の隅に追いやれていたクレオナルドだったのに、また彼のことで頭がいっぱいになってしまう。
「レオ……クレオナオルド様とはただ家同士の関係で、そんな、見初めるだなんて」
「きっとそれだけではございませんわ! メロディナ様を見つめるあの優しげな眼差し……私だけでなく、皆本当に驚いておられましたもの」
「そうなの?」
「ええ! メロディナ様は第三騎士団の公開練習を見に行かれたことはございまして?」
「いえ……」
公開練習とは、第三騎士団の朝の鍛錬を誰でも見学出来る特別な日のことだ。
父の勇ましい姿を見に来る家族や、意中の騎士を応援しに来る令嬢など、逞しい騎士様が見れると人気の催しである。更に鍛錬後の一時間、希望者は第三騎士から剣術の指南も受けられ、子供たちや騎士を目指す若者達が沢山やってくるのだ。
そしてその日は午前中いっぱいの鍛錬となるので、その後の昼食にと気合いの入った差し入れで溢れるという。
「私、あまり外に出たことがなくて」
「まぁ、そうだったのですね、すみません事情も知らずに」
「いえ、あの。それで、その公開練習がどうかしたの?」
「そうでしたわ、ブルドア卿は隊長様でいらっしゃいますでしょう? 騎士様の中でもひと際目を引く方なのです。剣を振る姿はとても凛々しくいらっしゃって、部下たちに指示を出す様はさすが公爵家の後継者だと、ご令嬢たちは皆熱い視線を送っておりますのよ」
熱い視線、とメロディナは呟いた。
何とも形容しがたい気持ちが、メロディナの心を侵食していく。
「レ……クレオナルド様は、その、ご令嬢たちに人気があるの?」
「まぁ! それはもちろんですわ! 恐ろしく整ったお顔立ちはお父上譲りですが、ブルドア卿は総帥閣下ほど身体が大きくございませんし、男性に言い寄られていたご令嬢を助けてくださった、なんてお優しい一面もあると評判ですのよ。何より高貴な方ですもの。憧れない方はいないのではないかしら」
「そうなの……」
──レオが優しいのなんて、そんなの私が一番知ってるもん。
メロディナは無意識のうちに、スカートを握りしめていた。
にこにこと笑いながら話すパメラに対し、口には出せない感情が浮かぶ。それを笑顔の仮面で隠して、それとなく話題を変えた。
メロディナの母が言った通り、パメラは明るく素敵な女性だった。話題も豊富で面白く、メロディナの話もたくさん聞いてくれる。少しの時間一緒に過ごしただけで、メロディナはパメラが大好きになった。
──でも、パメラ様もレオに憧れているのかしら。
優しい一面、だなんて。一体彼の何を知っているというのだろう。クレオナルドは、メロディナにいつも優しい。疲れているだろうに、外に出れなくて寂しそうにしているメロディナに会いに来てくれるのは彼だけだ。
何も知らないのに、他の人がクレオナルドを知ったように言うのが面白くなかった。
──家族以外からレオの話を聞いたことがなかったから。だから変な気持ちになるのだわ。
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