上 下
22 / 76

09 新しい出会い

しおりを挟む
 公爵家での一件以来、メロディナはクレオナルドを全力で避けている。

 クレオナルドはあれから何度も訪ねてきたが、体調不良を理由に会っていない。
 手紙もたくさん届いているけれど、返事は出していない。

「忙しいのに……バカね」

 ひとり呟いた言葉は、広い部屋に溶けてなくなる。
 窓際には可憐な花が所狭しと生けられていて、近づき花弁をそっと撫でた。

 クレオナルドが手紙と共に贈ってきたものだ。突き返してと執事に言うことも、捨てるよう侍女に指示することもできなかった。

「お花に罪はないものね……」

 あの時のことを思い出すと落ち着かなくて、胸のあたりがざわざわする。
 こんな気持ち知らない。自分が自分でなくなってしまうようで怖い。だから会いたくない。
 それがメロディナの答えだった。

 クレオナルドは大人になって変わってしまった。もともと背は高かったけれど、それに加えて身体に逞しい厚みもでたし、あまり話をしてくれなくなった。目を合わせようとしてもすぐに逸らされるし、かと思うと視線を感じることもあって。

「好きだって、言ってた。でも……」

 好きってなんだろう。
 メロディナは家族が好きだし、美味しいご飯もお菓子も好きだ。もちろんクレオナルドだって、メロディナの大好きで大切な友だち。けれどクレオナルドの言う”好き”は、そういうことではないらしい。
 お互い好きだと、大切だと思っている。その気持ちだけではだめなのだろうか。抱き合いくちびるを重ね合う。その行為に、一体何の意味があるのだろう。

「さっぱりわかんない」

 メロディナは指先をそっとくちびるに近づける。
 無意識に行うそれは、この数日で癖になってしまった。早く忘れてしまえと思うのに、そう思えば思うほど、クレオナルドの顔が頭から離れてくれない。胸が締め付けられて苦しい。こんな自分、嫌なのに。

 ただでさえ浅い眠りが更に質の悪いものになって。日中の行動もままならなくなってしまった。さすがになにかあったのかと両親に聞かれたけれど、告白をされて急にくちびるを奪われただなんて、世間知らずのメロディナだろうと口が裂けても言えない。
 誰かに相談したいけれど、妹のベリルは見習い騎士として忙しいし、クレオナルドをなぜか昔から敵視しているため言えない。

「私、レオがいないと、普通の会話すらする相手がいないのね」

 そのことに改めて気づき、自嘲めいた笑みが浮かぶ。
 しかしこれではいけない。クレオナルドにはもう頼れないし、それでなくても異性だ。
 メロディナは自分の世界を、ほんの少しだけでも広げてみたいと思った。





「あのねお母様。そろそろ私も、同年代の方たちとお話してみたいの」

 午後のティータイム。ゆったりとした時間が流れる伯爵家のサロンで、メロディナは母、コーラル伯爵夫人とお茶を楽しんでいた。

「でも最近眠れていないのでしょう? デビューしたからといって、急いで社交をする必要もないのよ。あなたのペースで進めていけばいいの」

 慈愛のこもる優しい眼差しに、ひりついていた心が温かくなる。メロディナは家族が大好きだ。普通の家ではお荷物でしかないであろう状態のメロディナを、慈しみここまで大切に育ててくれた。

「そうだけど、私、お友達ってレオしかいないでしょう? お母様とローザ様みたいに、ずっと仲良くできるようなお友達がいたらなって思って」
「そうねぇ……」

 メロディナの言葉に、母はどうしたものかと思案するようにカップを撫でている。

「レイウィン、いただいたお茶会の招待状を持ってきてくれるかしら。オーマン伯爵家から来ていたわよね」
「届いておりました。ただいまお持ちいたします」

 家令が出て行くのを横目で見ながら、メロディナは母に問いかける。

「オーマン伯爵家って、たしか……」
「ええ、わが家と同じ王族派の家門よ。パメラさんというお名前の、あなたと同い年のご令嬢がいらっしゃるの。笑顔の可愛らしい方よ。オーマン夫人は気さくでお話も面白いから、きっと過ごしやすいわ。母娘で参加すると言いましょうね」
「ありがとうお母様。とても楽しみだわ」

 そうして、メロディナは初めて正式なお茶会に参加することになった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。 そんな彼に見事に捕まる主人公。 そんなお話です。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

処理中です...