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06-2 「お手をどうぞ」
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◇
王城の前には、たくさんの馬車が行きかっている。大規模な夜会なので当然だ。
しかしそんな中、クレオナルドたちを乗せた馬車は優雅に進み、誰にも邪魔されることなく門の前で停止した。それもそのはず。最高位の貴族であるブルドア公爵家の馬車は、何人たりとも行く手を阻むことはできない。
「お手をどうぞ」
「ふふ、ありがとう」
馬車から先に降り、紳士らしく手を差し出したクレオナルドにエスコートされたメロディナは、先ほどとは打って変わって顔色が良い。クレオナルドがイヤリングを贈ったことから話が広がって、怖い思いをする暇がなかったようだ。
黒い石は魔除けの力が強いと言うととても喜んでいたし、健康的な姿になって安堵した。一生に一度のデビュタント。どうかクレオナルドの傍で楽しんでもらいたい。それが願いだ。
そんなクレオナルドの手を取り、メロディナが公爵家の馬車から舞い降りた瞬間、周りは一気にざわめき立つ。月の女神かと見紛う美女が姿を現したのだから、当然だ。
淡い月明かりの下で金の髪に銀のドレスを纏うメロディナは、彼女自身が輝いて見えるほど美しい。
ざわめきはどれもメロディナを称賛する声ばかりだった。やれ美しいだの、どこの誰だだの、中にはドレスのことも褒めそやす声があったりと、予想通りとても注目されている。
そんな状況を知ってか知らずか、メロディナはクレオナルドにこっそりと耳打ちした。
「ねぇ、正装姿のレオって珍しいの? みんなすごく見てるよ」
「おま……」
その”みんな”はメロディナに見惚れているのだと言いたかったが、やめた。メロディナの意識がクレオナルド以外に向くのが嫌だったからだ。狭量だと言われるだろうがしかたない。
「ま、そうだな。正装はこういったものより騎士のもののほうが多い。夜会は殆ど出ないから」
「え? そうなの? デビューしたら、みんなあちこちの夜会に出るようになるって聞いたけど」
誰に聞いたのか。
一般的には間違いではないが、出会いの場としての側面が大きい夜会に、メロディナを一途に想うクレオナルドが気軽に出向くはずがない。
「俺は、ほら、仕事もあるし。よっぽど外せない式典とかでないと出ない」
「そうなんだ。なら、誰かに招待されてもレオとは行けないんだね。エスコートは別のひとに」
「行く」
彼女の話を最後まで聞かず、食い気味にかぶせるクレオナルドである。
「え? でもお仕ご」
「お前が行くなら俺も行く。保護者代わりに。伯爵に言われてるし他に知り合いもいないだろう」
嘘である。
だが堂々と言うものだから、メロディナもそんなものかと深くは考えていないようだ。
「そうなのね。なら、今度はお揃いの服を誂えるのもいいよね? レオの服、黒ばっかりなんだもの。すごくよく似合ってるけど、他の色もきっと素敵よ」
「な……っ」
その言葉に、深い意味はない。けれども揃いの服だなんて恋人同士のようではないか。クレオナルドにとって、それは殺し文句以外のなにものでもない。
素で思わぬ反撃を食らい、クレオナルドは赤くなった顔を隠すため、大きな右手で顔を覆った。
王城の前には、たくさんの馬車が行きかっている。大規模な夜会なので当然だ。
しかしそんな中、クレオナルドたちを乗せた馬車は優雅に進み、誰にも邪魔されることなく門の前で停止した。それもそのはず。最高位の貴族であるブルドア公爵家の馬車は、何人たりとも行く手を阻むことはできない。
「お手をどうぞ」
「ふふ、ありがとう」
馬車から先に降り、紳士らしく手を差し出したクレオナルドにエスコートされたメロディナは、先ほどとは打って変わって顔色が良い。クレオナルドがイヤリングを贈ったことから話が広がって、怖い思いをする暇がなかったようだ。
黒い石は魔除けの力が強いと言うととても喜んでいたし、健康的な姿になって安堵した。一生に一度のデビュタント。どうかクレオナルドの傍で楽しんでもらいたい。それが願いだ。
そんなクレオナルドの手を取り、メロディナが公爵家の馬車から舞い降りた瞬間、周りは一気にざわめき立つ。月の女神かと見紛う美女が姿を現したのだから、当然だ。
淡い月明かりの下で金の髪に銀のドレスを纏うメロディナは、彼女自身が輝いて見えるほど美しい。
ざわめきはどれもメロディナを称賛する声ばかりだった。やれ美しいだの、どこの誰だだの、中にはドレスのことも褒めそやす声があったりと、予想通りとても注目されている。
そんな状況を知ってか知らずか、メロディナはクレオナルドにこっそりと耳打ちした。
「ねぇ、正装姿のレオって珍しいの? みんなすごく見てるよ」
「おま……」
その”みんな”はメロディナに見惚れているのだと言いたかったが、やめた。メロディナの意識がクレオナルド以外に向くのが嫌だったからだ。狭量だと言われるだろうがしかたない。
「ま、そうだな。正装はこういったものより騎士のもののほうが多い。夜会は殆ど出ないから」
「え? そうなの? デビューしたら、みんなあちこちの夜会に出るようになるって聞いたけど」
誰に聞いたのか。
一般的には間違いではないが、出会いの場としての側面が大きい夜会に、メロディナを一途に想うクレオナルドが気軽に出向くはずがない。
「俺は、ほら、仕事もあるし。よっぽど外せない式典とかでないと出ない」
「そうなんだ。なら、誰かに招待されてもレオとは行けないんだね。エスコートは別のひとに」
「行く」
彼女の話を最後まで聞かず、食い気味にかぶせるクレオナルドである。
「え? でもお仕ご」
「お前が行くなら俺も行く。保護者代わりに。伯爵に言われてるし他に知り合いもいないだろう」
嘘である。
だが堂々と言うものだから、メロディナもそんなものかと深くは考えていないようだ。
「そうなのね。なら、今度はお揃いの服を誂えるのもいいよね? レオの服、黒ばっかりなんだもの。すごくよく似合ってるけど、他の色もきっと素敵よ」
「な……っ」
その言葉に、深い意味はない。けれども揃いの服だなんて恋人同士のようではないか。クレオナルドにとって、それは殺し文句以外のなにものでもない。
素で思わぬ反撃を食らい、クレオナルドは赤くなった顔を隠すため、大きな右手で顔を覆った。
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