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05-2 譲れないもの

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 コーラル伯爵夫人の弟であるユアンは二十九歳。夫人の生家、フォルトン侯爵家の嫡男である。
 色彩こそメロディナと同じ金髪翠眼だが、顔立ちは夫人とよく似たつり目がちの美男子だ。
 メロディナはこの叔父によく懐いているし、ユアンも姪を大層可愛がっている。
 いくら叔父といえども面白くなくて、幼い頃のクレオナルドはよく、ふたりの間に割って入ったものだった。

『ユアンお兄様は未婚だけど大人だし、きっとパーティーにも慣れてるわ。レオが忙しいなら……』
『馬鹿! 俺が行くって言っただろ!』

 思わず声を荒げたクレオナルドに驚いて、メロディナはびくりと肩を揺らした。

『さっきの話聞いてなかったのかよ。お前だって、ありがとうって……言ってただろ』
『そうだけど、そんなに怒らないで、レオ。大きな声を出されたら、こわいわ……』
『っ、とにかく、伯爵も夫人も了承したんだから、ユアンは必要ない。仕事だって調整する。何も心配するな。わかったな?』
『……わかった』

 泣きそうなメロディナを引き寄せて、柔らかな髪を梳いてみたい。ごめんって、ただ嫉妬しただけだって抱きしめて、気の利いた言葉のひとつでも言ってみたいのに。
 どうしてもメロディナを前にすると、この感情を隠さねばと思うあまり見当違いの反応をしてしまう。
 けれどももう、限界だった。

 好きだから触れたいし、触れられたい。優しく愛を囁いて、見つめ合いたい。
 今はまだ全く意識されていないけれど、非日常的な空間で、それこそデビュタントのその日。ライトアップされた美しい夜の庭園を背に想いを伝えれば、きっとメロディナも心を動かしてくれるはずだ。彼女へのこの気持ちは、誰にも負けるわけがないのだから。

『あの……あのね、レオが嫌なんじゃなくて、お仕事が大変だと思ったからなの。本当よ』
『……わかってる。大きい声出して、悪かった』

 思えば、こうやって先に歩み寄ってくれるのはいつでも彼女の方だった。
 優しいメロディナ。彼女を知れば知るほど好きになる。その気持ちに際限は無くて、会うたびに好きが増えていく。

 クレオナルドの怒気がおさまったのを感じたのか、メロディナは嬉しそうに微笑み、目を閉じた。

『眠いのか?』
『少しだけ……お腹がいっぱいになったからかな? 最近ね、調子がいいの。そろそろの生活が送れるように、私も頑張らなきゃ……』

 心的外傷トラウマの克服は、容易ではないだろう。もう十年以上もこの調子なのだから。
 クレオナルドからすれば、メロディナがメロディナであるだけで、それで十分なのに。普通だなんだと気にしないでいい。誰にも何も言わせない。
 だが彼女は、それではいけないらしい。当然だ。メロディナは一年の殆どを屋敷で過ごし、街へ出ることも、女同士で無駄なおしゃべりに興じることもないのだ。

『お前の一番の理解者は、俺でいたいと思ってる』
『なぁに? それ』

 脈絡のない言葉だったからだろうか。
 クスクスと楽しそうに笑ってから、メロディナはありがとうと呟いた。
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