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03-3 繋いだ手のぬくもりは

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「母上たちは茶会の最中だろうな。そうだモモ、腹減らないか? 厨房に行って、菓子でもつまみ食いしようぜ」
「え? お腹がすいたのなら、だれかに言ったら持ってきてくれるよ?」

 言おうか? と侍女を呼ぼうとするメロディナを制して、クレオナルドは悪い笑みを浮かべる。

「それじゃ面白くないだろ。いいかモモ、これは遊びを利用した訓練なんだ。俺は将来騎士になるからな」
「くんれん? レオは騎士さまになるの? あのね、モモのお父さまも騎士さまなんだよ。とっても強くてかっこいいの」

 ああ、と呟いて、クレオナルドは純白の騎士服に身を包むコーラル伯爵を思い浮かべた。
 先日、母に初めて父の職場に連れて行ってもらった、そのとき目にした姿だ。
 休憩中に押し掛けたのだが、彼は組織のNo.2であり父の親友でもあったから、顔を合わせるのは当然だった。
 初めて会った時の胸の高鳴りはもうなかったけれど、それでもやはり伯爵の洗練された佇まいは、子供ながらに羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。

「確かに、俺もあんな風になりたいと思う」
「でしょう? あのね、それにとっても優しいの」
「……そうだな」

 嬉しそうに伯爵のことを話すメロディナはとても眩しかった。
 クレオナルドの父は厳しく、優しいとはとても言えない。愛情を与えられていることは理解しているが、多忙を極める父とのたまの触れ合いは手合わせで、それも子供相手に本気でかかってくるのだからたちが悪い。
 母に言わせれば、不器用な父は子供との距離の縮め方がわからないらしい。

「だからさ、伯爵みたいに強い騎士になるには訓練しないといけないんだ。そこで俺たちは今から、誰にも見つからずに厨房に忍び込む。いいか、これは重大な任務だ。気配を消して使用人の目をかいくぐり、母上たちに用意されている菓子を奪う」
「おかしを……!」

 ごくりと生唾を飲み込み、メロディナは真剣な表情でクレオナルドの話に耳を傾けている。それでもやはり目許は垂れ下がっていて、とても愛らしい。

「よし、なら早速行くか。俺は初めてだから知らないんだけど、モモなら厨房への行き方はわかるよな?」
「うん、モモわかるよ」
「でも見つからないように行かないとだから、使用人があまり通らないところや隠れやすそうな道を選べよ」
「うん!」

 こっちだよ、とメロディナはクレオナルドの手を握る。子供のやることだ、深い意味はない。ましてや今日初めて会った相手なのだ。
 それでもクレオナルドは、この繋いだ手のぬくもりは一生忘れられないと思った。

 攫われて、心に深い傷を負ってしまった女の子。気丈に振舞っているけれど、先ほどの怯え震えていた姿はクレオナルドの目に焼き付いていて離れない。

 このお姫様のような女の子は、俺が守らなくては。

 クレオナルド、十歳。
 この日二度目の恋に落ち、以来ずっと、彼女に恋してる。
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