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【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み
06 子供なの?
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◇
「あっ……! やっぱりだめ、だめよベイル……っ」
「……そんなこと言って、本当はしてほしいんでしょ?」
「そんなことな……っや、だめぇっ!」
全く足のつかない湖の深いところで、ヒルデガルドはベイルの太い首にしがみつき大声でわめいている。
ベイルはそれを満面の笑みで引きはがし、あろうことか高貴なる姫君をぶんっと放り投げてしまったのだ。
「ちょ、ちょぉっとぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
「あっははははは!」
美しい放物線を描いた後、ばっしゃーん! と小気味いい音を奏で、姫様はぶくぶくと沈んでいく。水中と言えど、もはや白目ものである。
だがそれを見越していたベイルは悠々と潜り、水中でヒルデガルドを腕に抱く。そしてひとかきで水面から顔を出した。
「っは……! ばっっっっっかじゃないの??!! 一国の姫を投げる人間がどこにいるの??!!」
「あっははははは! ここにいたな!」
「こっ、こんな深いところで……!」
「俺がいるから大丈夫ですって。ね、楽しかったでしょ? もう一回……」
「だからはしゃぎすぎなのよあなた……ってああああっ!」
ばっしゃーん! とまたもや景気のいい音が鳴る。
こんなつもりではなかった。水辺に合うと思い緩く編んだ自慢の黒髪は無残に濡れそぼり、前髪が顔に張り付いてしまうし、完璧に施した化粧がどうなっているかなんて考えたくもない。
それに水に入ったとしても膝下までだろうと長いパレオを巻いていたのもいけなかった。水中ではびっくりするほど邪魔である。こんなことになるなら湖畔へ置いてきたのに。
自分はちゃっかりとパーカーを脱ぎ、楽しそうにヒルデガルドを水の中に引きずり込んでいったベイルが恨めしい。今まで見たこともないようなわくわくとした顔を向けられて、姫様の思考はすっかりと鈍ってしまっていたのである。
誰が恋人と良い感じの湖へデートに来て、水に潜って遊ぶだなんて思うだろうか。せいぜい浅瀬で水を掛け合ってキャッキャウフフするくらいだろう。
少なくともヒルデガルドはそのつもりだったし、最後の方でちょっと水に浸かって、やだ怖い♡だなんて言いながら密着して……と下心満載で立てていたピンク色の計画が台無しである。
「このっ、この……っ! 溺れてしまえばいいのよぉ!!」
「あはははは!」
ベイルの広すぎる背中に回り、ぎゅぅっとしがみつく。そして乙女心をてんで理解しようとしない、この男を懲らしめるために渾身の力で沈めてやろうとするのだが、当然か弱い姫様の力ではびくともしない。
悔しくなって、ぺちんっと頭をはたくと、ベイルはまた大きな笑い声をあげた。
「よーし。じゃ、そのまま掴まっててくださいよ」
「え? ちょっ……っぶ!」
いきなり潜ってしまうベイルの言う通り、離れないよう密着する。当初の計画通りと言えば計画通りなのだか、何かが違う。
ただ、この広すぎる背中の乗り心地は良すぎやしないか。ぐんっと水をかくたび広背筋が盛り上がり、なんとも悩ましげな筋が浮き出てくるではないか。
普段は見ることのない部分を目にし、これはこれで……なんて大変興奮してしまう姫様なのである。
そんなヒルデガルドを乗せ、ベイルはぐんぐん泳ぐ。心地の良い風と水しぶきに、姫様の頬も緩んでいく。
貴族らしいボート遊びなんかでは到底味わえない爽快感に、気づけば声をあげて笑っていた。
「あっ……! やっぱりだめ、だめよベイル……っ」
「……そんなこと言って、本当はしてほしいんでしょ?」
「そんなことな……っや、だめぇっ!」
全く足のつかない湖の深いところで、ヒルデガルドはベイルの太い首にしがみつき大声でわめいている。
ベイルはそれを満面の笑みで引きはがし、あろうことか高貴なる姫君をぶんっと放り投げてしまったのだ。
「ちょ、ちょぉっとぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
「あっははははは!」
美しい放物線を描いた後、ばっしゃーん! と小気味いい音を奏で、姫様はぶくぶくと沈んでいく。水中と言えど、もはや白目ものである。
だがそれを見越していたベイルは悠々と潜り、水中でヒルデガルドを腕に抱く。そしてひとかきで水面から顔を出した。
「っは……! ばっっっっっかじゃないの??!! 一国の姫を投げる人間がどこにいるの??!!」
「あっははははは! ここにいたな!」
「こっ、こんな深いところで……!」
「俺がいるから大丈夫ですって。ね、楽しかったでしょ? もう一回……」
「だからはしゃぎすぎなのよあなた……ってああああっ!」
ばっしゃーん! とまたもや景気のいい音が鳴る。
こんなつもりではなかった。水辺に合うと思い緩く編んだ自慢の黒髪は無残に濡れそぼり、前髪が顔に張り付いてしまうし、完璧に施した化粧がどうなっているかなんて考えたくもない。
それに水に入ったとしても膝下までだろうと長いパレオを巻いていたのもいけなかった。水中ではびっくりするほど邪魔である。こんなことになるなら湖畔へ置いてきたのに。
自分はちゃっかりとパーカーを脱ぎ、楽しそうにヒルデガルドを水の中に引きずり込んでいったベイルが恨めしい。今まで見たこともないようなわくわくとした顔を向けられて、姫様の思考はすっかりと鈍ってしまっていたのである。
誰が恋人と良い感じの湖へデートに来て、水に潜って遊ぶだなんて思うだろうか。せいぜい浅瀬で水を掛け合ってキャッキャウフフするくらいだろう。
少なくともヒルデガルドはそのつもりだったし、最後の方でちょっと水に浸かって、やだ怖い♡だなんて言いながら密着して……と下心満載で立てていたピンク色の計画が台無しである。
「このっ、この……っ! 溺れてしまえばいいのよぉ!!」
「あはははは!」
ベイルの広すぎる背中に回り、ぎゅぅっとしがみつく。そして乙女心をてんで理解しようとしない、この男を懲らしめるために渾身の力で沈めてやろうとするのだが、当然か弱い姫様の力ではびくともしない。
悔しくなって、ぺちんっと頭をはたくと、ベイルはまた大きな笑い声をあげた。
「よーし。じゃ、そのまま掴まっててくださいよ」
「え? ちょっ……っぶ!」
いきなり潜ってしまうベイルの言う通り、離れないよう密着する。当初の計画通りと言えば計画通りなのだか、何かが違う。
ただ、この広すぎる背中の乗り心地は良すぎやしないか。ぐんっと水をかくたび広背筋が盛り上がり、なんとも悩ましげな筋が浮き出てくるではないか。
普段は見ることのない部分を目にし、これはこれで……なんて大変興奮してしまう姫様なのである。
そんなヒルデガルドを乗せ、ベイルはぐんぐん泳ぐ。心地の良い風と水しぶきに、姫様の頬も緩んでいく。
貴族らしいボート遊びなんかでは到底味わえない爽快感に、気づけば声をあげて笑っていた。
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