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【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み
04 白亜の城
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◇
リーウェルの離宮に着いたのは、二日後の昼だった。
予定では日が落ちかけた頃の到着とのことだったので、相当な時間短縮となる。その陰でヒルデガルドの柔らかな臀が尊い犠牲となったのだが、なにも言わなくとも頼れる婚約者が癒しをかけてくれた。粗雑に見えて、ヒルデガルドには細やかな気遣いを見せる婚約者に、姫様はメロメロなのである。
「……いつ見ても、美しいですね」
ベイルは離宮を見上げ、そう感嘆の声をあげる。
ため息が出るほどに眩い白亜の城は、五代前の王が病弱だった王妃の療養のために建てたものだ。
森に囲まれたここの空気は清涼で、城の前には透き通った水の美しい大きな湖がある。
他の離宮とは違いこぢんまりとしているのだが、使用人も多くを必要としないため、ヒルデガルドは静かに過ごせるここを気に入っている。
「あなたのおかげでとっても早く着いたわね。本当は明日にでもと思っていたんだけど、昼食をいただいてから早速行くわよ」
「へぁ?」
呆けた声を出すベイルの腕を引き、ヒルデガルドはさっさと門をくぐり食堂へ進む。離宮の使用人は心得たもので、早く着いたふたりに驚くでもなく、席に着いた途端に温かな料理が並べられた。
「それで、行くってどこにです? 山登りでもするんですか?」
「……馬鹿ね。今は夏真っ盛りで、目の前にあんなに綺麗な湖があるのよ。泳ぎに行くに決まってるでしょうが」
「まじか! そういやウチのヤツらがいろいろ用意してたな」
「水着も入れるように言っておいたから、食べたら着替えましょう」
「いいっすねー」
馬を飛ばし、お腹が空いていたのか、ベイルは次々と出される大量の料理をぺろりと平らげていく。
一方のヒルデガルドはスープとパンを少量口にしただけで、食べっぷりの良いベイルをうっとりと眺めているだけだ。
昼食後すぐに水着になるのだ。最愛の婚約者に、食後のポッコリとしたお腹は見せられない。
ベイルがそれを気にするなんてこれっぽっちも思ってはいないのだが、さすがの姫様でも乙女心というものを持ち合わせている。いついかなる時でも、最高の状態の自分を見てもらいたのだ。
「っふー。ここの料理人はいい腕してますね、旨かった。では着替えにでも行きますか」
「そうね。部屋は二階の奥よ。一番広くてベッドも大きい部屋だから、二人でも余裕だわ♡」
「ん?」
ベイルの太い腕に自らのそれを絡めながら歩き、ご機嫌に部屋の扉を開けさせるヒルデガルド。そんな姫様に何を言えるわけもなく、ベイルは頭を抱えている。
「一応聞いておきますけど、俺が別の部屋ってことは……」
「あるわけないでしょ」
「…………ですよね、把握しました」
「なによ。ここにいる間は寝かせません♡くらい言ってもいいんじゃない?」
ぷくり、頬を膨らませてベイルに抱き着いた。
道中は散々と密着していたふたりだが、特段甘い雰囲気だったわけではない。求めているのは自分ばかりなのかと、恨みを込めて見上げたのだが。
そんなヒルデガルドに苦笑して、ベイルはそっと触れるだけのキスをした。
「言わなくてもわかってるんじゃないですか。一応、まだ未婚っていう体裁を気にしただけで、俺だってあなたと離れたいわけじゃない」
「…………わかってても、ちゃんと言葉と態度で示してほしい生き物なのよ、女って」
ベイルの短い金髪に細い指を埋め、握るようにして引き寄せた。
それが合図となって、お行儀の良かった口付けは、貪るようなそれに変化する。何度も角度を変えくちびるを押しつけて、差し出した舌を深くまで絡ませる。
互いに主導権を渡したくなくて、競うように唾液を混ぜては吸い込んで、至近距離で見つめ合う。
息もできぬほどに抱きしめられるのが、ヒルデガルドは好きだ。彼が常に気にかけているヒルデガルドの様子がわからなくなるくらい、余裕がなくなっている証拠だから。
淫らな水音と、時折漏れるあえかな声。それがふたりの官能を高めているのは確かだ。
きゅぅんと子宮が疼く。本能がベイルを求めてる。
愛しい人の全てを与えてほしくて、もう一度、噛みつくようにキスをした。
「んぅ……っ、ベイル……」
驚くほどに甘ったるい声が出てしまう。完全に蕩けた表情で彼を見つめているはずだ。
手を滑らせて、ベイルの厚い胸板を服の上からひと撫でして……
リーウェルの離宮に着いたのは、二日後の昼だった。
予定では日が落ちかけた頃の到着とのことだったので、相当な時間短縮となる。その陰でヒルデガルドの柔らかな臀が尊い犠牲となったのだが、なにも言わなくとも頼れる婚約者が癒しをかけてくれた。粗雑に見えて、ヒルデガルドには細やかな気遣いを見せる婚約者に、姫様はメロメロなのである。
「……いつ見ても、美しいですね」
ベイルは離宮を見上げ、そう感嘆の声をあげる。
ため息が出るほどに眩い白亜の城は、五代前の王が病弱だった王妃の療養のために建てたものだ。
森に囲まれたここの空気は清涼で、城の前には透き通った水の美しい大きな湖がある。
他の離宮とは違いこぢんまりとしているのだが、使用人も多くを必要としないため、ヒルデガルドは静かに過ごせるここを気に入っている。
「あなたのおかげでとっても早く着いたわね。本当は明日にでもと思っていたんだけど、昼食をいただいてから早速行くわよ」
「へぁ?」
呆けた声を出すベイルの腕を引き、ヒルデガルドはさっさと門をくぐり食堂へ進む。離宮の使用人は心得たもので、早く着いたふたりに驚くでもなく、席に着いた途端に温かな料理が並べられた。
「それで、行くってどこにです? 山登りでもするんですか?」
「……馬鹿ね。今は夏真っ盛りで、目の前にあんなに綺麗な湖があるのよ。泳ぎに行くに決まってるでしょうが」
「まじか! そういやウチのヤツらがいろいろ用意してたな」
「水着も入れるように言っておいたから、食べたら着替えましょう」
「いいっすねー」
馬を飛ばし、お腹が空いていたのか、ベイルは次々と出される大量の料理をぺろりと平らげていく。
一方のヒルデガルドはスープとパンを少量口にしただけで、食べっぷりの良いベイルをうっとりと眺めているだけだ。
昼食後すぐに水着になるのだ。最愛の婚約者に、食後のポッコリとしたお腹は見せられない。
ベイルがそれを気にするなんてこれっぽっちも思ってはいないのだが、さすがの姫様でも乙女心というものを持ち合わせている。いついかなる時でも、最高の状態の自分を見てもらいたのだ。
「っふー。ここの料理人はいい腕してますね、旨かった。では着替えにでも行きますか」
「そうね。部屋は二階の奥よ。一番広くてベッドも大きい部屋だから、二人でも余裕だわ♡」
「ん?」
ベイルの太い腕に自らのそれを絡めながら歩き、ご機嫌に部屋の扉を開けさせるヒルデガルド。そんな姫様に何を言えるわけもなく、ベイルは頭を抱えている。
「一応聞いておきますけど、俺が別の部屋ってことは……」
「あるわけないでしょ」
「…………ですよね、把握しました」
「なによ。ここにいる間は寝かせません♡くらい言ってもいいんじゃない?」
ぷくり、頬を膨らませてベイルに抱き着いた。
道中は散々と密着していたふたりだが、特段甘い雰囲気だったわけではない。求めているのは自分ばかりなのかと、恨みを込めて見上げたのだが。
そんなヒルデガルドに苦笑して、ベイルはそっと触れるだけのキスをした。
「言わなくてもわかってるんじゃないですか。一応、まだ未婚っていう体裁を気にしただけで、俺だってあなたと離れたいわけじゃない」
「…………わかってても、ちゃんと言葉と態度で示してほしい生き物なのよ、女って」
ベイルの短い金髪に細い指を埋め、握るようにして引き寄せた。
それが合図となって、お行儀の良かった口付けは、貪るようなそれに変化する。何度も角度を変えくちびるを押しつけて、差し出した舌を深くまで絡ませる。
互いに主導権を渡したくなくて、競うように唾液を混ぜては吸い込んで、至近距離で見つめ合う。
息もできぬほどに抱きしめられるのが、ヒルデガルドは好きだ。彼が常に気にかけているヒルデガルドの様子がわからなくなるくらい、余裕がなくなっている証拠だから。
淫らな水音と、時折漏れるあえかな声。それがふたりの官能を高めているのは確かだ。
きゅぅんと子宮が疼く。本能がベイルを求めてる。
愛しい人の全てを与えてほしくて、もう一度、噛みつくようにキスをした。
「んぅ……っ、ベイル……」
驚くほどに甘ったるい声が出てしまう。完全に蕩けた表情で彼を見つめているはずだ。
手を滑らせて、ベイルの厚い胸板を服の上からひと撫でして……
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