32 / 40
【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み
04 白亜の城
しおりを挟む
◇
リーウェルの離宮に着いたのは、二日後の昼だった。
予定では日が落ちかけた頃の到着とのことだったので、相当な時間短縮となる。その陰でヒルデガルドの柔らかな臀が尊い犠牲となったのだが、なにも言わなくとも頼れる婚約者が癒しをかけてくれた。粗雑に見えて、ヒルデガルドには細やかな気遣いを見せる婚約者に、姫様はメロメロなのである。
「……いつ見ても、美しいですね」
ベイルは離宮を見上げ、そう感嘆の声をあげる。
ため息が出るほどに眩い白亜の城は、五代前の王が病弱だった王妃の療養のために建てたものだ。
森に囲まれたここの空気は清涼で、城の前には透き通った水の美しい大きな湖がある。
他の離宮とは違いこぢんまりとしているのだが、使用人も多くを必要としないため、ヒルデガルドは静かに過ごせるここを気に入っている。
「あなたのおかげでとっても早く着いたわね。本当は明日にでもと思っていたんだけど、昼食をいただいてから早速行くわよ」
「へぁ?」
呆けた声を出すベイルの腕を引き、ヒルデガルドはさっさと門をくぐり食堂へ進む。離宮の使用人は心得たもので、早く着いたふたりに驚くでもなく、席に着いた途端に温かな料理が並べられた。
「それで、行くってどこにです? 山登りでもするんですか?」
「……馬鹿ね。今は夏真っ盛りで、目の前にあんなに綺麗な湖があるのよ。泳ぎに行くに決まってるでしょうが」
「まじか! そういやウチのヤツらがいろいろ用意してたな」
「水着も入れるように言っておいたから、食べたら着替えましょう」
「いいっすねー」
馬を飛ばし、お腹が空いていたのか、ベイルは次々と出される大量の料理をぺろりと平らげていく。
一方のヒルデガルドはスープとパンを少量口にしただけで、食べっぷりの良いベイルをうっとりと眺めているだけだ。
昼食後すぐに水着になるのだ。最愛の婚約者に、食後のポッコリとしたお腹は見せられない。
ベイルがそれを気にするなんてこれっぽっちも思ってはいないのだが、さすがの姫様でも乙女心というものを持ち合わせている。いついかなる時でも、最高の状態の自分を見てもらいたのだ。
「っふー。ここの料理人はいい腕してますね、旨かった。では着替えにでも行きますか」
「そうね。部屋は二階の奥よ。一番広くてベッドも大きい部屋だから、二人でも余裕だわ♡」
「ん?」
ベイルの太い腕に自らのそれを絡めながら歩き、ご機嫌に部屋の扉を開けさせるヒルデガルド。そんな姫様に何を言えるわけもなく、ベイルは頭を抱えている。
「一応聞いておきますけど、俺が別の部屋ってことは……」
「あるわけないでしょ」
「…………ですよね、把握しました」
「なによ。ここにいる間は寝かせません♡くらい言ってもいいんじゃない?」
ぷくり、頬を膨らませてベイルに抱き着いた。
道中は散々と密着していたふたりだが、特段甘い雰囲気だったわけではない。求めているのは自分ばかりなのかと、恨みを込めて見上げたのだが。
そんなヒルデガルドに苦笑して、ベイルはそっと触れるだけのキスをした。
「言わなくてもわかってるんじゃないですか。一応、まだ未婚っていう体裁を気にしただけで、俺だってあなたと離れたいわけじゃない」
「…………わかってても、ちゃんと言葉と態度で示してほしい生き物なのよ、女って」
ベイルの短い金髪に細い指を埋め、握るようにして引き寄せた。
それが合図となって、お行儀の良かった口付けは、貪るようなそれに変化する。何度も角度を変えくちびるを押しつけて、差し出した舌を深くまで絡ませる。
互いに主導権を渡したくなくて、競うように唾液を混ぜては吸い込んで、至近距離で見つめ合う。
息もできぬほどに抱きしめられるのが、ヒルデガルドは好きだ。彼が常に気にかけているヒルデガルドの様子がわからなくなるくらい、余裕がなくなっている証拠だから。
淫らな水音と、時折漏れるあえかな声。それがふたりの官能を高めているのは確かだ。
きゅぅんと子宮が疼く。本能がベイルを求めてる。
愛しい人の全てを与えてほしくて、もう一度、噛みつくようにキスをした。
「んぅ……っ、ベイル……」
驚くほどに甘ったるい声が出てしまう。完全に蕩けた表情で彼を見つめているはずだ。
手を滑らせて、ベイルの厚い胸板を服の上からひと撫でして……
リーウェルの離宮に着いたのは、二日後の昼だった。
予定では日が落ちかけた頃の到着とのことだったので、相当な時間短縮となる。その陰でヒルデガルドの柔らかな臀が尊い犠牲となったのだが、なにも言わなくとも頼れる婚約者が癒しをかけてくれた。粗雑に見えて、ヒルデガルドには細やかな気遣いを見せる婚約者に、姫様はメロメロなのである。
「……いつ見ても、美しいですね」
ベイルは離宮を見上げ、そう感嘆の声をあげる。
ため息が出るほどに眩い白亜の城は、五代前の王が病弱だった王妃の療養のために建てたものだ。
森に囲まれたここの空気は清涼で、城の前には透き通った水の美しい大きな湖がある。
他の離宮とは違いこぢんまりとしているのだが、使用人も多くを必要としないため、ヒルデガルドは静かに過ごせるここを気に入っている。
「あなたのおかげでとっても早く着いたわね。本当は明日にでもと思っていたんだけど、昼食をいただいてから早速行くわよ」
「へぁ?」
呆けた声を出すベイルの腕を引き、ヒルデガルドはさっさと門をくぐり食堂へ進む。離宮の使用人は心得たもので、早く着いたふたりに驚くでもなく、席に着いた途端に温かな料理が並べられた。
「それで、行くってどこにです? 山登りでもするんですか?」
「……馬鹿ね。今は夏真っ盛りで、目の前にあんなに綺麗な湖があるのよ。泳ぎに行くに決まってるでしょうが」
「まじか! そういやウチのヤツらがいろいろ用意してたな」
「水着も入れるように言っておいたから、食べたら着替えましょう」
「いいっすねー」
馬を飛ばし、お腹が空いていたのか、ベイルは次々と出される大量の料理をぺろりと平らげていく。
一方のヒルデガルドはスープとパンを少量口にしただけで、食べっぷりの良いベイルをうっとりと眺めているだけだ。
昼食後すぐに水着になるのだ。最愛の婚約者に、食後のポッコリとしたお腹は見せられない。
ベイルがそれを気にするなんてこれっぽっちも思ってはいないのだが、さすがの姫様でも乙女心というものを持ち合わせている。いついかなる時でも、最高の状態の自分を見てもらいたのだ。
「っふー。ここの料理人はいい腕してますね、旨かった。では着替えにでも行きますか」
「そうね。部屋は二階の奥よ。一番広くてベッドも大きい部屋だから、二人でも余裕だわ♡」
「ん?」
ベイルの太い腕に自らのそれを絡めながら歩き、ご機嫌に部屋の扉を開けさせるヒルデガルド。そんな姫様に何を言えるわけもなく、ベイルは頭を抱えている。
「一応聞いておきますけど、俺が別の部屋ってことは……」
「あるわけないでしょ」
「…………ですよね、把握しました」
「なによ。ここにいる間は寝かせません♡くらい言ってもいいんじゃない?」
ぷくり、頬を膨らませてベイルに抱き着いた。
道中は散々と密着していたふたりだが、特段甘い雰囲気だったわけではない。求めているのは自分ばかりなのかと、恨みを込めて見上げたのだが。
そんなヒルデガルドに苦笑して、ベイルはそっと触れるだけのキスをした。
「言わなくてもわかってるんじゃないですか。一応、まだ未婚っていう体裁を気にしただけで、俺だってあなたと離れたいわけじゃない」
「…………わかってても、ちゃんと言葉と態度で示してほしい生き物なのよ、女って」
ベイルの短い金髪に細い指を埋め、握るようにして引き寄せた。
それが合図となって、お行儀の良かった口付けは、貪るようなそれに変化する。何度も角度を変えくちびるを押しつけて、差し出した舌を深くまで絡ませる。
互いに主導権を渡したくなくて、競うように唾液を混ぜては吸い込んで、至近距離で見つめ合う。
息もできぬほどに抱きしめられるのが、ヒルデガルドは好きだ。彼が常に気にかけているヒルデガルドの様子がわからなくなるくらい、余裕がなくなっている証拠だから。
淫らな水音と、時折漏れるあえかな声。それがふたりの官能を高めているのは確かだ。
きゅぅんと子宮が疼く。本能がベイルを求めてる。
愛しい人の全てを与えてほしくて、もう一度、噛みつくようにキスをした。
「んぅ……っ、ベイル……」
驚くほどに甘ったるい声が出てしまう。完全に蕩けた表情で彼を見つめているはずだ。
手を滑らせて、ベイルの厚い胸板を服の上からひと撫でして……
10
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる