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【挿絵あり】番外編 うれしはずかし夏休み

01 【挿絵あり】 デルモンド侯爵邸

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 眩むような太陽の光が、青く茂った木々に降り注いでいる。

 季節は夏。ヒルデガルドは白く豪奢な馬車に揺られ、暑さなど感じさせない涼しい顔で、愛する婚約者が住まう邸宅の門をくぐった。

「ようこそおいでくださいました、王女殿下。ただちに主を呼んでまりますので、暫し応接室で……」
「結構よ」

 ぴしゃり、慌てて迎えに出てきたデルモンド侯爵家の家令の言葉を遮って、ヒルデガルドはふわりと馬車から降り立った。

「ベイルは鍛錬場かしら? わたくしが直接見に行くわね。ふふ、愛しい婚約者が急に表れて、わたくしのお砂糖ちゃんはどんな可愛らしい顔を見せてくれるのかしら。あら、お久しぶりねギルベルト」

 家令と共にヒルデガルドを出迎えた貴公子に顔を向ける。
 するとギルベルトと呼ばれた青年は人好きのする笑みを浮かべ、恭しく胸に手を当てて腰を折った。

「はい、お久しぶりでございます王女殿下。兄のところまで貴方様をエスコートをする機会を、私に与えていただけますでしょうか?」

 物腰の柔らかいギルベルトは、名門デルモンド侯爵家の貴公子として有名だ。
 彼は次男ながら、討伐やらで家を空けがちな当主、ベイルに代わり侯爵家の采配を振るうやり手である。また、ゆくゆくは母方の爵位を継ぎ、伯爵となることも決定している。
 五年前に彼が婚約を発表した時には、多くの貴族令嬢がむせび泣く声が聞こえたものだった。
 ベイル一筋を貫き通す姫様に至っては、ひとつも食指が動くことはなかったのだが。

「いいえ、結構よ」

 パチン! と広げていた扇子をたたみ、そんなギルベルトを眺めた。
 顔立ちだけを見れば、彼はベイルによく似ている。ベイルよりは長いが癖のない金髪と、澄んだ碧眼。すっと通った鼻筋に、薄い唇。そして少しだけ吊り上がった目じり。だが決定的に違うものが、この兄弟にはあるのだ。

 ──わたくしのベイルの筋肉を全部剥いちゃったら、こんな感じになるのかしら。筋肉のなくなった……ベイル……?

 それはイチゴと生クリームが消えてしまったショートケーキを目にするよりも切ないかもしれない。いやいや、姫様はベイルの全てを愛しているので、いわば筋肉はおまけである。筋肉がなくなったとて困るわけではない。困るわけではないが……寂しくて年単位で寝込んでしまいそうではある。
 そんな少々もの悲しい考えを頭から追い払うように、ヒルデガルドは笑みを深めた。

「申し出はありがたいのだけれど、わたくしにベイル以外の支えは必要ないのよ。含みはないから気にしないでちょうだい。鍛錬場までの案内だけいただけるかしら」
「王国の至高と称される王女殿下からそれほど想われて、わが兄ながらとても誇らしく思います。案内の者を付けますので、どうぞご自由に」
「ええありがとう。暫く……そうね、十日ほど彼を借りるから、あなたたちも暇を取りなさいな。避暑の時期だし、急ぎの政務も終えた頃でしょう」

 王都の夏は暑い。この時期、王城勤めの貴族は長い休暇を取り、領地へ戻ったり避暑地でのんびりと過ごすのが一般的だ。
 だが、討伐などで長らく王都を離れていたベイルはそこまで気が回らなかったのだろう。婚約者であるヒルデガルドにバカンスのお誘いはなかったし、慌ただしく稽古に仕事にと走り回る彼に休暇を、などと、家令やギルベルトからは言い出せなかったに違いない。
 だからこうして、姫様自らベイルを迎えに来たのだ。そしてそんなヒルデガルドを、彼らは歓迎した。

「承知いたしました。お気遣い痛み入ります。屋敷の者にもそのようにお伝えいたします」
「気にしないで。婚姻まであと一年もないのよ。あなたたちと共に過ごせる日を心待ちにしているわ」
「勿体ないお言葉でございます」

 そう言って腰を折るふたりを背に、ヒルデガルドは鍛錬場へと向かう。
 日傘を持たせてはいるが、少し歩くだけで暑さで体力が持っていかれそうだ。だがこの先に愛しい婚約者がいるとなると話は変わってくる。ヒルデガルドは案内の侍従を追い抜きそうになる気持ちをなんとか抑え、涼しい顔で歩みを進めた。そして。
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