23 / 40
番外編 王女様は癒されたい
01 デルモンド侯爵邸にて
しおりを挟む
しん、と静まり返った邸宅を、ベイル・デルモンド侯爵はゆったりと歩いている。
まだ寝るには早い時間なのだが、連日に渡る激務を見かねた執事に、半ば強制的に風呂に押し込まれたのが数十分前のこと。
聖騎士として戦場を駆け回っていたベイルだ。忙しいとはいえ、まだまだ体力的に問題はない。
だが侯爵家に仕える使用人としては、どうやら主の健康は最優先事項らしい。
「はぁ……領民の上申書確認に騎士たちの稽古、更に教会の視察と祈祷……あとはなんだったか……」
留守の間はできる弟に領地の一切を任せていたが、帰ってきたからには目を通すべき書類もある。
魔のものの脅威が去り、緩んでしまった王国騎士たちの尻も叩かなければならない。
救国の戦乙女、ルーチェ率いる勇者たちを生み出したこの国に手出しをする馬鹿はいないと思いたいのだが。人外という共通の敵がいなくなった今、魔国と呼ばれた未開の地を狙う、他国の王侯貴族が湧いてくる可能性もある。
体力はあるが時間がない。あともうひとりかふたり、自分が欲しいとぼやいて、寝室の扉に手を掛けた。の、だが。
「んなっ、はぁっ?! ちょ、なんであんたがここに……!」
「遅すぎて待ちくたびれちゃったわ、マイスウィート♡」
扉を開けた瞬間、久方ぶりに甘いムスクの香りを吸い込んで、急激に心拍数が跳ねあがる。
わけもわからぬまま視線をさ迷わせれば、カウチに座り、その艶かしい白い足を横に流すようにして寛ぐ、我が国の王女が。
ここに居るはずのない人の姿に驚愕して、慌てて扉を後ろ手に閉めた。
「なっ、なななっ……! なんつー格好してんすかそんな脚出して! 俺だから良かったものの他の男だったら……いや違う、どうやってここに!」
「わたくしは正面から入ってよ。いつもより静かにだけれど。ここの使用人は本当に躾が行き届いているわね」
だから本来なら黙って従うばかりの執事が、今日は早く部屋へ戻れと書類を取り上げてきたのか。そういえばどこか鬼気迫るものがあった気もする。いや、どうやってデルモンド家の家令を言いくるめたのかは考えてはいけない。
ベイルは彼女の足元に転がっていたガウンを広げ、滑らかな素肌が目に入らないようぐるぐるとヒルデガルドの身体に巻きつけた。
「ちょっ! やめてよ!」
「そんなエロい服っつーより下着みたいなもんでいたら風邪ひくでしょうが!」
いつぞやの夜を思わせるようなベビードールはいろいろとまずい。
情熱的な深い赤色の、上質なサテン生地は手触りがよさそうだし、細い肩紐は今にもずり落ちて、豊満な胸を露わにしてしまいそうなほど頼りない。さらにはお行儀悪く寝転んでいたせいで、ただでさえ短い裾が随分と捲れ上がっている。
反射的に彼女が脱いだであろうガウンで覆ってはみたが、当然のごとくベイルの姫様はお怒りである。
「って……ぁ、あーーーーーー!!?? こ、これ、全部飲んじまったんですか!!??」
テーブルにグラスが置かれているなとは思っていた。ヒルデガルドの甘い香りに混ざって、強いアルコールの匂いもするなと思っていた。
「だってベイル来るのおそいんだもん」
「もんって! そんな可愛い感じで言っても無理ですよ! あんたこれ……三本全部……?」
机の下に転がっている三本の酒瓶を並べ、そのラベルを見て泣きそうになる。
まだ寝るには早い時間なのだが、連日に渡る激務を見かねた執事に、半ば強制的に風呂に押し込まれたのが数十分前のこと。
聖騎士として戦場を駆け回っていたベイルだ。忙しいとはいえ、まだまだ体力的に問題はない。
だが侯爵家に仕える使用人としては、どうやら主の健康は最優先事項らしい。
「はぁ……領民の上申書確認に騎士たちの稽古、更に教会の視察と祈祷……あとはなんだったか……」
留守の間はできる弟に領地の一切を任せていたが、帰ってきたからには目を通すべき書類もある。
魔のものの脅威が去り、緩んでしまった王国騎士たちの尻も叩かなければならない。
救国の戦乙女、ルーチェ率いる勇者たちを生み出したこの国に手出しをする馬鹿はいないと思いたいのだが。人外という共通の敵がいなくなった今、魔国と呼ばれた未開の地を狙う、他国の王侯貴族が湧いてくる可能性もある。
体力はあるが時間がない。あともうひとりかふたり、自分が欲しいとぼやいて、寝室の扉に手を掛けた。の、だが。
「んなっ、はぁっ?! ちょ、なんであんたがここに……!」
「遅すぎて待ちくたびれちゃったわ、マイスウィート♡」
扉を開けた瞬間、久方ぶりに甘いムスクの香りを吸い込んで、急激に心拍数が跳ねあがる。
わけもわからぬまま視線をさ迷わせれば、カウチに座り、その艶かしい白い足を横に流すようにして寛ぐ、我が国の王女が。
ここに居るはずのない人の姿に驚愕して、慌てて扉を後ろ手に閉めた。
「なっ、なななっ……! なんつー格好してんすかそんな脚出して! 俺だから良かったものの他の男だったら……いや違う、どうやってここに!」
「わたくしは正面から入ってよ。いつもより静かにだけれど。ここの使用人は本当に躾が行き届いているわね」
だから本来なら黙って従うばかりの執事が、今日は早く部屋へ戻れと書類を取り上げてきたのか。そういえばどこか鬼気迫るものがあった気もする。いや、どうやってデルモンド家の家令を言いくるめたのかは考えてはいけない。
ベイルは彼女の足元に転がっていたガウンを広げ、滑らかな素肌が目に入らないようぐるぐるとヒルデガルドの身体に巻きつけた。
「ちょっ! やめてよ!」
「そんなエロい服っつーより下着みたいなもんでいたら風邪ひくでしょうが!」
いつぞやの夜を思わせるようなベビードールはいろいろとまずい。
情熱的な深い赤色の、上質なサテン生地は手触りがよさそうだし、細い肩紐は今にもずり落ちて、豊満な胸を露わにしてしまいそうなほど頼りない。さらにはお行儀悪く寝転んでいたせいで、ただでさえ短い裾が随分と捲れ上がっている。
反射的に彼女が脱いだであろうガウンで覆ってはみたが、当然のごとくベイルの姫様はお怒りである。
「って……ぁ、あーーーーーー!!?? こ、これ、全部飲んじまったんですか!!??」
テーブルにグラスが置かれているなとは思っていた。ヒルデガルドの甘い香りに混ざって、強いアルコールの匂いもするなと思っていた。
「だってベイル来るのおそいんだもん」
「もんって! そんな可愛い感じで言っても無理ですよ! あんたこれ……三本全部……?」
机の下に転がっている三本の酒瓶を並べ、そのラベルを見て泣きそうになる。
44
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる