17 / 40
番外編 ベイルの一大事
02 勘弁してくれ
しおりを挟む
なんということだ。ヒルデガルドは白目を剥いてしまった。
それならば彼らには酷ではあるが、身代わりになどならずに即治療を施した方が被害が出なかったのではなかろうか。詰めが甘いというかなんというか、考えるよりもまず身体が動くところがベイルらしい。
「それで? 性的欲求が高まる以外に弊害はないの? 命に別状は? どうすれば治まるのかしら」
「えっと、はい、それ以外の作用はございませんし、命を縮める危険性もありません。ただ……ベイルは魔力量が多いので、非常に苦しいと思います。おそらく、これは魔力が一旦尽きるまで続くかと……」
小声でティトが説明する中、ミアは随行していた騎士たちを解散させていた。王女に覆いかぶさるその婚約者の姿は、刺激が強すぎるのだ。
「そう。わかったわ。その間、発散させればいいのね」
「……っは……、いい。もう……大丈夫だ。自分で、何とかする。……おいティト、部屋まで、肩貸してくれ……」
「ベイル、でもお前」
ヒルデガルドから勢いよく離れふらついたベイルを、ティトが慌てて掴む。大粒の汗を額に浮かべた大男は、どうしたって大丈夫そうには見えない。
「安心なさいベイル、わたくしがいるわ」
「──っ」
そう言うヒルデガルドの全身を目に映したベイルの喉元が、ごくりと音をたてて上下した。
きゅぅっと細められた瞳は熱を帯び、色欲が灯る。だがそれに耐えるように歯を食いしばり、握りしめた手のひらに血を滲ませた。
「ベイル」
まだ婚約段階ではあるけれど、例え子が宿ろうと問題はない。
第一王女がどれだけベイル・デルモンド侯爵に熱をあげていたのかは誰の目から見ても明らかだったし、国の英雄に面と向かって意見する者もいない。もしいるとしたら、そんなゴミはとっとと社会的に消えていただく所存である。
「っ、だめだ、ひとりで……何とかする。来るな。あんたに……酷いこと、しちまいそうで」
「忘れたの? わたくしを好きにできるのは、あなただけなのよ、ベイル」
できるだけ魅力的に見えるよう、瞬時に計算を開始する。
見上げる角度、彼の身体に押し付けて潰れる胸元、回した手は当然臀部を撫であげて、潤ませた空色の瞳は色っぽく、口づけをねだるようくちびるは少しだけ開く。
「ぐぅ……」
ベイルは獣のように低く唸り、天を仰ぎ目許を押さえてしまった。それでは渾身の誘惑ポーズが効かないではないか。
ヒルデガルドは臀に添えた手に力を込めて、グッと引き寄せた。
「いい加減になさいベイル。ひとりでどうにかするって、そんなことわたくしが許すわけないでしょう。そのオカズにした女をどうにかして見つけ出して、八つ裂きにしてやる」
「ひっ」
あまりの剣幕に小さく悲鳴をあげたのはティトだった。顔面を蒼白にして、カタカタと震えている。
「勘弁してくれ……女ったって、俺が反応すんの……あんたしかいないでしょうが」
「……ふんっ、どうだか」
そう言いながらも微かに頬を染めるヒルデガルドは、満更でもないらしい。
しかし本物がすぐ近くにいるというのに、ただの想像で完結されるのは面白くないわけで。
「ここのところ政務続きで、わたくしも溜まっているのよ。久々にふたりっきりになれる、最高の理由だとは思わない?」
身長差があるため耳打ちはできなかったけれど、ベイルにだけ聞こえるような声で囁き、妖艶に微笑んだ。
婚約発表をしてからお互いに目が回るほど忙しく、ゆっくり触れ合えていない。ここ、元魔国に来てもすれ違いの生活だったのだ。
「わたくしがあなたに抱かれたいって言っているのよ? ベイル」
「──っ、後悔、しないでくださいよ」
碧眼に欲望の色を揺らめかせ、ベイルはヒルデガルドを担ぎあげた。
「ちょっ……ベイル、あなた持ち方を考えなさい!」
「ティト、すまんが後は頼む」
「このわたくしを荷物みたいに……! っきゃぁあ!」
立つものままならない状態だったはずなのに、今やベイルはとんでもない速さで広い回廊を進む。
肩に担がれた状態のヒルデガルドは、落ちないようにと太い首にしがみついた。発達した増帽筋が逞しすぎて振り落とされる心配は皆無だったし、安定感抜群のベイルがヒルデガルドを落とすわけないのだが。そこはただくっついていたいだけのヒルデガルドが甘えるように擦り寄った結果である。
それならば彼らには酷ではあるが、身代わりになどならずに即治療を施した方が被害が出なかったのではなかろうか。詰めが甘いというかなんというか、考えるよりもまず身体が動くところがベイルらしい。
「それで? 性的欲求が高まる以外に弊害はないの? 命に別状は? どうすれば治まるのかしら」
「えっと、はい、それ以外の作用はございませんし、命を縮める危険性もありません。ただ……ベイルは魔力量が多いので、非常に苦しいと思います。おそらく、これは魔力が一旦尽きるまで続くかと……」
小声でティトが説明する中、ミアは随行していた騎士たちを解散させていた。王女に覆いかぶさるその婚約者の姿は、刺激が強すぎるのだ。
「そう。わかったわ。その間、発散させればいいのね」
「……っは……、いい。もう……大丈夫だ。自分で、何とかする。……おいティト、部屋まで、肩貸してくれ……」
「ベイル、でもお前」
ヒルデガルドから勢いよく離れふらついたベイルを、ティトが慌てて掴む。大粒の汗を額に浮かべた大男は、どうしたって大丈夫そうには見えない。
「安心なさいベイル、わたくしがいるわ」
「──っ」
そう言うヒルデガルドの全身を目に映したベイルの喉元が、ごくりと音をたてて上下した。
きゅぅっと細められた瞳は熱を帯び、色欲が灯る。だがそれに耐えるように歯を食いしばり、握りしめた手のひらに血を滲ませた。
「ベイル」
まだ婚約段階ではあるけれど、例え子が宿ろうと問題はない。
第一王女がどれだけベイル・デルモンド侯爵に熱をあげていたのかは誰の目から見ても明らかだったし、国の英雄に面と向かって意見する者もいない。もしいるとしたら、そんなゴミはとっとと社会的に消えていただく所存である。
「っ、だめだ、ひとりで……何とかする。来るな。あんたに……酷いこと、しちまいそうで」
「忘れたの? わたくしを好きにできるのは、あなただけなのよ、ベイル」
できるだけ魅力的に見えるよう、瞬時に計算を開始する。
見上げる角度、彼の身体に押し付けて潰れる胸元、回した手は当然臀部を撫であげて、潤ませた空色の瞳は色っぽく、口づけをねだるようくちびるは少しだけ開く。
「ぐぅ……」
ベイルは獣のように低く唸り、天を仰ぎ目許を押さえてしまった。それでは渾身の誘惑ポーズが効かないではないか。
ヒルデガルドは臀に添えた手に力を込めて、グッと引き寄せた。
「いい加減になさいベイル。ひとりでどうにかするって、そんなことわたくしが許すわけないでしょう。そのオカズにした女をどうにかして見つけ出して、八つ裂きにしてやる」
「ひっ」
あまりの剣幕に小さく悲鳴をあげたのはティトだった。顔面を蒼白にして、カタカタと震えている。
「勘弁してくれ……女ったって、俺が反応すんの……あんたしかいないでしょうが」
「……ふんっ、どうだか」
そう言いながらも微かに頬を染めるヒルデガルドは、満更でもないらしい。
しかし本物がすぐ近くにいるというのに、ただの想像で完結されるのは面白くないわけで。
「ここのところ政務続きで、わたくしも溜まっているのよ。久々にふたりっきりになれる、最高の理由だとは思わない?」
身長差があるため耳打ちはできなかったけれど、ベイルにだけ聞こえるような声で囁き、妖艶に微笑んだ。
婚約発表をしてからお互いに目が回るほど忙しく、ゆっくり触れ合えていない。ここ、元魔国に来てもすれ違いの生活だったのだ。
「わたくしがあなたに抱かれたいって言っているのよ? ベイル」
「──っ、後悔、しないでくださいよ」
碧眼に欲望の色を揺らめかせ、ベイルはヒルデガルドを担ぎあげた。
「ちょっ……ベイル、あなた持ち方を考えなさい!」
「ティト、すまんが後は頼む」
「このわたくしを荷物みたいに……! っきゃぁあ!」
立つものままならない状態だったはずなのに、今やベイルはとんでもない速さで広い回廊を進む。
肩に担がれた状態のヒルデガルドは、落ちないようにと太い首にしがみついた。発達した増帽筋が逞しすぎて振り落とされる心配は皆無だったし、安定感抜群のベイルがヒルデガルドを落とすわけないのだが。そこはただくっついていたいだけのヒルデガルドが甘えるように擦り寄った結果である。
24
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる