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07 ベイルの想い

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 王国の正妃。


 その肩書きだけならば何らおかしいことはないだろう。
 ヒルデガルドは他国にまでその名声を広めた女勇者、ルーチェが守護するユーグランド王国の姫君。
 他国からすればその価値は計り知れない。ゆえに国母にと迎え入れ、ユーグランドとの繋がりを確固たるものにしたいとの思いも理解出来る。

 だが問題はそれじゃない。

「アスティルの、王は」
「ええ、御歳五十八。親子どころか、おじい様と言ったほうがいいほど離れているわよね」

 くちびるに吐息がかかる距離で、ヒルデガルドはベイルから視線を外す。

「前王妃は随分と前にお亡くなりになっているから後妻よ。王太子殿下はご息災で、公務の殆どを担っているというお話だし。わたくしは……ま、ただのお飾りね」
「そんな……!」

 そんな相手に嫁がせるために、今まで突き放してきたわけじゃない。
 年相応の、美しく成長したヒルデガルドと並んでも遜色のない貴公子と結婚して愛を育んで。どこぞの領地で領主さながら采配を振って領民から慕われて。
 そうやって、穏やかな幸せを積み重ねられるよう神からの祝福を授けたはずなのに。

 ──姫様を排除しようとする動きがあってもおかしくない。
 ルーチェの言葉が痛いほど胸に突き刺さる。

 ──真に大切なものは、手元に置いておかなければ。
 ……大事だからと、手放そうとした結果がこのザマだ。

 青ざめ動けずにいるベイルに、ヒルデガルドはそっと口づける。抵抗なんて、できなかった。

「嫁ぐなんて形だけよ。あのお年で、わたくしをどうこうするわけないわ。万が一にもお子なんて授かれば、余計な火種でしかないもの。だから純潔なんて必要ない。……ねぇベイル。わたくしは、あなたの手で女にされたいの」

 喉が渇いて仕方がない。
 長い沈黙の後、絞り出した声は低く、掠れていた。

「…………後悔は」
「するわけない。今、抱かれないことのほうが後悔する」

 その返事を最後まで聞かず、ベイルはヒルデガルドの形の良いくちびるに噛みついた。

「ん……っふ、ぁ……」

 そのまま緩んだくちびるを割り入って、分厚い舌で口内をねぶる。小柄なヒルデガルドは顔の造りも小さい。およそ食べてしまうような錯覚を起こしながらも、ベイルについてこようとする健気な舌先を擽った。

「んっ、んんっ……は、ぁ」

 いつの間にかベイルは彼女の小さな身体を抱えるように腕を回していた。深く激しい口づけは勢いを増し、到底キスだなんて呼べる可愛らしいものではなくなっていく。飢えた戦場で水を求めるがごとく、野性味を帯びた舌先は小さな口内を存分に蹂躙するのだ。

「ふ……ぁっ」

 熱く瞳を潤ませて、時折鼻から抜ける吐息が艶めかしい。ヒルデガルドはベイルの短い金髪に指を絡め、絶対に離さないとでも言いたげに強く強く握りしめる。痛みすら感じるその行為は彼女の余裕のなさを表しているようで、ベイルは堪らずにヒルデガルドを掻き抱いた。

「んぅっ! は、ぁ……ベイル……」
「……蕩けた顔しちゃって。そんなに良かったですか? でも姫さん、まだまだこんなもんじゃないですよ」
「え……? んぁっ!」

 ヒルデガルドをそのまま持ち上げると、大柄のベイルが何度も寝返りをうてるほどの広いベッドの中央に縫い付けた。そうして身体を起こし、彼女の姿を上から食い入るように見つめる。
 ベイルを挑発しようと自ら進んで着てきたとはいえ、あられもない下着姿だ。女性であれば誰だって恥じ入ってしまう状況だろうが、ヒルデガルドは違う。ベイルの視線を受け自信たっぷりに微笑んで、もっと見てくれと艶やかに肩ひもをずらすのだ。
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