7 / 40
07 ベイルの想い
しおりを挟む
王国の正妃。
その肩書きだけならば何らおかしいことはないだろう。
ヒルデガルドは他国にまでその名声を広めた女勇者、ルーチェが守護するユーグランド王国の姫君。
他国からすればその価値は計り知れない。ゆえに国母にと迎え入れ、ユーグランドとの繋がりを確固たるものにしたいとの思いも理解出来る。
だが問題はそれじゃない。
「アスティルの、王は」
「ええ、御歳五十八。親子どころか、おじい様と言ったほうがいいほど離れているわよね」
くちびるに吐息がかかる距離で、ヒルデガルドはベイルから視線を外す。
「前王妃は随分と前にお亡くなりになっているから後妻よ。王太子殿下はご息災で、公務の殆どを担っているというお話だし。わたくしは……ま、ただのお飾りね」
「そんな……!」
そんな相手に嫁がせるために、今まで突き放してきたわけじゃない。
年相応の、美しく成長したヒルデガルドと並んでも遜色のない貴公子と結婚して愛を育んで。どこぞの領地で領主さながら采配を振って領民から慕われて。
そうやって、穏やかな幸せを積み重ねられるよう神からの祝福を授けたはずなのに。
──姫様を排除しようとする動きがあってもおかしくない。
ルーチェの言葉が痛いほど胸に突き刺さる。
──真に大切なものは、手元に置いておかなければ。
……大事だからと、手放そうとした結果がこのザマだ。
青ざめ動けずにいるベイルに、ヒルデガルドはそっと口づける。抵抗なんて、できなかった。
「嫁ぐなんて形だけよ。あのお年で、わたくしをどうこうするわけないわ。万が一にもお子なんて授かれば、余計な火種でしかないもの。だから純潔なんて必要ない。……ねぇベイル。わたくしは、あなたの手で女にされたいの」
喉が渇いて仕方がない。
長い沈黙の後、絞り出した声は低く、掠れていた。
「…………後悔は」
「するわけない。今、抱かれないことのほうが後悔する」
その返事を最後まで聞かず、ベイルはヒルデガルドの形の良いくちびるに噛みついた。
「ん……っふ、ぁ……」
そのまま緩んだくちびるを割り入って、分厚い舌で口内を舐る。小柄なヒルデガルドは顔の造りも小さい。およそ食べてしまうような錯覚を起こしながらも、ベイルについてこようとする健気な舌先を擽った。
「んっ、んんっ……は、ぁ」
いつの間にかベイルは彼女の小さな身体を抱えるように腕を回していた。深く激しい口づけは勢いを増し、到底キスだなんて呼べる可愛らしいものではなくなっていく。飢えた戦場で水を求めるがごとく、野性味を帯びた舌先は小さな口内を存分に蹂躙するのだ。
「ふ……ぁっ」
熱く瞳を潤ませて、時折鼻から抜ける吐息が艶めかしい。ヒルデガルドはベイルの短い金髪に指を絡め、絶対に離さないとでも言いたげに強く強く握りしめる。痛みすら感じるその行為は彼女の余裕のなさを表しているようで、ベイルは堪らずにヒルデガルドを掻き抱いた。
「んぅっ! は、ぁ……ベイル……」
「……蕩けた顔しちゃって。そんなに良かったですか? でも姫さん、まだまだこんなもんじゃないですよ」
「え……? んぁっ!」
ヒルデガルドをそのまま持ち上げると、大柄のベイルが何度も寝返りをうてるほどの広いベッドの中央に縫い付けた。そうして身体を起こし、彼女の姿を上から食い入るように見つめる。
ベイルを挑発しようと自ら進んで着てきたとはいえ、あられもない下着姿だ。女性であれば誰だって恥じ入ってしまう状況だろうが、ヒルデガルドは違う。ベイルの視線を受け自信たっぷりに微笑んで、もっと見てくれと艶やかに肩ひもをずらすのだ。
その肩書きだけならば何らおかしいことはないだろう。
ヒルデガルドは他国にまでその名声を広めた女勇者、ルーチェが守護するユーグランド王国の姫君。
他国からすればその価値は計り知れない。ゆえに国母にと迎え入れ、ユーグランドとの繋がりを確固たるものにしたいとの思いも理解出来る。
だが問題はそれじゃない。
「アスティルの、王は」
「ええ、御歳五十八。親子どころか、おじい様と言ったほうがいいほど離れているわよね」
くちびるに吐息がかかる距離で、ヒルデガルドはベイルから視線を外す。
「前王妃は随分と前にお亡くなりになっているから後妻よ。王太子殿下はご息災で、公務の殆どを担っているというお話だし。わたくしは……ま、ただのお飾りね」
「そんな……!」
そんな相手に嫁がせるために、今まで突き放してきたわけじゃない。
年相応の、美しく成長したヒルデガルドと並んでも遜色のない貴公子と結婚して愛を育んで。どこぞの領地で領主さながら采配を振って領民から慕われて。
そうやって、穏やかな幸せを積み重ねられるよう神からの祝福を授けたはずなのに。
──姫様を排除しようとする動きがあってもおかしくない。
ルーチェの言葉が痛いほど胸に突き刺さる。
──真に大切なものは、手元に置いておかなければ。
……大事だからと、手放そうとした結果がこのザマだ。
青ざめ動けずにいるベイルに、ヒルデガルドはそっと口づける。抵抗なんて、できなかった。
「嫁ぐなんて形だけよ。あのお年で、わたくしをどうこうするわけないわ。万が一にもお子なんて授かれば、余計な火種でしかないもの。だから純潔なんて必要ない。……ねぇベイル。わたくしは、あなたの手で女にされたいの」
喉が渇いて仕方がない。
長い沈黙の後、絞り出した声は低く、掠れていた。
「…………後悔は」
「するわけない。今、抱かれないことのほうが後悔する」
その返事を最後まで聞かず、ベイルはヒルデガルドの形の良いくちびるに噛みついた。
「ん……っふ、ぁ……」
そのまま緩んだくちびるを割り入って、分厚い舌で口内を舐る。小柄なヒルデガルドは顔の造りも小さい。およそ食べてしまうような錯覚を起こしながらも、ベイルについてこようとする健気な舌先を擽った。
「んっ、んんっ……は、ぁ」
いつの間にかベイルは彼女の小さな身体を抱えるように腕を回していた。深く激しい口づけは勢いを増し、到底キスだなんて呼べる可愛らしいものではなくなっていく。飢えた戦場で水を求めるがごとく、野性味を帯びた舌先は小さな口内を存分に蹂躙するのだ。
「ふ……ぁっ」
熱く瞳を潤ませて、時折鼻から抜ける吐息が艶めかしい。ヒルデガルドはベイルの短い金髪に指を絡め、絶対に離さないとでも言いたげに強く強く握りしめる。痛みすら感じるその行為は彼女の余裕のなさを表しているようで、ベイルは堪らずにヒルデガルドを掻き抱いた。
「んぅっ! は、ぁ……ベイル……」
「……蕩けた顔しちゃって。そんなに良かったですか? でも姫さん、まだまだこんなもんじゃないですよ」
「え……? んぁっ!」
ヒルデガルドをそのまま持ち上げると、大柄のベイルが何度も寝返りをうてるほどの広いベッドの中央に縫い付けた。そうして身体を起こし、彼女の姿を上から食い入るように見つめる。
ベイルを挑発しようと自ら進んで着てきたとはいえ、あられもない下着姿だ。女性であれば誰だって恥じ入ってしまう状況だろうが、ヒルデガルドは違う。ベイルの視線を受け自信たっぷりに微笑んで、もっと見てくれと艶やかに肩ひもをずらすのだ。
27
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる