【R18】どう見てもついて行ってはいけない系のお兄さんにペロッと食べられてしまった私の顛末

レイラ

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本編

03 あやめと藤

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「でもそれ、今来たばっかりの飲みもんやろ? 他人ひとにぶっかけといて、そのまま帰るんやぁ? ちょっとでも悪いと思ってるんやったら、俺に付き合ってくれへん?」
「────っ」

 こくこくと、瞳に涙を浮かべながら頷いてしまう。
 一体、これからどうされてしまうのだろう。下手に刺激するのも悪手だろうかと、あやめは回らぬ頭で考える。

「そんなビビらんでもええって! 取って食うわけちゃうし~! ほら、この子も頷いとるやろ、もう先帰っとけって。お前のその輩みたいなツラ見せられてたら女の子怖がんねん。声もでかいし」

 そう連れの男にシッシッと追い払うように手を振ると、その人は呆れたように大きなため息をつき、ふたりに背を向けた。

「はいはい、わかりました! もう好きにしてくださいよ……じゃあまた、なんかあったら連絡するんで」
「おー、お疲れさん」

 そんなやり取りの後で、隣に陣取った男は改めてあやめに顔を向ける。

「ほんで? あっ、まだ名前も聞いてなかったな。俺は藤。お姉ちゃんは?」
「えっ、あ。あやめって言います……」

 か細く答えると、藤はにぃっと笑い、いつの間にか届いていたビールを手に取った。

「あやめちゃん! 可愛い名前やなぁ。お花の名前て俺と一緒やん。ほら乾杯しよ」

 かんぱーい! とグラスを合わせてから、藤は何かに気づきあやめのドリンクを掴む。半分ほど減ってしまった、佳菜子の頼んだコークハイ。

「ちょっと待ち。これ、さっきこぼしたやつやろ。俺のと変えたろか? あやめちゃんが頼んだやつとちゃうんやろ?」
「えっ?」
「だってそっちにビール、まだちょっとだけ残ってるもん。ほんまはビール党やったりして」

 言い当てられて、ドキッとした。
 藤の言う通り、あやめは甘ったるいお酒よりも、のど越しの良いビールを好んでいる。
 だがそれも会社の飲み会で揶揄われたことのある、あやめの恥部だった。
 どうやら若い女性というものは、甘いカクテルや果実酒を好まなければならないらしい。
 だから藤もきっと何か言ってくるに違いない。そう思い、あやめは身構えたのだが。

「そらなぁ、こんなとこ居酒屋で飲むんやったらビールが正解よ。コークハイに合うんとか、ピザだけやで」

 そう言って、藤は笑いながらあやめからグラスを取り上げる。そして代わりにキンと冷えたビールを握らせた。

「ほな改めて。かんぱーい」
「ぁっ、ありがとうございます……でもせっかく……えっと、藤さん、が頼んだお酒なのに」
「ん、そんなんええねん、飲み飲み! これやって、あやめちゃんが頼んだんちゃうんやろ? お兄さん、さっきの連れとええほど飲んできたからな、デザートにちょうどええわ」

 ニカッっと屈託のない笑顔を向けられて、大人の男性に耐性のないあやめは軽率にときめいてしまう。
 あやめとは縁のなさそうな……有り体に言ってしまえば、裏の社会に精通していそうな危険な男。そんな人から向けられた気遣いとまさかの笑顔に、一気にあやめの警戒が緩む。

「あの……実は好きなんですビール。家では太っちゃうし飲まないようにしてるんですけど、外食の時は特別で」
「わかる! 仕事終わりのビールってめっちゃ旨いやんなー! ってあやめちゃん全然太ってないから気にせんときー。ほら、指とかめっちゃ細いやん」

 グラスに添えていたあやめの指先を、藤の人差し指が撫でる。短く切り揃えられた彼の爪には、黒くて艶のあるネイルが施されていた。
 藤の指はあやめと違い筋くれだっていて大きくて、嫌でも彼が大人の男であることを意識してしまう。
 すぐに離れて行った指先にドキドキしながら、あやめは曖昧に笑みを浮かべた。だが藤はさして気にした様子もなく、話を続ける。

「なーんかあやめちゃんて色々溜め込んでそうやんな。俺でよかったら話聞くで。力には……なれるかどうかわからんけど。まぁ話すだけで気ぃ楽になる言うし、お兄さんに話してみ?」

 藤は一気にグラスを煽り、店員を呼び止めると、もう一杯コークハイを注文した。
 そして頬杖をつき、あやめにそう告げる。

「いえ、別にそんな」
「愚痴なんてな、俺みたいなやつに言うんが一番ええんやで。もう二度と会うこともないやろうし気軽やろ。共通の知り合いとかもおらんしな」
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