11 / 18
二年前の話
02 わるだくみ
しおりを挟む
「……でもさ、これから水瀬も大変だね」
「え? 私が? なんで?」
その言葉の意味を掴めずに首を傾ける私に、彼女は眉を寄せる。
「だって、あの黒戸さんがフリーになったんだよ? 今まで彼女持ちだからって遠巻きに見てた水瀬みたいな子達がさ、一斉に狙うんじゃないの?」
「……ほんとだ……」
情報量が多すぎて呆然と立ちすくむ私を心配してか、紺野は明るく私の背中を叩く。
「いや、でもその中でも水瀬は飛び抜けてるよ。女の私から見てもそう思うもん」
「……それは知ってる」
「そうそう、アンタはそうでなくっちゃね」
ホッと安堵する紺野に、濁った目を向ける。
「でもさ、私こんなだもん。あのひとと正反対だよ。先輩のタイプと真逆じゃん……」
スタイルが良いと言えば聞こえがいいが、背が高くて威圧感がある。目鼻立ちはハッキリとしていて、多分、なんていうか、強そうな女だと思う。
「やー……うん。まぁ、紀之里さんとは違うタイプだけど、黒戸さんのタイプがあの人だったかどうかはわからないし」
「…………」
「どうしちゃったの? 水瀬らしくないじゃん! 別れたら絶対落とすっていつも言ってたのに」
「……あ、ごめん、どうするか考えてた」
紺野は心配そうに私を覗き込んでいたけれど、私の言葉を聞いて片眉を上げる。
「どうするかって?」
「先輩に群がるであろう女どもは私がどうにかしないとね。部内にはすぐに話をつけるとして、他は……そうね、男に色目を使いそうなお姉様方には、他に素敵な男性を紹介しようかな」
思い立ったが吉日。すぐにスマホを取り出して、パタパタとタップする。
顔の広い弟がいるから、それなりのメンツをリストアップしておいてくれと指示をする。若干シスコン気味の可愛い弟は、多少の無理も聞いてくれるだろう。
「なにそれ私もお願いしたい」
「もちろんよ。これから、紺野には色々と無理言ったりお世話になるからね」
にっこりと笑うと、目の前の彼女はとても楽しそうに口角を上げた。
「そんな面倒……って他の子になら言うけど。私と水瀬の仲だもんね、やっっっっっと好きな男とどうにかなれるチャンスが巡ってきた水瀬チャンに、この私が力を貸してあげよう」
「ありがとう~! 持つべきものは情報通の親友だよね。今度奢るわ」
「任せなよ。あと水瀬が黒戸さんに本気だって話広めとく。……って言っても元々知られてると思うけどね、牽制にはなるでしょ」
「めちゃくちゃ助かる……ほんとありがとね。ごめんだけど、先輩も気になるしもう行くわ」
手早くスマホをバッグにしまい、長い髪を靡かせて、給湯室を後にした。
──髪、切ろうかな。
ガラス窓に写った自分を見て、考える。
少しウェーブがかった、柔らかな長い髪。紀之里がそうだから、先輩は長い髪が好きなんだと勝手に解釈して伸ばしていたけれど、あの女を思わせるような要素はもういらない。
週末の予定を頭で組み立てながら、営業部の扉に手をかける。息を吸って吐いて、何も知らないふりをして、いつも通りの笑顔を貼り付けた。
「え? 私が? なんで?」
その言葉の意味を掴めずに首を傾ける私に、彼女は眉を寄せる。
「だって、あの黒戸さんがフリーになったんだよ? 今まで彼女持ちだからって遠巻きに見てた水瀬みたいな子達がさ、一斉に狙うんじゃないの?」
「……ほんとだ……」
情報量が多すぎて呆然と立ちすくむ私を心配してか、紺野は明るく私の背中を叩く。
「いや、でもその中でも水瀬は飛び抜けてるよ。女の私から見てもそう思うもん」
「……それは知ってる」
「そうそう、アンタはそうでなくっちゃね」
ホッと安堵する紺野に、濁った目を向ける。
「でもさ、私こんなだもん。あのひとと正反対だよ。先輩のタイプと真逆じゃん……」
スタイルが良いと言えば聞こえがいいが、背が高くて威圧感がある。目鼻立ちはハッキリとしていて、多分、なんていうか、強そうな女だと思う。
「やー……うん。まぁ、紀之里さんとは違うタイプだけど、黒戸さんのタイプがあの人だったかどうかはわからないし」
「…………」
「どうしちゃったの? 水瀬らしくないじゃん! 別れたら絶対落とすっていつも言ってたのに」
「……あ、ごめん、どうするか考えてた」
紺野は心配そうに私を覗き込んでいたけれど、私の言葉を聞いて片眉を上げる。
「どうするかって?」
「先輩に群がるであろう女どもは私がどうにかしないとね。部内にはすぐに話をつけるとして、他は……そうね、男に色目を使いそうなお姉様方には、他に素敵な男性を紹介しようかな」
思い立ったが吉日。すぐにスマホを取り出して、パタパタとタップする。
顔の広い弟がいるから、それなりのメンツをリストアップしておいてくれと指示をする。若干シスコン気味の可愛い弟は、多少の無理も聞いてくれるだろう。
「なにそれ私もお願いしたい」
「もちろんよ。これから、紺野には色々と無理言ったりお世話になるからね」
にっこりと笑うと、目の前の彼女はとても楽しそうに口角を上げた。
「そんな面倒……って他の子になら言うけど。私と水瀬の仲だもんね、やっっっっっと好きな男とどうにかなれるチャンスが巡ってきた水瀬チャンに、この私が力を貸してあげよう」
「ありがとう~! 持つべきものは情報通の親友だよね。今度奢るわ」
「任せなよ。あと水瀬が黒戸さんに本気だって話広めとく。……って言っても元々知られてると思うけどね、牽制にはなるでしょ」
「めちゃくちゃ助かる……ほんとありがとね。ごめんだけど、先輩も気になるしもう行くわ」
手早くスマホをバッグにしまい、長い髪を靡かせて、給湯室を後にした。
──髪、切ろうかな。
ガラス窓に写った自分を見て、考える。
少しウェーブがかった、柔らかな長い髪。紀之里がそうだから、先輩は長い髪が好きなんだと勝手に解釈して伸ばしていたけれど、あの女を思わせるような要素はもういらない。
週末の予定を頭で組み立てながら、営業部の扉に手をかける。息を吸って吐いて、何も知らないふりをして、いつも通りの笑顔を貼り付けた。
2
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる