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二年前の話
02 わるだくみ
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「……でもさ、これから水瀬も大変だね」
「え? 私が? なんで?」
その言葉の意味を掴めずに首を傾ける私に、彼女は眉を寄せる。
「だって、あの黒戸さんがフリーになったんだよ? 今まで彼女持ちだからって遠巻きに見てた水瀬みたいな子達がさ、一斉に狙うんじゃないの?」
「……ほんとだ……」
情報量が多すぎて呆然と立ちすくむ私を心配してか、紺野は明るく私の背中を叩く。
「いや、でもその中でも水瀬は飛び抜けてるよ。女の私から見てもそう思うもん」
「……それは知ってる」
「そうそう、アンタはそうでなくっちゃね」
ホッと安堵する紺野に、濁った目を向ける。
「でもさ、私こんなだもん。あのひとと正反対だよ。先輩のタイプと真逆じゃん……」
スタイルが良いと言えば聞こえがいいが、背が高くて威圧感がある。目鼻立ちはハッキリとしていて、多分、なんていうか、強そうな女だと思う。
「やー……うん。まぁ、紀之里さんとは違うタイプだけど、黒戸さんのタイプがあの人だったかどうかはわからないし」
「…………」
「どうしちゃったの? 水瀬らしくないじゃん! 別れたら絶対落とすっていつも言ってたのに」
「……あ、ごめん、どうするか考えてた」
紺野は心配そうに私を覗き込んでいたけれど、私の言葉を聞いて片眉を上げる。
「どうするかって?」
「先輩に群がるであろう女どもは私がどうにかしないとね。部内にはすぐに話をつけるとして、他は……そうね、男に色目を使いそうなお姉様方には、他に素敵な男性を紹介しようかな」
思い立ったが吉日。すぐにスマホを取り出して、パタパタとタップする。
顔の広い弟がいるから、それなりのメンツをリストアップしておいてくれと指示をする。若干シスコン気味の可愛い弟は、多少の無理も聞いてくれるだろう。
「なにそれ私もお願いしたい」
「もちろんよ。これから、紺野には色々と無理言ったりお世話になるからね」
にっこりと笑うと、目の前の彼女はとても楽しそうに口角を上げた。
「そんな面倒……って他の子になら言うけど。私と水瀬の仲だもんね、やっっっっっと好きな男とどうにかなれるチャンスが巡ってきた水瀬チャンに、この私が力を貸してあげよう」
「ありがとう~! 持つべきものは情報通の親友だよね。今度奢るわ」
「任せなよ。あと水瀬が黒戸さんに本気だって話広めとく。……って言っても元々知られてると思うけどね、牽制にはなるでしょ」
「めちゃくちゃ助かる……ほんとありがとね。ごめんだけど、先輩も気になるしもう行くわ」
手早くスマホをバッグにしまい、長い髪を靡かせて、給湯室を後にした。
──髪、切ろうかな。
ガラス窓に写った自分を見て、考える。
少しウェーブがかった、柔らかな長い髪。紀之里がそうだから、先輩は長い髪が好きなんだと勝手に解釈して伸ばしていたけれど、あの女を思わせるような要素はもういらない。
週末の予定を頭で組み立てながら、営業部の扉に手をかける。息を吸って吐いて、何も知らないふりをして、いつも通りの笑顔を貼り付けた。
「え? 私が? なんで?」
その言葉の意味を掴めずに首を傾ける私に、彼女は眉を寄せる。
「だって、あの黒戸さんがフリーになったんだよ? 今まで彼女持ちだからって遠巻きに見てた水瀬みたいな子達がさ、一斉に狙うんじゃないの?」
「……ほんとだ……」
情報量が多すぎて呆然と立ちすくむ私を心配してか、紺野は明るく私の背中を叩く。
「いや、でもその中でも水瀬は飛び抜けてるよ。女の私から見てもそう思うもん」
「……それは知ってる」
「そうそう、アンタはそうでなくっちゃね」
ホッと安堵する紺野に、濁った目を向ける。
「でもさ、私こんなだもん。あのひとと正反対だよ。先輩のタイプと真逆じゃん……」
スタイルが良いと言えば聞こえがいいが、背が高くて威圧感がある。目鼻立ちはハッキリとしていて、多分、なんていうか、強そうな女だと思う。
「やー……うん。まぁ、紀之里さんとは違うタイプだけど、黒戸さんのタイプがあの人だったかどうかはわからないし」
「…………」
「どうしちゃったの? 水瀬らしくないじゃん! 別れたら絶対落とすっていつも言ってたのに」
「……あ、ごめん、どうするか考えてた」
紺野は心配そうに私を覗き込んでいたけれど、私の言葉を聞いて片眉を上げる。
「どうするかって?」
「先輩に群がるであろう女どもは私がどうにかしないとね。部内にはすぐに話をつけるとして、他は……そうね、男に色目を使いそうなお姉様方には、他に素敵な男性を紹介しようかな」
思い立ったが吉日。すぐにスマホを取り出して、パタパタとタップする。
顔の広い弟がいるから、それなりのメンツをリストアップしておいてくれと指示をする。若干シスコン気味の可愛い弟は、多少の無理も聞いてくれるだろう。
「なにそれ私もお願いしたい」
「もちろんよ。これから、紺野には色々と無理言ったりお世話になるからね」
にっこりと笑うと、目の前の彼女はとても楽しそうに口角を上げた。
「そんな面倒……って他の子になら言うけど。私と水瀬の仲だもんね、やっっっっっと好きな男とどうにかなれるチャンスが巡ってきた水瀬チャンに、この私が力を貸してあげよう」
「ありがとう~! 持つべきものは情報通の親友だよね。今度奢るわ」
「任せなよ。あと水瀬が黒戸さんに本気だって話広めとく。……って言っても元々知られてると思うけどね、牽制にはなるでしょ」
「めちゃくちゃ助かる……ほんとありがとね。ごめんだけど、先輩も気になるしもう行くわ」
手早くスマホをバッグにしまい、長い髪を靡かせて、給湯室を後にした。
──髪、切ろうかな。
ガラス窓に写った自分を見て、考える。
少しウェーブがかった、柔らかな長い髪。紀之里がそうだから、先輩は長い髪が好きなんだと勝手に解釈して伸ばしていたけれど、あの女を思わせるような要素はもういらない。
週末の予定を頭で組み立てながら、営業部の扉に手をかける。息を吸って吐いて、何も知らないふりをして、いつも通りの笑顔を貼り付けた。
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