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本編
09 水瀬の秘密
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気怠い身体で寝返りをうち、そろそろと目を開ける。
すると、長年想いを寄せていた男がこちらに顔を向け、長い睫毛に縁取られた目を瞑り、寝息をたてていた。
鈍い腰の痛みと、素肌を滑るシーツの感覚に、水瀬は昨夜の出来事が夢ではなかったのだと、一気に身体に熱をもつ。
「はぁ……先輩、寝顔もカッコイイ……」
うっとりとそう呟いて、一度触れるだけのキスをした。
このまま黒戸が起きるまで眺めていたかったけど、顔も身体も酷い有様で、到底付き合いたての恋人に見せられるような状態ではない事に気づく。
後ろ髪を引かれながらもベッドを後にすると、バッグからポーチをふたつ取り出して、シャワールームの扉を開けた。
頭からシャワーを浴びて、昨夜の名残を洗い流す。胸に散らされた無数の紅い花びらを目にすると、それだけで昨夜の情事を思い出し、とろりとなにかが滴った。
ずっと、ずっと好きだった。
何がきっかけだったかなんて、大して重要じゃない。
仕事でやらかしてしまった時、皆の前で些細なことだと笑い飛ばして場の雰囲気を和らげてくれたりとか、元来勘違いされがちの派手な見た目である水瀬を、さり気なく男たちから避けてくれたりだとか。そんな、ちょっとしたことの積み重ねだ。
そもそもいやらしい目で見てこないような人だったから、惹かれたのだと思う。
外堀から埋めていくのには、大概骨が折れた。
彼は勘違いしているようだったけれど、営業部のエースで清潔感溢れる好青年の黒戸は、社内外問わず人気だし、彼女と別れた二年前はまるで飢えた肉食獣の群れに兎が迷い込んだが如く、いつ誰に美味しくいただかれてもおかしくはなかった。
それを水瀬が裏で手を回し、ある時には女性陣にハイスペックな合コンをセッティングし、またある時には話し合い話し合いを行って平和的に解決し、課内では面倒見の良い上司に、酒の席で涙ながらに相談と称して協力をお願いした。
その甲斐あって、二年以上も拗らせた想いを向ける水瀬を、今では皆応援してくれているのだ。
そんな中降って湧いた出張の話。
公私混同は黒戸の一番嫌がるとこではあるが、もうそんな事を言っていられる時期はとうに過ぎている。
この好機を逃すまいと、すぐに駅前のホテルを予約して、入念にシミュレーションした。
仕事は黒戸のことだから当然上手くいくと確信していたし、駅から離れた居酒屋にも無事誘導できた。そこでしこたま飲ませて終電をギリギリで逃し、こうやってホテルへ連れ込む事に成功したのだ。
キュッとシャワーを止めて、バスタオルを身体に巻き付ける。髪を拭きながら脱衣所のゴミ箱に目を落とすと、黒戸が捨てた缶が転がっていた。
「ごめんね、先輩」
昨夜ウコンと称して渡したものは、水瀬が用意したマカ、所謂精力剤だった。この日のために、超強力だという触れ込みのものを用意したのだが、効果は期待以上だった。
身体が熱いのだと水瀬を求める愛しい人の姿はいっそ煽情的で、一生忘れることはないだろう。
正直、全てがこんなに上手くいくとは思っていなかった。
……無理やりであったことは自覚しているのだが。
髪を乾かし軽く化粧をして、もう一度ベッドへ潜り込む。
当然タオルはその辺に投げ捨てて、横を向いて眠る黒戸の胸に頬を寄せ、抱きしめた。
「んー……?」
「あっ、ごめんなさい、起こしちゃいました? お昼までチェックアウト延長できたんで、まだ時間ありますよ」
「ん……、ぁりがと……なんか、いーにおいする……」
黒戸は寝ぼけながら水瀬を引き寄せて、髪に顔を埋めてそんなことを言う。その言葉で水瀬がどうなるのか、彼は全く気づいていない。けれども自分の発言にはきっちりと責任を持てもらわねば。
「私はもう絶対、離しませんからね、先輩」
落としたのは身体からだったけれど、相性は抜群だった。大抵のことはどうにかなるし、してみせる。情に厚く面倒見の良い黒戸だから、共に過ごすうちに今の水瀬に対する想いが愛情に変わるのに、そう時間はかからないだろう。
もぞもぞと身体を動かし脚を絡め、密着する。
眠れないからとキスをすると、少し嫌がられてしまった。
「ひどいなぁ」
苦笑交じりにそう呟くと、くるりとひっくり返されて、後ろから抱きしめられた。
「お前がまだ時間あるって言ったんだろ。飲みすぎてヤりすぎて頭痛い……もうちょっと寝かせて」
そう言いながらも、臀にナニがぐりぐりと押し付けられていることに、水瀬は気づいている。朝だからね。
「ダメですよ先輩、会話しちゃったんで、起きてください。新幹線では寝てていいんで。今ちょっとだけ、構って」
緩い抵抗を見せる黒戸の手を取って口に含み、丁寧に舌を這わせた。ぴくりと反応を見せる黒戸に、思わず水瀬の頬が緩む。
「もう、先輩のえっち♡」
その後しっかり食べたのか、食べられたのか。
休み明けの社内がどう盛り上がったのか。
黒戸の与り知らぬところでまた次の策略が張り巡らされていくのだが、それはまた、別のお話。
すると、長年想いを寄せていた男がこちらに顔を向け、長い睫毛に縁取られた目を瞑り、寝息をたてていた。
鈍い腰の痛みと、素肌を滑るシーツの感覚に、水瀬は昨夜の出来事が夢ではなかったのだと、一気に身体に熱をもつ。
「はぁ……先輩、寝顔もカッコイイ……」
うっとりとそう呟いて、一度触れるだけのキスをした。
このまま黒戸が起きるまで眺めていたかったけど、顔も身体も酷い有様で、到底付き合いたての恋人に見せられるような状態ではない事に気づく。
後ろ髪を引かれながらもベッドを後にすると、バッグからポーチをふたつ取り出して、シャワールームの扉を開けた。
頭からシャワーを浴びて、昨夜の名残を洗い流す。胸に散らされた無数の紅い花びらを目にすると、それだけで昨夜の情事を思い出し、とろりとなにかが滴った。
ずっと、ずっと好きだった。
何がきっかけだったかなんて、大して重要じゃない。
仕事でやらかしてしまった時、皆の前で些細なことだと笑い飛ばして場の雰囲気を和らげてくれたりとか、元来勘違いされがちの派手な見た目である水瀬を、さり気なく男たちから避けてくれたりだとか。そんな、ちょっとしたことの積み重ねだ。
そもそもいやらしい目で見てこないような人だったから、惹かれたのだと思う。
外堀から埋めていくのには、大概骨が折れた。
彼は勘違いしているようだったけれど、営業部のエースで清潔感溢れる好青年の黒戸は、社内外問わず人気だし、彼女と別れた二年前はまるで飢えた肉食獣の群れに兎が迷い込んだが如く、いつ誰に美味しくいただかれてもおかしくはなかった。
それを水瀬が裏で手を回し、ある時には女性陣にハイスペックな合コンをセッティングし、またある時には話し合い話し合いを行って平和的に解決し、課内では面倒見の良い上司に、酒の席で涙ながらに相談と称して協力をお願いした。
その甲斐あって、二年以上も拗らせた想いを向ける水瀬を、今では皆応援してくれているのだ。
そんな中降って湧いた出張の話。
公私混同は黒戸の一番嫌がるとこではあるが、もうそんな事を言っていられる時期はとうに過ぎている。
この好機を逃すまいと、すぐに駅前のホテルを予約して、入念にシミュレーションした。
仕事は黒戸のことだから当然上手くいくと確信していたし、駅から離れた居酒屋にも無事誘導できた。そこでしこたま飲ませて終電をギリギリで逃し、こうやってホテルへ連れ込む事に成功したのだ。
キュッとシャワーを止めて、バスタオルを身体に巻き付ける。髪を拭きながら脱衣所のゴミ箱に目を落とすと、黒戸が捨てた缶が転がっていた。
「ごめんね、先輩」
昨夜ウコンと称して渡したものは、水瀬が用意したマカ、所謂精力剤だった。この日のために、超強力だという触れ込みのものを用意したのだが、効果は期待以上だった。
身体が熱いのだと水瀬を求める愛しい人の姿はいっそ煽情的で、一生忘れることはないだろう。
正直、全てがこんなに上手くいくとは思っていなかった。
……無理やりであったことは自覚しているのだが。
髪を乾かし軽く化粧をして、もう一度ベッドへ潜り込む。
当然タオルはその辺に投げ捨てて、横を向いて眠る黒戸の胸に頬を寄せ、抱きしめた。
「んー……?」
「あっ、ごめんなさい、起こしちゃいました? お昼までチェックアウト延長できたんで、まだ時間ありますよ」
「ん……、ぁりがと……なんか、いーにおいする……」
黒戸は寝ぼけながら水瀬を引き寄せて、髪に顔を埋めてそんなことを言う。その言葉で水瀬がどうなるのか、彼は全く気づいていない。けれども自分の発言にはきっちりと責任を持てもらわねば。
「私はもう絶対、離しませんからね、先輩」
落としたのは身体からだったけれど、相性は抜群だった。大抵のことはどうにかなるし、してみせる。情に厚く面倒見の良い黒戸だから、共に過ごすうちに今の水瀬に対する想いが愛情に変わるのに、そう時間はかからないだろう。
もぞもぞと身体を動かし脚を絡め、密着する。
眠れないからとキスをすると、少し嫌がられてしまった。
「ひどいなぁ」
苦笑交じりにそう呟くと、くるりとひっくり返されて、後ろから抱きしめられた。
「お前がまだ時間あるって言ったんだろ。飲みすぎてヤりすぎて頭痛い……もうちょっと寝かせて」
そう言いながらも、臀にナニがぐりぐりと押し付けられていることに、水瀬は気づいている。朝だからね。
「ダメですよ先輩、会話しちゃったんで、起きてください。新幹線では寝てていいんで。今ちょっとだけ、構って」
緩い抵抗を見せる黒戸の手を取って口に含み、丁寧に舌を這わせた。ぴくりと反応を見せる黒戸に、思わず水瀬の頬が緩む。
「もう、先輩のえっち♡」
その後しっかり食べたのか、食べられたのか。
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