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本編
01 なんで同室?
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302
渡されたカードキーと同じ番号の部屋の前に立ち、黒戸はなぜか後ろにピッタリと付いてきている水瀬を振り返る。
「えーっと、俺はこれで。お前の部屋は……隣か?……あ、そうだ、明日は休みだし、ゆっくり帰るわ。こっからは別行動って事で」
じゃ、と背を向けてカードをかざす。
ピッと短い電子音が聞こえた直後、黒戸がドアノブに手をかけるよりも早く水瀬が動き、扉と彼の間に割って入った。
「やだなぁ先輩。ここは私の部屋でもあるんですよ?」
「は……?」
酒のせいか頭の回らない黒戸の腕を掴み、扉を開く勢いそのままに、部屋へとなだれ込む。
「ほら、先輩荷物貸してください、片付けるんで。あんまりよく分かってないんですか? 飲みすぎですよ。それとも、私にお世話して欲しいとか?」
「まっ……! おい、なんで同室? ダメだろ、一応男と、女で」
大して広くもない部屋で、目の前のダブルのベッドがやけに存在感を放っている。
何とも無さげな水瀬とは対照的に、黒戸は今の状況に目眩がしそうだった。
「~~~~フロントに言ってもう一部屋」
「無理ですってー。今日金曜だしなんとかってイベントのおかげで、この辺りのホテル満室なんですよ。ここだって、たまったまキャンセルが出て取れたんですから」
「なら漫喫にでも」
「漫喫も同じですよ~」
唖然と立ちつくす黒戸を横目に、水瀬はここに来る前にコンビニで買った飲み物などを机に並べている。
そして鞄から、手のひらサイズの缶を取り出した。
「はい、どーぞ。先輩結構飲んでましたよね? ウコンです。それ飲んだらお風呂行ってきてくださいよ」
「風呂っておまえ……」
「え……やだ、先輩何考えてるんですか? えっち♡」
振り返り、腕で胸を隠すような格好をキメる水瀬にげんなりとして、黒戸は深いため息を吐いた。
「うっざ……」
「うわー失礼! でも先輩、さっきの居酒屋ですっごい油のにおいが服とか髪に付いちゃって臭いますよ。私も入りたいんで先に行ってください。もうこうなったら朝まで飲みましょう! お酒買ってきますよ。それなら安心でしょ?」
「おま……はぁ、もう酒はいらねぇ。既に飲み過ぎだ」
身の危険を感じるのは女のお前だろうと言いかけて諦め、水瀬に押しつけられたウコンを一気に飲み干した。
「うぇ、ウコンってこんなだったっけ? なんかまず……」
「あー、あんま冷えてなかったからですかね? あ、ガウンそこにありましたよ」
「ガウンて……」
そんな頼りないもの、と思いながらも、酒の回った頭でこれ以上水瀬と言い合うのは面倒になってきた。
黒戸は水瀬が指さしたガウンとタオルを手に取って、バスルームへと進む。
「私のことは気にせずに、ごゆっくりどうぞ~」
「……言われなくてもそのつもりだわ」
バタン! と思わず大きな音をたてて扉を閉めた。どうしてこうなったのだろうかと、黒戸は頭が痛くなる思いがしたけれど、酒のせいだと諦める。
渡されたカードキーと同じ番号の部屋の前に立ち、黒戸はなぜか後ろにピッタリと付いてきている水瀬を振り返る。
「えーっと、俺はこれで。お前の部屋は……隣か?……あ、そうだ、明日は休みだし、ゆっくり帰るわ。こっからは別行動って事で」
じゃ、と背を向けてカードをかざす。
ピッと短い電子音が聞こえた直後、黒戸がドアノブに手をかけるよりも早く水瀬が動き、扉と彼の間に割って入った。
「やだなぁ先輩。ここは私の部屋でもあるんですよ?」
「は……?」
酒のせいか頭の回らない黒戸の腕を掴み、扉を開く勢いそのままに、部屋へとなだれ込む。
「ほら、先輩荷物貸してください、片付けるんで。あんまりよく分かってないんですか? 飲みすぎですよ。それとも、私にお世話して欲しいとか?」
「まっ……! おい、なんで同室? ダメだろ、一応男と、女で」
大して広くもない部屋で、目の前のダブルのベッドがやけに存在感を放っている。
何とも無さげな水瀬とは対照的に、黒戸は今の状況に目眩がしそうだった。
「~~~~フロントに言ってもう一部屋」
「無理ですってー。今日金曜だしなんとかってイベントのおかげで、この辺りのホテル満室なんですよ。ここだって、たまったまキャンセルが出て取れたんですから」
「なら漫喫にでも」
「漫喫も同じですよ~」
唖然と立ちつくす黒戸を横目に、水瀬はここに来る前にコンビニで買った飲み物などを机に並べている。
そして鞄から、手のひらサイズの缶を取り出した。
「はい、どーぞ。先輩結構飲んでましたよね? ウコンです。それ飲んだらお風呂行ってきてくださいよ」
「風呂っておまえ……」
「え……やだ、先輩何考えてるんですか? えっち♡」
振り返り、腕で胸を隠すような格好をキメる水瀬にげんなりとして、黒戸は深いため息を吐いた。
「うっざ……」
「うわー失礼! でも先輩、さっきの居酒屋ですっごい油のにおいが服とか髪に付いちゃって臭いますよ。私も入りたいんで先に行ってください。もうこうなったら朝まで飲みましょう! お酒買ってきますよ。それなら安心でしょ?」
「おま……はぁ、もう酒はいらねぇ。既に飲み過ぎだ」
身の危険を感じるのは女のお前だろうと言いかけて諦め、水瀬に押しつけられたウコンを一気に飲み干した。
「うぇ、ウコンってこんなだったっけ? なんかまず……」
「あー、あんま冷えてなかったからですかね? あ、ガウンそこにありましたよ」
「ガウンて……」
そんな頼りないもの、と思いながらも、酒の回った頭でこれ以上水瀬と言い合うのは面倒になってきた。
黒戸は水瀬が指さしたガウンとタオルを手に取って、バスルームへと進む。
「私のことは気にせずに、ごゆっくりどうぞ~」
「……言われなくてもそのつもりだわ」
バタン! と思わず大きな音をたてて扉を閉めた。どうしてこうなったのだろうかと、黒戸は頭が痛くなる思いがしたけれど、酒のせいだと諦める。
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