上 下
6 / 11

06 恋の悩み

しおりを挟む
「はぁ……」

 フレッドと恋人になったあの夜から早一ヶ月。すっかり秋も深まり、昼間でも薄手の外套が必要な季節になってきた。
 ユフェは親友ミミと、いつもの中庭で昼食をとっている。

「どうしたのユフェ、ため息なんてついちゃって。あんたはラブラブな彼氏といちゃいちゃハッピー生活を送ってるところでしょうよ。あ、もしかして昨日、激しすぎて寝かせてもらえなかったとか?」
「ちょ……! こんなところでなに言ってんのばかなの?! そんなわけないでしょ」
「えぇ~? でも寝不足でしょ? ちょっと隈できてるわよ」

 ニヤニヤと揶揄うような視線を受け流し、ユフェはベーグルを頬張った。瑞々しいレタスとチーズ、そしてベーコンは相性抜群だが、いかんせん肉が厚切りすぎて食べづらい。次からは薄切りにして枚数を多くしよう。

 フレッドとは彼の家で半同棲状態に陥っている。時間の合う日は一緒に帰り家事をして、同じベッドで眠り揃って出勤する。
 大好きな人と一緒にいられる時間が増えるのは嬉しい。毎朝偶然を装い、鉢合わせるようにと計算する必要もなくなったし、フレッドはユフェをことさら大事にしてくれる。

「……まぁ、確かに独りのときより睡眠時間は短くなったかもしれないけど」
「なになに悩み? このミミさんに聞かせてごらんなさいよ」

 完全に面白がっている様子だが、実は頼りになる親友だったりする。何度「そいつはダメ男だからとっとと切れ」とバッサリ言ってくれたことか。

「それが、なんていうか……すっごく、愛されすぎてるの」
「お、おぉん……?」

 予想だにしていない言葉だったのか、ミミからはおかしな声が漏れる。

「いや、わかるよ。え? って感じだよね。でも」

 フレッドは初めて身体を重ねたあの日から、全く変わることなく惜しみない愛を囁き、与えてくれる。むしろ深まっているくらいだ。
 それがとても嬉しくて、幸せであるはずなのだけれど。

「でもね、なにか本音を隠してたりするんじゃないかとか、遠慮してるんじゃないかって、不安にもなって」

 夜だって、毎回おかしくなるほど愛されている。傷つけまいと、丁寧に優しく快楽を植え付けられて、何度も気をやって。
 だが愛されていると実感すると同時に、不安にもなる。

 今までユフェに愛を囁いてきた恋人たちは、付き合い恋人となると、まるで手のひらを返すようにすぐ態度を変えた。
 会う日は三日に一回になり、十日になり、気がつけば他の女性に乗り換えられている。

 フレッドが彼らと一緒だとは思わないけれど、一度覚えた不安は簡単には拭えない。フレッドだって、なにか抑えているような、我慢しているような、そんな素振りを見せる瞬間がある。

「え? それってマンネリ? アイツ、セックス下手なの?」
「い・い・か・た・! というか今そんな話してた?」

 そんなわけないでしょと口を尖らせ、睨みつけた。
 ユフェとて経験豊富なわけではないが、一晩で何度も絶頂に追いやってくる彼の手つき腰つきは、きっと普通じゃない。

(昨日だって、きつく抱きしめながらじっくりと……)

 ミミの言葉に、うっかり昨夜の情事をつぶさに思い出してしまった。すっかりと快楽を教え込まれた身体は彼の厚い胸板の重みを反芻して、子宮がねだるように甘く疼く。

 そんな、口を結び顔を真っ赤に染めあげたユフェを生暖かい目で眺め、ミミは元気よく「ゴチソウサマでした」と手を合わせた。

 その後執務室に戻った彼女たちに待っていたのは大量の書類仕事で、残念ながら残業が確定してしまった。
 ユフェはその旨をフレッドに伝え、仕事に取り掛かる。
 こんな日は、彼が温かい煮込み料理などを作って待ってくれていたりするのだ。簡単なものだけど、と言いながらもきっちりと下準備した肉は臭みもなく柔らかに煮込まれていて、フレッドの愛情深さと料理のおいしさにほっぺが落ちそうになってしまう。
 今日もきっとそんな素敵な時間を過ごせるのだろうと頬を緩め、できるだけ早く彼のもとに帰ろうとペンを握った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

【完結】王宮の飯炊き女ですが、強面の皇帝が私をオカズにしてるって本当ですか?

おのまとぺ
恋愛
オリヴィアはエーデルフィア帝国の王宮で料理人として勤務している。ある日、皇帝ネロが食堂に忘れていた指輪を部屋まで届けた際、オリヴィアは自分の名前を呼びながら自身を慰めるネロの姿を目にしてしまう。 オリヴィアに目撃されたことに気付いたネロは、彼のプライベートな時間を手伝ってほしいと申し出てきて… ◇飯炊き女が皇帝の夜をサポートする話 ◇皇帝はちょっと(かなり)特殊な性癖を持ちます ◇IQを落として読むこと推奨 ◇表紙はAI出力。他サイトにも掲載しています

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】転生したら異酒屋でイキ放題されるなんて聞いてません!

梅乃なごみ
恋愛
限界社畜・ヒマリは焼き鳥を喉に詰まらせ窒息し、異世界へ転生した。 13代目の聖女? 運命の王太子? そんなことより生ビールが飲めず死んでしまったことのほうが重要だ。 王宮へ召喚? いいえ、飲み屋街へ直行し早速居酒屋で生ビールを……え? 即求婚&クンニってどういうことですか? えっちメイン。ふんわり設定。さくっと読めます。 🍺全5話 完結投稿予約済🍺

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

【R-18】初恋相手の義兄を忘れるために他の人と結婚しようとしたら、なぜか襲われてしまいました

桜百合
恋愛
アルメリア侯爵令嬢アリアは、跡継ぎのいない侯爵家に養子としてやってきた義兄のアンソニーに恋心を抱いていた。その想いを伝えたもののさりげなく断られ、彼への想いは叶わぬものとなってしまう。それから二年の月日が流れ、アリアは偶然アンソニーの結婚が決まったという話を耳にした。それを機にようやく自分も別の男性の元へ嫁ぐ決心をするのだが、なぜか怒った様子のアンソニーに迫られてしまう。 ※ゆるふわ設定大目に見ていただけると助かります。いつもと違う作風が書いてみたくなり、書いた作品です。ヒーローヤンデレ気味。少し無理やり描写がありますのでご注意ください。メリバのようにも見えますが、本人たちは幸せなので一応ハピエンです。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しております。

処理中です...