初対面の不愛想な騎士と、今日結婚します

絹乃

文字の大きさ
上 下
76 / 77
番外編

21、おかえりなさい【1】

しおりを挟む
 ずぶ濡れの俺は、なんだか湿っているカーリンを肩車しながら帰路についた。
 抱っこするよりも、この方がカーリンが濡れないからだ。

 結局、腰から下も水に濡れてしまったフォンスは、そのまま家に戻った。
 申し訳ないことをした。
 せっかくの長期休暇の初日に、うちの娘の暴走に巻き込んでしまって。

「お父さまぁ、高いねぇ」
「うん、高いな」
「カーリンが一番高いよ」

 うん。道行く人が全員、俺たちを振り返って見ているよな。君は、好奇の視線を気にしないんだな。たくましくて結構だ。

 カーリンはとても楽しいようで、両腕を空に向かって伸ばし、てのひらや指を大きく開いている。

「おひさまが、あったかいの」

 はいはい。良かったね。
 まだ散歩に出てから、さほども時間が経っていない。レナーテに気づかれたら、きっと心配するだろう。
 カーリンが湖に落ちそうになったなどと言ったら、卒倒するかもしれない。

「いいか、カーリン。お母さまに見つからないように、そーっと家に入るんだぞ」
「どうして?」

 君ね、基本的に声がでかいんだよ。
 
「お母さまは具合がよくないんだ。カーリンの心配をしたら、よけいに疲れてしまうだろ」
「……うん」

 カーリンは声を落として、うつむいた。俺の頭に置いた手に、きゅっと力が入っている。
 お、カーリンがしょぼんとした。やはり、レナーテのことが大好きで心配なんだな。
 
 さて、俺の考えた手順はこうだ。
 まず裏庭から家に入る。当然、リタは「まぁぁっ! どうなさったんですか旦那さま、カーリンさま」と大声を上げるだろうから。
 俺がリタの口を手で塞いで、黙らせる。

 きっとリタはもがくだろう。俺の手を外そうとするに違いないから、肩から身を乗り出したカーリンがさらにリタの口を塞ぐ。

 ちょっと犯罪っぽくなったな。
 まぁいい。その隙に、事の次第をリタに説明して、そのまま風呂場へ直行だ。
 俺は可愛くないが、カーリンの愛らしさで少々の手荒なことはリタも免除してくれるだろう。
 いいなぁ、可愛く生まれるのは。

 いや、そうではなくて。手順の確認だ。さすがに水は冷たいから、急いで湯を沸かす。
 そしてレナーテが眠っている間に、カーリンと風呂に入って、何事もなかったかのように乾かしてやる。
 よし、問題ない。

 薄荷色の低い門と、木々の緑に覆われた庭が見えてくる。

「はやくー、はやくー」と、何故かカーリンが頭上から急かしてくる。しかも、足をぶんぶんと動かして。

「こら、揺らすなって」
「だって、待ってるもん」

「なにが……」と問いかけた俺の目に、門の内側に立つレナーテの姿が映った。

「おかえりなさい、あなた。カーリン」
「レナーテ!」
「うわー、おちるっ。もっともっと」

 きゃあきゃあと頭上で騒ぐカーリンの両足を握りしめ、俺はレナーテの元へと駆けた。
 たぶん我が娘は、足を掴んでいなくてもちゃんと俺の頭にしがみついていることだろう。そういうバランス感覚の良さは、逞しいな。
 レナーテにも分けてやってくれ。

「だめじゃないか。起きたりしたら」
「大丈夫ですよ、よく眠りましたから。それに朝食もいただきました」

 レナーテは髪をゆるく三つ編みにし、ワンピースの上にカーディガンを羽織っていた。
 俺が残した痕が見えないように、ワンピースのボタンを一番上まで留めている。

 微笑んで俺に手を振ってくれていたレナーテだが、俺の服も髪もびしょ濡れなのを見て、目を丸くした。

「あー、カーリンは無事だから。安心しなさい」
「でも、エルヴィンさまが。いったいどうなさったの?」

 うん、何から説明したらいいだろうな。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...